○ますます騒然としてくる世情
-打ち壊しにあうパン屋
-壁にビラを貼る活動家。あたりを注意深く窺い、一目散に去る。
-馬に乗った軍隊に蹴散らされる活動家たち。
-ストンと落ちるギロチンの刃。
軍隊の太鼓が次第に緊張感を高めて。
○ベルサイユ宮・広間
アントワネット「民衆の暴挙は許しません!」
昂然と檄を飛ばすアントワネット。
居並ぶ将校達が緊張の面持ちで聞き入っている。
その中のジャルジェ将軍。
少し後ろの列にオスカルが居る。
アントワネット「何やら近々バスティーユに不穏な動きがあるとの
情報が入っています」
ジャルジェ将軍の後姿を見るオスカル。
背中にオスカルの視線を感じているジャルジェ将軍。
アントワネット「王室や貴族に楯突いた謀叛人どもを
閉じ込めてあるバスティーユを、暴徒どもが
狙うのは予測はされてました。
王室の威光とフランスの平和を脅かすこの動きを見逃す訳にはゆきません」
聞いている将校たち、オスカル。
緊張。
アントワネット「(一同の反応を見て)・・・彼らを武力で叩き潰すのです!」
衝撃の余り、ブルブル震え出すオスカル。
○イメージ
バスティーユ広場。
アンドレが銃弾に倒れる。
ゆっくり、ゆっくり倒れてゆく。
○元のベルサイユ宮・広間
目を閉じるオスカル。
頭の中を「叩き潰すのです」「叩き潰すのです」と
アントワネットの言葉がエコーする。
オスカル「(目を開き、アントワネットを見据え、腹の底から絞り出すような声で)
国民に・・・国民に銃を向けろとおっしゃるのですか?!」
聞き咎めた将校達が一斉にオスカルを注目する。
こうなる事を予想していたかのようにジャルジェ将軍が大きく深呼吸する。
将校たちの、そしてなによりもアントワネットの視線にじっと耐えているオスカル。
「これは御命令なのだぞ!」
「貴様も謀叛人に成り下がったか?!」等の声。
ジャルジェ将軍、苦しい。
凝視するアントワネット。
オスカル、すべての視線をはね返すように顔を上げる。
オスカル「で・・・できま・・・せん」
アントワネット「(信じられないという風に)今、何と?」
オスカル「私には・・・・・・できません!」
どよめく一同。
ジャルジェ「(来るべき時が来たかという詠嘆を込めて呟く)オスカル・・・」
もう誰もオスカルを止められない。
オスカル「軍隊とは・・・国民を守る為のものであって・・・
こ、国民に銃を向ける為のものではございません」
「この謀叛人が!」「逮捕しろ!」との声が
あちこちから上がる。
アントワネット「(全員に)静まりなさい!
(オスカルを見据えたまま高圧的に)私が納得させます」
○同・アントワネットの居間
黄昏ゆく空を、窓辺に並び立ち見つめているオスカルとアントワネット。
アントワネット「オスカル、わかってくれますね」
オスカル「・・・・・・(つらい)」
アントワネット「今、私が生きているのは、もう・・・
愛する子供たちと、女王としての誇りと・・・まだ私を慕ってくれている廷臣たちの為・・・
だけです」
オスカル「それだけではありますまい」
ギクッとなるアントワネット
オスカル「フェルゼンの為と・・・(そこまで言って言いよどむ)」
アントワネット「・・・・・・!」
オスカル「(必死に)おっしゃって下さい。
正直に、包み隠さず、私が心からお任え申し上げていた昔のように・・・」
アントワネット「・・・・・・」
首を横に振る。
しかし、万感胸に迫り空を見上げたアントワネットの頬を一筋の涙が伝わる。
オスカル「私には王后陛下の心をお捉えする事が出来なくなったようです・・・失礼します」
去って行くオスカル
見送っているアントワネット
部屋の扉が重々しく閉まる。
○オスカルが馬に乗って帰って来る。
