2004年10月27日水曜日 朝日新聞 生活欄
待機児ゼロの舞台裏
―いま保育園は「狭き門」今もなお
無認可で空き待つ子も
午後3時、昼寝から覚めた子どもたちが、あちこちで泣き始める。ビルの2階にある岡山市築港新町の24時間型の無認可施設「すくすくランド・ポストメイト保育園」では、園長ら4人の保育士たちが、0〜5歳児約30人をみるのにてんてこまい。1歳児におやつの菓子パンをちぎって与え、幼児のほおをふき、「お皿で遊ばないで」と注意もする。赤ちゃん2人を左右に抱いて奮闘する保育士もいた。
認可保育園に入るまでの「つなぎ」として利用する人も多く、子どもの入れ替わりが激しい。「幼児同士で『あの子だれ』という話も出る」と横田美香園長(34)。
同園は市が定める要件を満たし、運営費の助成を受けている。認可園の空き待ちの子が3分の1程度を占めるが、「待機児童」に数えられていない。厚生労働省が先月発表した4月現在の全国の保育所調査では、岡山市は「待機児童ゼロ」だった。
なぜ、こんなことが起きるのか。厚労省は「待機児童ゼロ作戦」が始まる前年の01年度から、待機児童の定義を変えた。東京都の認証保育所や「ポストメイト保育園」のように、自治体が独自に助成する無認可施設で「待機」する子や、他に入所可能な保育園があるのに第1希望の空き待ちをしている子は除かれた。
国がまとめた待機児童の数は氷山の一角だ。4月現在で約2万4千人と発表しているが、旧定義で計算すると4万1800人。政令指定市・中核市48市のうち「待機児童ゼロ」は13市あったが、旧定義だと岡山市は158人など、7市で待機児童がいることが朝日新聞の調査で分かった。また、「定員の弾力化」で待機児童を吸収している実態も=表。
入所窓口で「難しい」と言われ、待機申請すらあきらめる人もいる。新旧どちらの定義でも「待機児童ゼロ」の愛知県岡崎市。2歳児の母親(30)は今年6月、健康食品会社からパート採用の内定をもらった。認可園5園に電話したが、「3歳未満だと年度途中の入所は難しい」と断られた。再就職先をフイにしたくない。翌月から無認可園に預けて働き始めた。
認可園に入っても、なお「狭き門」は続く。待機児童が新定義で34人の厚木市。元パート看護師(38)は昨春、2人目を出産、1年間の育児休業をとってから職場復帰しようと考えていた。しかし、当時2歳だった長女を市立保育園に通わせ続けることは認められず、退所させられた。「友達と遊ぶのが楽しくて仕方ない時期。娘に伝えると、『なんで!?』という表情をされて心が痛みました」
市の規定で、保育園に通う子が2歳児以下の場合、下の子を産んで育児休業をとるときは、いったん退所しなければならない。だが、復職時に元の保育園に戻れる保証はない。市は「0〜2歳の低年齢児は入所希望が多い。待機児童を一人でも多く受け入れるため」と説明する。
育休明けの4月、2人の預け先が見つからぬまま、仕事を辞めた。「下の子が1年遅かったらと悔やんだことも。安心して2人目を産むことすら難しい社会だと思います」
■育児休業と保育園の退所
朝日新聞が主要71市区(政令指定市、東京特別区、県庁所在地)に実施した保育調査では、下の子を出産後、育児休業を取る場合、「休業期間を問わず、上の子の退所を求めない」のは盛岡、水戸、さいたま、川崎、福井、長野、名古屋、津、大津、京都、大阪、神戸、奈良、和歌山、松江の15市と江戸川区だけ。