「協働コーディネーター」養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ5 
  小さな港町・七尾のまちづくり
  第4回 多様な主体が関わるまちづくり(最終回)

株式会社 御祓川 チーフマネージャー 森山奈美

 特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは「協働コーディネーター」を養成する、「協働コーディネーター」養成講座を開催してきました。その成果として、「協働コーディネーター」として各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、「協働コーディネーター」として活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
 シリーズ5では、石川県七尾市でのまちづくりの取り組みを紹介します。まちづくりの様々な取り組みでの、「協働コーディネーター」の役割やその重要性を知ってください。

キーワード・・・ネットワーク、協働コーディネーターの必要性、まちづくりの2タイプ

 七尾市は、能登半島の付け根に位置する人口6万4千人の港町である。このシリーズでは、七尾のまちづくりから、協働コーディネートの重要性について検証する。最終回は4つめの事例を紹介し、これまでに紹介した事例が、どのようなネットワークを組んでいたかを振り返り、多様な主体が関わるまちづくりについて考察を深めたい。

※事例紹介では、ネットワークを組んだ主体名を 斜体 で、協働コーディネーターとしての役割を緑の字 で示す。

事例4.橋の開通イベントに地域の力を結集(泰平橋開通記念イベントほか)
  前回紹介した 都心軸まちづくりワーキング は、シンボルロード整備事業と御祓川ふるさとの川整備事業に関わるハード面の検討を行ってきた。長期にわたる事業の中で、ワーキングがデザインを検討した施設が、最初に完成したのは、平成12年の泰平橋である。当初、ワーキングの中で橋の完成記念イベントを提案しようとしたが、事務局からは、予算がないことや、橋の完成だけではなく全体の事業が終わったときに完成イベントをすべきだということで、却下されてしまった。

  そこで、ワーキングとは別に実行委員会を組織し、行政に頼らずに泰平橋の開通を祝うイベントを行おうと呼びかけを行った。もちろん、これはコンサルタントの業務としてではなく、ボランティアとしての活動である。その結果、 地元の商店街 都心軸まちづくりワーキング 川への祈り実行委員会 が主体となって、 泰平橋開通イベント実行委員会 を立ち上げることとなった。  

  イベントの内容を企画し、役割分担について実行委員会で話し合う中で、これまで協働したことのないメンバーが同じ目標に向かって力を出し合うことで、それぞれの持つ能力が共有された。たとえば、商店街の皆さんはイベントを行う際の資材やノウハウを多くストックしている。テントも持っているし、電源をひく際には電気屋さんが活躍し、○○を借りるには、どこへ行けばよいという情報も持っている。川への祈り実行委員会も、元々が音楽イベントの実行委員メンバーが中心になってできたNPOなので、音響機材を持っている人、オペレーターができる人など人材が豊富である。かくして、あかりの橋・泰平橋の開通にあたっては、市内の「あかりちゃん」による渡り初めに始まり、よさこい、あかりコンサート、素人歌舞伎など、手づくりのイベントで、事業の節目をお祝いすることができた。

  残り2つの橋についても、かおりの橋 ・長生橋では、香りのまちづくりを進める 七尾商工会議所青年部 七尾市文化課 が参画して新たな実行委員会を組織した。3つめとなる、かざりの橋・慶応橋の開通では「能登の七尾の橋めぐり」をテーマに、 公民館 のウォークラリーイベントとの共催や 北國写真連盟 による写真撮影会なども加わり、川沿いを盛り上げようとする人々の輪が、イベントを通じてますます広がった。

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◆協働コーディネーターの役割と課題
 この動きの中で、筆者は初めてイベントの企画運営を行う事務局を担当した。賛同してくれる仲間集めに始まり、予算集め、イベント内容の企画、実行委員会の運営、必要な準備物の手配など、一連の事務局業務を担った。イベントが終了して決算を終えたら、短期間で解散する実行委員会形式のため、集中して地域の力を結集する ことができたと思う。