背後のベルサイユ宮が小さくなり、夕闇の中に溶け込んで行く。
オスカル「(心の中で)さよなら・・・アントワネット様」
感無量で馬の背に揺られているオスカル-
○近衛隊時代のはつらつとしたオスカルを彷彿とさせる肖像画
○ジャルジェ邸・将軍の部屋
物思いに沈んでいるジャルジェ将軍。
扉の方でコトリと音がする。
見るとオスカルが立っている。
目をそらすジャルジェ将軍。
オスカル「父上、私は間違っているでしょうか?お考えをお聞かせ下さい」
ジャルジェ「(グラスに酒を注ぎながら)
わしは王室にそむく事が出来る程、器用な人間ではない」
オスカル「民衆を傷つけよとの命令が下されてもでございますか?!」
ジャルジェ「(苦しそうに酒をあおり)わしは近衛連隊の将軍だ。
すべての貴族が敵にまわり、ひとりになろうともわしは王室をお守りする」
もう一杯苦い酒をあおる。
ジャルジェ「それが軍人としての務めだろう、なあ、オスカル、そうだろう」
オスカル「(父の心情も痛い程分かる)・・・
そんな飲み方をされては体に障ります」
ジャルジェ「・・・・・・」
オスカル「・・・・・・」
ジャルジェ「・・・お前も一人前の口を聞くようになったんだなぁ」
オスカル「(言いにくい)・・・今日、陛下に・・・
官位をお返し申し上げて参りました」
ジャルジェ「何だと!(興奮してブルブル震え出す)」
グラスが床に落ちて割れる。
たじろがないオスカル。
その気迫にジャルジェ将軍の方が背を向ける。
ジャルジェ「(机に手を突き)今まで・・・何の為に育てて来たと・・・(声が震える)」
オスカル、目を伏せる。
ジャルジェ「・・・・・・お前の幸せだけを考えて・・・それで・・・」
オスカル「(つらい)・・・・・・」
ジャルジェ「王家にお仕えする軍人・・・貴族にとってこれ以上の誉は有るか?
何の・・・何の不足があってお前は・・・・・・?!」
オスカル「普通の女性として育っていれば、これ程まで悩まなくて済んだでしょうに・・・
私は男として育てられたからこそ、軍人だからこそ言うのです・・・
フランスを・・・何とかしなければ」
ジャルジェ「言うな!」
オスカル「(構わず)今、貴族がどうの、平民がどうのと、言っている時でしょうか?」
ジャルジェ「(オスカルの言う事も分かる。だが)
親の気持ちが分からんか!」
オスカルを殴り飛ばし、倒れたオスカルから目をそむける。
将軍の目に涙があふれている。
オスカル、ハッとなる。
父の背中が揺れている。父が泣いている。
オスカルの目にも涙があふれる。
オスカル「(弱く)父上。私は-」
ジャルジェ「おのれ、まだ言うか?!」と振り向いて拳を振り上げた時、
アンドレ「お待ち下さい!」
と、飛び込んで来て、ジャルジェ将軍を羽交い絞めにする。
ジャルジェ「うっ!放せ、アンドレ」
アンドレ「放しません」
ジャルジェ「放せ!」
力づくで振りほどく。
アンドレ、オスカルの前に立ちはだかる。
アンドレ「オスカルの、いえ、オスカル様の代わりに、どうか私を」
息を呑むオスカル。
ジャルジェ「それが、お前の気持ちか・・・・・・」
悲しそうな眼差しでアンドレを見つめる。
ジャルジェ「(すべての苦哀をアンドレにぶつけて)
貴様、使用人の分際で身の程も知らずに!」
アンドレを殴る。
吹っ飛ぶアンドレ。
だが又すぐ立ち上がりジャルジェ将軍の前に立つ。
殴るジャルジェ将軍。
飛ばされるアンドレ、立ち上がる。殴る将軍。
飛ばされたアンドレ、立つ。
オスカル「おやめ下さい、父上!」
なおも殴る将軍。
繰り返すうちに息は荒くなり、顔色も青ざめる。
ジャルジェ「馬鹿めが!身分の違いをこえるものがあると思うのか!」
