2004年10月29日金曜日 朝日新聞 生活欄

2004年10月29日金曜日 朝日新聞 生活欄

待機児ゼロの舞台裏

―いま保育園は

共に育つ場を求め

孤独感、需要押し上げ

 働くために、子どもを預ける。それが保育園だった。いま、事情が変わりつつある。

 「保育園で子どもを育てたいから、働きたいという親も多いんですよ」

 震災復興住宅が立ち並ぶ神戸市灘区の新しい衝「HAT神戸」。私立の「はっと保育 園」の片山喜章園長(50)は、実感を込めてそう語る。2年前、育児不安を感じる主婦たちの自主保育サークルを提案、園の一室を提供して週2回の活動を支えてきた。

 昨年8月から参加している2歳の男児がいる主婦(30)は「息子は同じ年の子どもの中で育てたい。もともと仕事もしたかったし」。今春から、保育園の空きを待っている。

 以前の息子は、かんしゃくがひどく、言葉も遅かった。ほかの子とうまく遊べないため、地域で母親の友だちができず、家に閉じこもる日々。だが、サークルに通い始めて、息子はおだやかになり、言葉も出るようになった。主婦は、保育士のしかり方や声のかけ方を見ては学んだ。

 神戸市では4月現在、0〜2歳児の約8割が家庭での子育て。待機児童数は623人と全国で5番目に多い。市保育課によると、「実際に働いているが保育園に入園できない」というのは半数で、残り半分は「就労予定」だ。根来司保育課長は「働きたいのはもちろんだが、実際は保育園に子育てを応援してほしい人も多いのでは。待機児童を減らすには、専業主婦への子育て支援も見逃せない」と話す。

 財団法人こども未来財団が00年度、15歳までの子どもを持つ全国の女性1600人に行った意識調査では子育ての負担感が大きいと感じているのは、専業主婦では約45%で、共働きの母親の約29%を大きく上回った。

 専業主婦家庭の保育需要に応えようと、保育士が地域に出て行く動きも広がる。

 「離乳食を食べてくれないの」 「まだ夜泣きしてる?」

 待機児童が1190人と全国一多い横浜市。保土ヶ谷区にある築30年の木造民家の和室は乳幼児連れの母親の熱気が充満していた。

 認可保育園に勤務経験のある保育士ら12人がつくるNPO法人「ピアわらべ」が昨春、開設した育児支援施設。「在宅家庭への支援が不足している。安心して預けてもらうにはプロの目が必要」とつくった。1時間900円(0歳児960円)の一時保育には月のべ40人、親子連れが集う場には1日平均8組が訪れる。

 1歳の娘と月に2回は集いの場を利用するという前野優子さん(35)は、妊娠中に埼玉県から引っ越しし、周囲に知り合いがいなかった。会社員の夫の帰宅は夜中。「新聞をゆっくり読む時間もない。自分の時間がほしい」という。

 代表の遠藤礼子さん(51)は言う。「大家族や地域が子育てを支えていた昔と違って、母親が一人で全部背負う。子育てが困難な時代です」

 宮崎県延岡市では、市内に15ある私立保育園全園でつくる協議会が、子育て支援センター「おやこの森」を運営する。99年に園単位でもらう予定だった国の少子化対策臨時特例交付金を出し合った。

 木造2階建ての施設には、毎月のべ千人以上の親子が訪れる。保育士4人が常駐、研修を積んだ地域の「保育サポーター」15人も活躍する。遊び場に加えて、病後児保育「育児用品レンタル室も併設。一時保育は1時間500円、家庭への訪問保育は600円、緊急支援や子育てサークルヘの出張保育は無料だ。

 4歳と2歳の母親、牧野晶子さん(35)は今夏、突然の腰痛で動けなくなった。名前だけ知っていたセンターに、相談先を聞こうと電話した。保育士らがかけつけて救急車を呼び、子どもを夜まで預かってくれた。「一筋の光でした。『大丈夫』の一言に励まされました」

(小沢香、藤原泰子、山根由起子が担当しました。)


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