Scene:3 アクスの村
「ところでさあ、シンジ」
しばらく歩くとアスカがシンジに声をかけた。
「何、アスカ?」
「あんたたち、セイルーンに行くんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃ、道が違うんじゃない?こっちはハコネ・シティへ行く道よ」
アスカの言う事は尤もで、シンジ達の歩いている街道はセイルーンとは反対の方向へ向かう道だった。
「ああ、その事か。ほら、今回は『リリス』を持ち出すだろ?
だから、聖導教会のコウゾウ師に報告しておかなきゃならないんだよ」
聖導教会を治めるコウゾウ師はジンジの両親の師であり、ゲンドウを含めた付近一帯の神官の最上位でもある。
「ええ〜、ハコネ・シティに行くのぉ〜」
シンジの言葉に、アスカは思いっきりイヤそうな顔をした。何か、ハコネ・シティには行きたくない理由があるようだ。
「しょうが無いよ、そう言うキマリなんだから」
「ぶー」
シンジの言葉に頬を膨らませるアスカ。
(なんか、可愛いな(^^))
口に出して言ってやれ、シンジくん。
「だけど、今日中に着くのはとても無理ね。今日の宿はどうするの?」
シンジのすぐ後ろを歩いていたレイが訊ねた。実際、ハコネ・シティまでは三日程の道のりである。
シンジだけならともかく、三人も女性がいるのだから野宿と言う訳にはいかないだろう。
「うん、アクスの村に泊まろうかと思ってるんだ」
「えっ、アクスの村に泊まるの?やったー」
シンジの言葉に、一転してアスカが明るい声を上げた。
「うれしそうね、アスカ」
「まあね。あそこにはアタシの親友がいるのよ」
アメリアの問いにニコニコ顔で答えるアスカ。
「さ、早く行きましょ」
先程の不機嫌さはどこへいったのか、ご機嫌モードのアスカは先に立って歩き出した。
「やれやれ‥‥」
苦笑しながら、シンジ達も後に続く。その後は何事も無く、日が傾き始める頃にはアクスの村が見えて来た。
「シンジ、ほらアクスの村が見えたよ」
「アスカ、そんなに急がないでよ」
ところが、村の入口に着くとシンジ達は数人の男達に足止めされてしまった。
身形からすると、アスクの村人の様だが、皆手に槍や剣等の武器を携えている。
「何者だ。この村に何の用がある」
「えっとぉ、今日はここに泊まろうかと思ってるんですけど‥‥」
つんつん
半分面食らいながら答えるシンジの背中をレイがつついた。
「何、レイ?」
「何か様子が変じゃない?ここ、こんな警備なんかしていなかったハズよ」
「うん、そうだね。何かあったのかな」
「何をヒソヒソ話している。怪しいやつらだな」
リーダーらしい男がそう言うと、皆が武器を構えた。
「あんたらバカァ?子供相手になに考えてんのよ!」
ようやく休めると思っていたところを邪魔されたアスカが切れかかる。
あわててシンジが止めようとすると、別の方から救いが現れた。
「なんや、シンジやないか。こんな所で何しとるんや?」
そう声を掛けて来たのは、シンジの稽古仲間のトウジだった。
トウジはアスクの村の者だが、ガイナの村までネルフ流格闘術を習いに来ているのだ。
「なんだトウジ、この連中と知り合いか?」
「ああ、コイツはワイの親友のシンジや。ガイナの村のゲンドウのおっちゃんの息子や」
「ゲンドウ神官長の‥‥そいつはすまん事をしたな。さ、通ってくれ」
男はそう言うと、道を開けてシンジ達を通した。
「さ、行こうで。こんな時間に来たって事は、今日は『ツバサ亭』に泊まるんやろ?」
トウジが先に立って歩き出すと、シンジ達もその後に続いた。
「助かったよ、トウジ。でも、何でこんなに物々しい警備をしてるんだい?前はこんなじゃなかったハズだけど」
「何でも、この近所の村を盗賊団が荒らしてるそうなんや。それでここも、な」
少し歩いて、一行は村の中程にある宿屋に入った。表には『ツバサ亭』と書かれた看板が下がっている。
中に入ると、一階の食堂で給仕をしていた少しそばかすのあるお下げ髪の少女が駆け寄って来てアスカの手を取った。
「アスカじゃない、久し振りー」
「ヒカリ、元気してたー?」
「ヒカリさん、こんにちは」
「こんにちは、お久し振り」