なおも殴り、飛ばされ、立ち上がる。
オスカル「(必死)アンドレが死んでしまいます!」
殴る。立ち上がる。
オスカル「父上!」
と、間に入って止めようとするが、ジャルジェ将軍の腕力に弾き返される。
殴る。立つ。
オスカル「父上!」
割って入るが又、弾き飛ばされる。
ジャルジェ将軍、半分泣きながらアンドレを殴っている。
オスカル、壁に飾ってある剣を取り、ジャルジェ将軍に向ける。
オスカル「父上!」
その語気の激しさにふと手を止めたジャルジェ将軍、
オスカルに気がついて驚く。
さすがに剣を持つ手が震えているオスカル。
ジャルジェ「(悲しく)お前は・・・この父に向かって・・・・・・」
アンドレも意外な成り行きに驚いて立ち上がる。
ジャルジェ将軍とオスカルの長い見つめ合い。
互いの目の中に、父と娘の永遠の別れの予感を読み取った。
ジャルジェ将軍「(アンドレに限りなく優しく)お前が・・・貴族でありさえすれば・・・」
アンドレ「・・・」
ジャルジェ「(オスカルに同様に)自分で・・・選んだ・・・道だ・・・後悔・・・するなよ・・・」
言い置いて去る。
その悲しい後姿。
剣を構えたままのオスカル。
アンドレ「(傷だらけになりながらも、昴然と立ったまま)オスカル・・・お前・・・」
オスカル、呆然と椅子に腰を下ろす。
○深夜のジャルジェ邸
○同・馬屋前
アンドレが音を立てないように馬をひいて出てくる。
オスカルの声「私も行くぞ」
アンドレ「(驚く)・・・」
馬に跨ったオスカルが居る。
オスカル「今日は七月十四日だ、お前の行く所くらい分かっている」
アンドレ「・・・・・・」
オスカル「この暗さの中を、その目で一人で行くのは無茶だ」
アンドレ「(有難い)オスカル!」
馬に跨るアンドレ。
二人、馬を静かに進ませながら、門を出て行く。
○同・居間
窓からジャルジェ将軍が二人の姿を見送っている。
二人が出てしまったのを見届けてから、オスカルの肖像画に視線を移す。
軍神マルスの姿をしたその肖像。
ジャルジェ「(画に話しかける)
お前は本当に行ってしまったのか?
わしは間違っていたのか?
お前を女として育てていればこんな悔いは残さなかったのか?」
りりしいオスカルの肖像
○野原
月光を浴びながらオスカルとアンドレの馬が行く-
○廃屋近くの道
アンドレ、手綱捌きを誤り、馬が停止した拍子にバランスを失って落馬する。
オスカル「アンドレ!」
慌てて馬から下りて駆け寄る。
アンドレの額に血がにじんでいる。
オスカル「やはり、無理のようだな。明るくなるまで少し休んで行こう」
○廃屋・内
たき火が燃えている。
オスカルがアンドレの額の血をぬぐってやっている。
近づく顔と顔。
オスカルの髪がアンドレの鼻さきを掠める。
揺れる二人の影。
アンドレ、突然オスカルの手首を掴む。
ビクッとなり体を硬直させるオスカル。
見つめ合うオスカルとアンドレ。
二人の顔に炎の照り返しが揺れている。
オスカル「何をする?!」
離れる。
オスカルの髪がほつれ、額にかかる。
大きく波打つ胸。
アンドレ「(オスカルを見ないで)・・・どうかしてたんだ・・・許してくれ・・・」
オスカルの頬を涙が伝わる。
アンドレ「本当に・・・許してくれ・・・」
返事がない。
アンドレ「・・・オスカル・・・?」
返事がない。
森の中で鳥が飛び立つ。
ハッと見るアンドレ。
月の光を浴びて生まれたままの姿のオスカルが立っている。
アンドレ「オスカル!」
オスカル「(涙を流しながら)・・・き、きれいかい・・・?」
アンドレ「(の目にも涙があふれる)あ、ああ、きれいだよ・・・オスカル・・・」
そっと手を差し伸べる。
オスカルも差し伸べる。
ためらいながら触れ合う手と手。
