Scene:5 動き出した闇
シンジ達が村外れに着くと、そこはすでに乱戦状態になっていた。
二十人程の盗賊団に対して、四十人余りの村人が応戦に当たっている。
勿論、その中にはルークとミリーナの姿もあった。
「これは‥‥ちょっと、中へは入れないね」
シンジが戦いの様子を見て言った。
確かに、こんなに敵味方が入り乱れている所にあまり顔の知られていないシンジ達が加われば、敵に間違われ兼ねない。
まあ、盗賊団にシンジ達の様な子供がいるのか、と言われればそれまでだが。
「でも、このままじゃ収まりがつきそうも無いわよ」
アメリアの言う通り、状況はほぼ膠着しかけていた。盗賊一人に対して、
村人が二〜三人で戦っていると言う構図になっているが、如何せん戦いに慣れていない者ばかりである。
どうしても、相手を倒す所まで持って行けないのだ。逆に、ルークとミリーナには四〜五人の相手が掛かっているが、
二人は互角の戦いを繰り広げている。
「へえ、あのルークってオジンも結構やるじゃない。あれだけの人数を相手に互角の戦いしてるわ」
「アスカ、感心してる場合じゃないよ。何とかしなくちゃ」
「でも、どうするのよ?」
「う〜ん、どうしようか。アスカ、何かいい知恵は無い?」
「そうねェ‥‥あ、そうだ。みんな、ちょっと集まって」
アスカは、少し考え込むとすぐに何かを思い付き、他の三人を呼び寄せた。
「何、アスカ?」
「いい?ゴニョゴニョ‥‥」
「ええっ!?それはマズイんじゃ‥‥」
アスカの言葉に、シンジが顔色を変える。アスカはそれをジト目で見て、
「何よ、じゃあ他に良い方法でもあるの、シンジ?」
「う、そ、それは‥‥」
何も考え付かなかった。
レビテーション
「じゃキマリね。さ、行くわよ――浮 遊!」
アスカに続いて、他の三人も浮遊の呪文を唱えて浮かび上がり、村の入口にある物見櫓の上に飛び上がる。
「さーて、それじゃやりますか」
そう言うと、アスカは呪文を唱え始めた。
光よ
我が手に集いて閃光となり
深淵の闇を撃ち払え
エルメキア・ランス
「烈閃槍!」
しゅぃぃぃん
「おがぁ!」
アスカの放った魔法の閃光が、下で戦っている盗賊の一人を打ち抜いて昏倒させる。
「まず一人!」
エルメキア・ランス
それを合図に、四人は下へ向かって烈閃槍を乱射し始めた。この術には直接的な殺傷能力は無いが、
相手の精神に直接ダメージを与える為、普通の人間が一発でも当たると暫くの間寝込む事になる。
一応シンジ達は盗賊だけを狙っているが、この乱戦では村人に当たらないとも限らないので、
取り敢えず誤射しても差し障りの無い(のか?)この方法を採ったのだ。驚いたのは、下で戦っていた者達である。
特に盗賊団の方は、上から青白い光が飛んで来て次々と仲間が倒されて行くのでパニックになった。
「なんだこりゃあ!?」
ルークも、今まで戦っていた相手の半分がこの攻撃に倒れたので、残りを倒して光の飛んで来る方向を見上げた。
「あ、あいつらか」
エルメキア・ランス
物見櫓の上から烈閃槍を乱射するシンジ達の姿がルークの目に入った。
勿論、魔法の使えるルークには術の種類が何であるかも解っている。
「まあ手としちゃ悪かねえが、無茶しやがるなあ」
「でも、この乱戦を考えると良い判断よ。あの子達、中々やるわね」
何時の間にか横に来ていたミリーナが、感心した様に呟いた。
「そうかぁ?誉め過ぎだろう、そりゃあ」
二人がそんな会話を交わしている間にも、盗賊は――村人も何人か混じっているが――次々と倒れて行き、やがて
立っているのは頭目らしい男只一人になった。
「さーて、残りはお前一人みてぇだな。どうする?」
ルークが剣を構えてその男に近づいて行く。
「へっ、お、俺達がこれで全部と思ったら大間違いだぞ。こ、こっちには、まだ隠し玉があるんだ」
「それって、オーガを連れた魔道士の事かしら?」
自信たっぷりに(声は裏返っていたが)言い放った頭目だったが、物見櫓から降りて来たアスカの言葉に驚いた様な表情になった。
「な、何でそれを‥‥」
「そいつなら、あっちでノビてるわよ」
「なっ‥‥!?」
「へえ、別動隊がいたのか。それにしても、結構やるじゃないか、お前ら」
「まあね――で、他にも何かあるのかしら?」
「う‥‥う‥‥チ、チクショー!」
追い詰められた頭目は、剣を振り上げるとアスカ目掛けて切り掛かった。しかし、アスカは余裕の表情である。
「いい根性してるじゃない。でも、百万年早いわよ!」
前に出ようとしたルークを制止して、アスカは呪文を唱え始めた。
総ての心の源よ
尽きること無き蒼き炎よ
我が魂の内に眠りしその力
我が身となりて
深淵の闇を撃ち払え
ふと横を見ると、いつの間にか隣に来ていたアメリアが同じ呪文を唱えている。二人は顔を見合わせると、ニッコリ笑って頷き会った。
そして、呪文が完成する。
ヴィスファランク
「「霊王結魔弾!」」
二人の拳が魔法の力を纏って輝き出す。それに構わず――と言うより、何だか解らないので気にせず突っ込んでくる頭目。
「行くわよ、アメリア!」
「ええ!」
「「ジャスティス・ダブル・ファイナル・パーンチ!」」
どがげしょめしゃぁっ!!
「にょえげわああぁぁぁぁー」
二人の魔力を込めたパンチが顔面にヒットした頭目は、10メートル以上も吹っ飛ばされて白目を剥いていた。
「「「「「おー!」」」」」
回りで見ていた村人から歓声が上がる。アスカとアメリアはそちらを向くと、左手を腰に当て右手で高々とVサインを掲げた。
「「ぶいっ!」」
* * * * * * *
「リリスがガイナの村を出ました」
「何っ、それは本当か」
「はい。おそらく、セイルーンで例の祭事が行われるものと思われます」
「そうか。もう、その様な時期になっておったか。それで、護衛は?」
「例の娘と、セイルーンのフィリオネル王子の娘アメリア、それにゲンドウの息子の三名だけとの事です。目立つのを避けての配慮かと」
「それならば、奪うのは容易いな」
「仰せの通りです。これで我らが悲願も叶いましょう」
「うむ。行ける者はおるのか?」
「この日の為に修練を積んだ者達が、多数控えております」
「よかろう。すぐに手配しろ」
「はっ、御心のままに‥‥」
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