◆協働コーディネーターの役割と課題
この動きの中で、筆者は初めてイベントの企画運営を行う事務局を担当した。賛同してくれる仲間集めに始まり、予算集め、イベント内容の企画、実行委員会の運営、必要な準備物の手配など、一連の事務局業務を担った。イベントが終了して決算を終えたら、短期間で解散する実行委員会形式のため、集中して地域の力を結集する ことができたと思う。
実行委員会を立ち上げるところまでは、協働コーディネーターとして賛同者集めを行ったが、立ち上げ以降はコーディネーターというよりは、まちを楽しくしたいという一市民として、参画したという感覚である。大きなまちづくりの目標に向かって、多くの人が関わることができる楽しさを演出し、それを実践するということも、協働コーディネーターの大切な役割なのかもしれない。
多様化するまちづくりの主体
第2回から今回にわたって、筆者が関わった4つの事例を紹介した。
事例1 川沿いにまちづくりの拠点をつくる(寄合処 御祓舘)
事例2 川と市民の関係を取り戻す(川への祈り実行委員会・御祓川浄化研究会)
事例3−1 道路と河川を一体的に検討(七尾都心軸整備計画)
事例3−2 ハード整備での苦い経験
事例4 橋の開通イベントに地域の力を結集(泰平橋開通イベントほか)
このほかにも、筆者が関わったプロジェクトは多くあるが、この4つの事例だけでも実に多様な主体が関わっていることが分かる。(表1)
表−1:プロジェクト別の参加の場と構成主体
プロジェクト |
参加の場 |
構成する主体 |
寄合処 御祓舘 |
(株)御祓川設立準備会→中心市街地まちづくり懇談会 |
(株)御祓川
七尾街づくりセンター (株)、商工会議所
七尾市商工観光課 (現 産業政策課) |
御祓川浄化 |
御祓川浄化研究会 |
(株)御祓川、川への祈り実行委員会
七尾湾沿岸全住民会議
(株)環境日本海サービス公社 ほか企業
いしかわ水辺再生研究会
金沢大学、七尾商業高校
石川県中能登総合土木事務所、七尾市環境課 |
都心軸整備計画 |
都心軸まちづくりワーキング |
石川県中能登総合土木事務所、七尾市都市整備課、商工会議所、沿道住民、関心のある市民 |
泰平橋開通イベント |
泰平橋開通イベント実行委員会 |
都心軸まちづくりワーキング、七尾市商店街連合会、川への祈り実行委員会、市商工観光課 |
長生橋開通イベント |
長生橋開通イベント実行委員会 |
都心軸まちづくりワーキング、商工会議所青年部、川への祈り実行委員会、市文化課 |
慶応橋開通イベント |
慶応橋開通イベント実行委員会 |
川への祈り実行委員会、袖ヶ江公民館、北國写真連盟、商店街(川沿いの店舗) |
まちづくり活動はその内容によって様々な主体が絡み合って進んでいく。内容に応じてふさわしい行動主体を選び、必要によっては新たに組織することが必要である。これまでに紹介した事例で、どのような主体が結びついているかを見ると、図1〜4のように非常に重層的で複雑なネットワークが組まれていることが分かる。
図1 中心市街地まちづくり懇談会
図2 御祓川浄化研究会
図3 都心軸まちづくりワーキング 図4 泰平・長生・慶応橋開通イベント実行委員会
このような「まちづくりの場」は、戦略会議の場であったり、公共事業への参加の場であったり、一時的なイベントの実行委員会のときもあれば、専門的なテーマを持つ研究会の場合もある。場の性格はそれぞれであっても、様々な主体が自立しながら関わりあい、ネットワークすることによって、数の力や新しいものを生む力、物事を動かす力を発揮している。
第1回「七尾のまちづくりを振り返る」で紹介した七尾マリンシティ運動が始まった頃に比べると、まちづくりの主体は非常に多様化している。いまや、まちづくり活動は経営者や商店主など、一部の限られた人々のことではなくなった。担い手は、主婦やサラリーマン、学生など多種多様である。また、商店街や町会などの既存組織だけではなく、様々なミッションを掲げたNPOが活動を展開し始めている。まちづくりの主体が多様化し、さらにその構成員も多様な価値観を持つ人々になってきたと言ってよい。
筆者は、この状態こそ「活性化」だと思っている。人々が活動を通してまちとの関係を結んでいく。その関わりの糸が多くなるほど住民の公共感覚は磨かれ、コミュニティに活力が生まれる。しかし、多様な主体が同じフィールドで異なる活動を展開していくと、各活動がバラバラな方向に進んだり、コミュニティの力が分散してしまったり、という問題点もある。こうなると、強いリーダーシップによってリードされる活動だけでは、収まりきれなくなる。ゆるやかな方向性を示しつつ、それぞれの活動を尊重しながら、必要に応じて情報や人材をつなげて、新しい価値や活動を生み出す手助けをするという新しいリーダー、すなわち協働コーディネーターがますます重要になる。 |