「シンジ君もレイさんも久し振りね。お元気そうでなによりだわ」
ヒカリは、この『ツバサ亭』の三人姉妹の次女で、アスカの大親友でもある。
「ヒカリ、後は頼むで。ワイは、まだ警備の手伝いをせなアカンから」
「あ、ありがとうトウジ。あ、あの‥‥き、気をつけてね」
「お、おう、任しとき。――じゃあな、シンジ」
「ああ。ありがとうトウジ」
トウジはシンジ達に別れを告げると『ツバサ亭』から出て行った。
「ふ〜ん、相変わらずラブラブね、ヒカリ」
「な、何を言うのよアスカ。そ、そんな事ないわよ――ところで、こちらの方は?」
「アメリアよ。私達、これからハコネ・シティに寄った後、彼女と一緒にセイルーンに行くの」
「アメリアです、よろしく!」
「ヒカリです、ここの娘なの。よろしく、アメリアさん――じゃ、今日は泊まって行くのね?」
「うん、お願いね、ヒカリ。アタシ、お腹が空いちゃった」
「はいはい、すぐに用意するわ。席に着いてて」
ヒカリは、クスッと笑うと食事の用意をしに厨房へ入って行った。
その後、空いているテーブルに座った四人だったが、シンジだけが何故か難しい顔をしている。
「どうしたの、シンジ君」
「何でも無いよ、レイ。ただ、ちょっとトウジの言っていた盗賊団の事が気になってね」
「でも、アタシ達が心配しても仕方がないじゃない。もしも襲われたら、その時はアタシが返り討ちにしてやるわよ」
アスカの言葉に、苦笑するしかないシンジだった。やがて――
「はーい、お待たせー」
ヒカリと妹のノゾミが料理を運んで来て、シンジ達のテーブルに並べるとあたりに良い香りが広がった。
「ん〜、美味しそう。いっただっきま〜す」
「「「いただきまーす」」」
一日中歩いてお腹の空いていた四人は、早速『ツバサ亭』自慢の料理に舌鼓を打った。
「――ところでさぁ、ヒカリさん。さっきトウジに聞いたんだけれど、この辺りを盗賊団が荒らしてるってホントなの?」
食事が一段落するとシンジがヒカリに訊ねた。
「ああ、その話しね。本当よ、もう村が三つ四つ襲われたらしいわ。
何でも、盗賊団のなかに魔道士がいて、それがモンスターを使うとかで、どこの村も結構な被害を出しているらしいわ」
「許せませんね。そんな非道な魔道士は、この私が正義の鉄槌を下してあげます!」
と、正義に燃えるアメリアだが、頬っぺたにご飯粒が付いているのでいまいち迫力に欠けていた。
「でも本当に襲って来たら、村の人達だけじゃ大変じゃない?」
レイが訊ねた。確かに、魔道士までいるのでは村人だけでは防ぎきれないだろう。
「ああ、それなら大丈夫。少し前に来た二人連れの旅の傭兵を村長が雇ったの。結構、凄腕なんですって」
「旅の傭兵ねェ。そんな連中で平気なのかしら」
アスカは、今ひとつ信用していないようだ。すると、
「悪かったな、そんな連中で」
「あ、ルークさん、ミリーナさん、お帰りなさい」
入口に一組の男女が立っていた。どうやら、今の話しに出ていた傭兵らしい。
二人とも二十歳前後で、男の方は黒い短髪、長身で鋭い目つき、ライト・アーマーを身に纏っている。
一方、女の方は長い銀髪をポニーテールに纏めた長身の美人で、革のショルダー・ガードを身に付けていた。
ヒカリにルークと呼ばれた男の方が、不満そうな顔をしている。どうやら、アスカの言葉が聞こえたようだ。
「ホントの事を言っただけじゃない。流れ者の傭兵なんか信用できるハズないでしょ」
「なにぃ。このガキ言わせておけば!」
「なによ、オジン。文句あるの?」
「やめなよ、アスカ」
喧嘩腰になったアスカを、あわててシンジが宥める。
「ルーク、あなたも大人気無いわよ」
「う、わ、解かったよ」
ミリーナ言われると、ルークも大人しく引き下がった。どうやらミリーナには頭が上がらないらしい。
「あ、す、すぐにお食事の仕度をしますから、お席に着いててくださいね」
とりあえず、場が収まるとヒカリは食事の仕度をしに厨房へ戻って(逃げて)行った。
「さ、僕達は部屋へ行って休もう。明日も歩くからね」
シンジの言葉で、四人はそれぞれあてがわれた部屋に上って行った。
To Be Continue
「小説の部屋」へ戻る