ちょっとしたコラム      
               
06.8.12付


1980年 広島カープVS近鉄バファローズ(後編)

 近鉄の2勝1敗で迎えた10月29日の第4戦は広島が山根、近鉄は前日にリリーフで敗戦投手になった井本の先発で始まった。第1戦そして第4戦の先発は井本にとって予定通り。ただし、第3戦のリリーフがなければの話である。前日の敗戦が尾を引いたか、井本は立ち上がりに掴まった。先頭の高橋に二塁打を打たれ、一死後に3番・ライトルにライトスタンドへ放り込まれて2点を失った。

 前年のシリーズでも2勝を挙げて自信を付けていた山根はこの2点をバックに好投を続けた。3回まで四球1つのノーヒットピッチング。4回先頭の平野に初安打を許すが、後続を断ちゼロを並べた。一方の井本も2回以降は立ち直ってヒットを許さない。7回二死後に四球とこの試合3本目のヒットでピンチを招いたが、続く山根をライトフライに抑えた。

 だが、この日の山根は付け入る隙を与えず、結局2安打1四球で許した走者は3人のみという素晴らしい投球で近鉄打線を完封した。対する井本も4試合で3登板という酷使の中で3安打完投と互角に渡り合ったが、ライトルへの不用意な一球に泣いた。シリーズは2勝2敗のタイとなった。

10月29日・第4戦
広島 2 0 0 0 0 0 0 0 0   2
近鉄 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

勝ち 山根 1勝   負け 井本 2敗

本塁打 ライトル3号


 10月30日の第5戦は広島が池谷、近鉄は鈴木の先発で始まった。26日の第2戦で先発した2人の中3日での再戦である。試合は序盤から動いた。1回裏、近鉄は先頭打者・平野が四球で歩くと続く2番・小川の二塁打であっさり先制。2回表の広島は5番・水谷が2号ソロを放ち、すぐに同点。しかし近鉄もその裏二死1・2塁からまたも小川が2点ツーベース。さらに3番・佐々木もタイムリー二塁打で小川を返し、3点の勝ち越し。ここで早くも池谷は降板し、2番手・大野がマウンドへ。

 広島は3回表に衣笠のタイムリー二塁打でまた1点を返すが、以後は立ち直った鈴木の前に凡打の山を築いた。4回から9回までの6イニングで出した走者は7回2死からセンター前ヒットしたデュプリーただ一人。反撃のきっかけさえ掴めなかった。一方の近鉄打線も好投する大野の前にゼロを並べたが、7回裏にようやく捉えて佐々木・有田のタイムリーで駄目押し点を加えた。

 結局鈴木は4安打2失点で2試合連続の完投勝利、2年連続でシリーズ開幕投手に指名されなかった悔しさを晴らす力投だった。これで近鉄は3勝2敗と悲願のシリーズ制覇に王手を掛けた。「今度こそ」、その思いを胸にナインは広島へと移動した。

10月30日・第5戦
広島 0 1 1 0 0 0 0 0 0   2
近鉄 1 3 0 0 0 0 2 0   6

勝ち 鈴木 2勝   負け 池谷 2敗

本塁打 水谷2号


 11月1日の第6戦は近鉄は村田、広島が福士の先発で始まった。第3戦では先発して5回を2安打1失点と好投した近鉄の先発・村田だったが、日本一に王手を掛けたこの日は別人のようだった。1回裏、ヒット2本と四球で一死満塁といきなり大ピンチ。ここで打席には第3戦でも本塁打を喫している水谷。左投手に自信を持っている水谷は初球を狙い打ち。打球は高々と舞い上がってレフトスタンドに飛び込むグランドスラム。一気に主導権を握った広島は、2回裏にも木下のタイムリーで追加点。

 広島の先発・福士は3回まで毎回ランナーを出す苦しい立ち上がりながら、ここを切り抜けるとリズムに乗った。4回から8回までの5イニングは3安打無四球無失点、しかも3安打ともシングルヒットと危なげない投球を見せた。広島は5回裏にも主砲・山本の1発で6-0として楽勝ムード。完封目前の福士は9回に代打・栗橋のソロ本塁打などで2点を失うが完投勝ち。広島が3勝3敗のタイに持ち込んで、シリーズの行方は前年に続き第7戦の結果に委ねられる事となった。

11月1日・第6戦
近鉄 0 0 0 0 0 0 0 0 2   2
広島 4 1 0 0 1 0 0 0   6

勝ち 福士 1勝   負け 村田 1敗

本塁打 水谷3号、山本2号、栗橋1号


 11月2日の第7戦は三度近鉄・井本、広島・山根の先発で始まった。広島は初回に2死満塁のチャンスを逃したが、3回裏にライトルのタイムリー二塁打で先制。5回にも山本のタイムリーで1点を追加した。近鉄は5回まで3安打無得点。第4戦から対山根14イニング無得点を続けたが、6回表にようやく反撃を見せた。一死2・3塁から小川が同点の2点タイムリー。さらに二死後、石渡が勝ち越しの二塁打を放った。

 近鉄・西本監督は5回まで苦しみながらも2点に抑えて来た先発・井本をここで交代させる。2番手でマウンドに上がったのは大エースの鈴木。第5戦の完投勝利から中2日だったが、西本監督は弱小時代から長年チームの屋台骨を背負ってきた左腕に命運を任せたのだ。6回裏の鈴木はデュプリーにヒットを許したもののツーアウトにこぎ付けた。しかしここで迎えた代打・三村の初球にワイルドピッチ。二塁に進んだ走者を三村がライト前ヒットで返し3-3の同点。気落ちした鈴木は高橋、木下にも連打され広島が4-3と逆転に成功した。続くライトルに死球を与えて鈴木は降板。井本・鈴木の2枚看板がマウンドを去り、流れは広島に傾いていた。

 逆転した広島は7回表からすかさずリリーフエースの江夏をマウンドに送った。江夏は7回表をゼロに抑える。勢いに乗った広島は7回裏にも近鉄の3番手・柳田を攻めて衣笠が待望のシリーズ1号2ラン。さらに8回裏にもデュプリーのタイムリー二塁打などで2点を追加した。江夏は9回までの3イニングを1安打に封じてマウンドに仁王立ち。近鉄打線に反撃の隙を与えず、2年連続でシリーズ胴上げ投手となった。

 近鉄・西本監督は2年連続、第7戦で涙を呑み自身8度目の日本一挑戦も、またしても悲願達成を果たす事は出来なかった。広島・古葉監督はセ・リーグでは巨人しか達成していなかったシリーズ連覇で名将の名を上げる事となった。最優秀選手には3本塁打を含む23打数9安打で打率.391のライトル(広島)が選ばれた。その他、優秀選手には第6戦・7戦で連続猛打賞の木下富雄(広島)、完封を含む2勝の山根和夫(広島)、7試合連続安打で打率.346の平野光泰(近鉄)が選ばれ、敢闘賞には打率.391に8打点の小川亨(近鉄)が選ばれた。

11月2日・第7戦
近鉄 0 0 0 0 0 3 0 0 0   3
広島 0 0 1 0 1 2 2 2   8

勝ち 山根 2勝   セーブ 江夏 1勝1敗1セーブ   負け 鈴木 2勝1敗

本塁打 衣笠1号

(この項完)

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