アンドレに引き寄せられるオスカル。
見つめ合い。
二人の瞳に涙が光っている。
激しく、アンドレの胸に飛び込むオスカル。
オスカル「・・・・・・」
強く抱きしめるアンドレ。
朽ち果てた天井から夜露が雫となって落ちる。
たき火が爆ぜいている。
○道
ジャルジェ家の召使いが背中に大きな荷物
(中身はわからない)背負い馬を飛ばして来る。
○廃屋
オスカル「父上がこれを?」
身繕いしたオスカルとアンドレの前に包みを手にした召使いが立っている。
召使い「はい、何か存じませんが、地位も財産も
投げうったオスカル様へ、せめてものとはなむけとおっしゃられて・・・」
目頭を押さえる。
オスカル「わざわざありがとう」
包みを解く。
中から例のオスカルの肖像画が現れる。
召使い「こ、これは・・・!」
オスカルとアンドレも驚く。
オスカル、父の最後の優しさに感激している。
オスカル「(召使いに)確かに受け取った。
父上に感謝の気持ちと、お元気でと伝えてくれ」
召使い「(再び目頭を押さえ)分かりました。オスカル様もどうかご無事で」
召使い、馬に乗って去って行く。
しみじみと肖像画を眺めるオスカル。
若々しいオスカルの肖像画。
アンドレ「オスカル、お前やっぱり、帰れ」
オスカル「帰らない」
アンドレ「・・・・・・」
オスカル「お前と同じさ。もう戻る所もないし、行く所も一つしかない」
アンドレ「(こみ上げるものがある)・・・・・・オスカル」
時間経過
オスカルの肖像画が燃えてゆく。
自分たちの青春を手厚く葬るかのように姿勢正しく炎を見つめているオスカルとアンドレ。
オスカルM(モノローグ)「さようなら、私の青春・・・・・・」
空が白んで来る。
七月十四日の朝だ。
馬に跨るオスカルとアンドレ。
振り返るオスカル。
肖像画の燃え尽きた灰が風に飛ばされてゆく。
オスカル「(思いを振り切るように)さあ、行こう!」
万感胸に迫り、オスカルの目に涙があふれる。
オスカル「(努めて明るく)私が今、どんな気持ちか分かるか?」
アンドレ「たとえ目はみえなくても、お前の心は分かっている」
しばし見つめ合うオスカルとアンドレ。
アンドレ「オスカル・・・・・・」
オスカル「うん!」
馬を進める二人。
N「フランスは新しい時代を迎えようとしていた-」
大群衆の声が次第に大きくなってくる。
○フラッシュ的に-
熱狂的な大群衆の怒号と罵声の中で以下の絵が次々と浮かび上がる。
-断頭台に引き据えられるマリー・アントワネット。
-虐殺されるフェルゼン。
-バスティーユ広場の火を吹く大砲。
-大砲。
-大砲。
-バスティーユの攻防戦。
アンドレの声「(悲痛な叫び)オスカル!」
オスカルの声「(悲痛な叫び)アンドレ!」
大群衆の声が次第に小さくなる。
-メラメラと燃えているオスカルの肖像画を再び見せて-
以上の絵にナレーションがかぶる。
N「数々の命をその巨大な歴史の渦の中に呑み込みながら
ともかくも、フランスは新しく生まれ変わろうとしていた-」
○地平線の彼方へどこまでもどこまでも
小さくなって行く馬上のオスカルとアンドレの後姿-。
完
これ・・・23話のあとにいきなり放映されたら
話の展開のあまりの速さにびっくりするわ(笑)
あちこちから聞いた話によると声優さんはオリジナルキャストだそうです。
ただ、とにかく作画がよろしくなかった・・・というかひどかったというか。
まぁ。わかる気もするけど・・・。
ビデオにもLDにもDVDにもなっていない作品ですが
自分の頭の中で想像して楽しむのが案外、いいのかもしれません。
次は
放映が終了して10年後の1990年にキャストを変更して上映された
劇場版「生命あるかぎり愛して・・・」を
ご紹介しましょう。