Scene:2 街道にて
ガイナ村を出発したシンジ達三人は、川沿いの街道をハコネ・シティへ向かって歩いていた。
「‥‥へぇ、じゃあレイさんは魔術が使えるけど、シンジ君はほとんどできないんだ」
三人とも同じ年齢と言う事で、すぐに意気投合して会話がはずんでいた。
レビテーション
「僕はもっぱらネルフ流格闘術に専念したからね。でも、浮 遊とかちょっとした術なら使えるよ」
「私は精霊魔術と白魔術。見習だけど神官だから黒魔術は使えないわ」
「ふうん。じゃ、私と同じ位ね」
などと、他愛の無い(?)お喋りに興じながら二時間程歩いたとき、茂みの中からいきなり数匹のゴブリンが飛び出して来た。
「ゴブリン?なんで、こんな街道沿いに」
元来、ゴブリンは山奥で暮らしており街道には滅多に出没する事はない。
見ると、ゴブリン達は手に簡単な武器を持っている。
「こいつら、盗賊ゴブリンだ」
旅人を襲うゴブリンの盗賊がいる事はシンジも聞いていた。
「二人とも下がって!」
シンジは二人を庇って前に出たが、アメリアがそれを引き止めた。
「待って、シンジ君。こう言う輩は少し驚かせれば逃げて行くわ」
そう言うとアメリアは呪文を唱え始めた。
バースト・ロンド
「爆炎舞!」
ずどどぉぉん!
ゴブリン達の周囲で無数の爆発が起きる。見た目程破壊力のある術ではないが、
爆発に驚いたゴブリンはあわてて森の中へ逃げて行った。
「ねっ。さあ、行きましょ」
シンジ達が再び歩き出そうとしたとき、突然後ろの方の森の中が騒がしくなった。どうやら先程のゴブリンの様だ。
しかし、そのゴブリンの声に混ざって人の声らしきものも聞こえて来る。
「誰か、さっきの連中に襲われてるんじゃない?」
「そうかもしれないね」
レイの言葉にシンジも頷いた。
「危機に陥っている人がいるのに見過ごすして行くなんて、天が許しても私の正義の心が許しません。助けに行きましょう!」
何だか良く分らない台詞に拳を握り締めて目に炎を燃やすアメリアは、騒ぎの方へ向かって走り出した。
「あ、アメリアさん!」
シンジ達もあわててアメリアの後を追う。と、
「どりゃあああ!」
いきなり、気合と供に一匹のゴブリンがシンジ達の前に吹っ飛んで来た。
見ると、森の中の少し開けた場所で数匹のゴブリンを相手に一人の少女が立ち回りを演じている。
青い瞳に端整な顔立ち、身体の動きに会わせて靡く栗色のロング・ヘアが魅力的な美少女だ。
「ア、アスカ!?」
それは、シンジ達の幼馴染みのアスカだった。
「あら、シンジじゃない。こんなとこで会うとは奇遇ね‥‥っと!」
どげっ!
ニッコリ笑って、飛び掛ってきたゴブリンを蹴り飛ばすアスカ。
彼女もネルフ流格闘術の使い手だが、シンジとは異なり徒手格闘系の技に長けている。
「奇遇って‥‥」
「多分、嘘ね。きっと、村を出た時から私たちの後を憑けて来たんでしょう」
頭を抱えるシンジの横でレイが冷静に分析する。村から二時間もかかる場所で出会って偶然も無いものだ。
それに、アスカの格好はどう見ても旅装束にしか見えない。
「何か言った、レイ?」
「べつに、何も」
「なんか、ムカつくわねー。まあいいわ。それよりシンジ!か弱い女の子が一人で戦ってんのよ、助けようとか思わないの?」
(か弱い?誰が?)
と思ったが、敢えて口には出さない(出せない)ジンジであった。
「やれやれ」
半ばあきれながらシンジが加勢しようとすると、レイがそれを制した。
「待って、シンジ君。私に任せて」
そう言うと、レイは呪文を唱え始めた。
大地に棲む精霊たちよ
命約の言葉によって
我が意に従い力となれ
「え、ちょ、ちょっと、レイ。それは‥‥」
レイの使おうとする魔法に気付いて、シンジが止めようとしたが、
ディル・ブランド
「炸 弾 陣」
ちゅどぉぉぉぉん!
「んきゃああああああああーーーー!」
「な、なんか悲鳴が今聞こえなかった?」
「問題無いわ」
ますます頭を抱え込むシンジの横で、平然と答えるレイ。
(レイさんて、誰かに性格が似てるかも(^^;)
そんなレイに、ちょっぴり怖いモノを感じたアメリアだった。
「‥‥レイ〜、あんたね〜」
暫くすると、レイの魔法に吹っ飛ばされてヨレヨレになったアスカが戻って来た。
「あんた、わざとアタシを巻き添えにしたでしょう!」
「そんなつもりはないわ。ちょっとしたミスよ」
「まあまあ、アスカ。レイだって、悪気があった訳じゃないんだから‥‥」
険悪になりかかった二人の間にシンジが割って入る。
「アタシには、充分に悪気があったように思えたけどね」
「と、ところでアスカ。なんで、こんな場所に?」
聞かなくても分る事だが、取り敢えず場を繋ぐ為に訊いてみる。
「ん?偶然よ、ぐーぜん。それより、アンタたちセイルーンに行くんでしょ?
護衛がシンジだけじゃ心許無いでしょうから、アタシが一緒に行ってあげるわ」
((やっぱり‥‥))
溜息をつくシンジとレイだった。
「あ、あの〜シンジ君、こちらは?」
それまで呆気にとられていたアメリアが、ようやく立ち直って口を開いた。
「ああ、彼女は僕とレイの幼馴染のアスカ――アスカ、こちらはセイルーンのアメリアさん」
「よろしく。アタシの事はアスカでいいわ。“さん”付けされるのは、好きじゃないの」
「よろしく、アスカ。私の事もアメリアでいいわ」
そう言って、アメリアは差し出されたアスカの手をしっかり握った。
「ところで――」
いきなり、アスカはレイのそばに寄ると、耳元に口を近づけ小声で囁いた。(仲が悪い訳では無いらしい)
「――アンタ、帰りはシンジと二人っきり、とか考えてたんでしょうけど、そうは行かないわよ」
「な、何を言うの。そんな事、考えていないわ‥‥」
赤くなりながら言っても、説得力は無い。
「?どうしたの、レイ。顔が赤いよ?」
「な、何でもないわ。さ、シンジ君、早く行きましょう」
そう言って歩き出したレイの後を、シンジ達はあわてて追い掛けた。
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