 実行委員会を立ち上げるところまでは、協働コーディネーターとして賛同者集めを行ったが、立ち上げ以降はコーディネーターというよりは、まちを楽しくしたいという一市民として、参画したという感覚である。大きなまちづくりの目標に向かって、多くの人が関わることができる楽しさを演出し、それを実践するということも、協働コーディネーターの大切な役割なのかもしれない。

多様化するまちづくりの主体
 第2回から今回にわたって、筆者が関わった4つの事例を紹介した。

 事例1 川沿いにまちづくりの拠点をつくる(寄合処 御祓舘)

 事例2 川と市民の関係を取り戻す(川への祈り実行委員会・御祓川浄化研究会)

 事例3−1 道路と河川を一体的に検討(七尾都心軸整備計画)

 事例3−2 ハード整備での苦い経験

 事例4 橋の開通イベントに地域の力を結集(泰平橋開通イベントほか)

 このほかにも、筆者が関わったプロジェクトは多くあるが、この4つの事例だけでも実に多様な主体が関わっていることが分かる。(表1)

表−1:プロジェクト別の参加の場と構成主体
プロジェクト
参加の場
構成する主体

寄合処 御祓舘

(株)御祓川設立準備会→中心市街地まちづくり懇談会

(株)御祓川
七尾街づくりセンター (株)、商工会議所
七尾市商工観光課 (現 産業政策課)

御祓川浄化

御祓川浄化研究会

(株)御祓川、川への祈り実行委員会
七尾湾沿岸全住民会議
(株)環境日本海サービス公社 ほか企業
いしかわ水辺再生研究会
金沢大学、七尾商業高校
石川県中能登総合土木事務所、七尾市環境課

都心軸整備計画

都心軸まちづくりワーキング

石川県中能登総合土木事務所、七尾市都市整備課、商工会議所、沿道住民、関心のある市民

泰平橋開通イベント

泰平橋開通イベント実行委員会

都心軸まちづくりワーキング、七尾市商店街連合会、川への祈り実行委員会、市商工観光課

長生橋開通イベント

長生橋開通イベント実行委員会

都心軸まちづくりワーキング、商工会議所青年部、川への祈り実行委員会、市文化課

慶応橋開通イベント

慶応橋開通イベント実行委員会

川への祈り実行委員会、袖ヶ江公民館、北國写真連盟、商店街(川沿いの店舗)

 まちづくり活動はその内容によって様々な主体が絡み合って進んでいく。内容に応じてふさわしい行動主体を選び、必要によっては新たに組織することが必要である。これまでに紹介した事例で、どのような主体が結びついているかを見ると、図1〜4のように非常に重層的で複雑なネットワークが組まれていることが分かる。

 図1 中心市街地まちづくり懇談会            図2 御祓川浄化研究会

 図3 都心軸まちづくりワーキング            図4 泰平・長生・慶応橋開通イベント実行委員会

 このような「まちづくりの場」は、戦略会議の場であったり、公共事業への参加の場であったり、一時的なイベントの実行委員会のときもあれば、専門的なテーマを持つ研究会の場合もある。場の性格はそれぞれであっても、様々な主体が自立しながら関わりあい、ネットワークすることによって、数の力や新しいものを生む力、物事を動かす力を発揮している。

 第1回「七尾のまちづくりを振り返る」で紹介した七尾マリンシティ運動が始まった頃に比べると、まちづくりの主体は非常に多様化している。いまや、まちづくり活動は経営者や商店主など、一部の限られた人々のことではなくなった。担い手は、主婦やサラリーマン、学生など多種多様である。また、商店街や町会などの既存組織だけではなく、様々なミッションを掲げたNPOが活動を展開し始めている。まちづくりの主体が多様化し、さらにその構成員も多様な価値観を持つ人々になってきたと言ってよい。

 筆者は、この状態こそ「活性化」だと思っている。人々が活動を通してまちとの関係を結んでいく。その関わりの糸が多くなるほど住民の公共感覚は磨かれ、コミュニティに活力が生まれる。しかし、多様な主体が同じフィールドで異なる活動を展開していくと、各活動がバラバラな方向に進んだり、コミュニティの力が分散してしまったり、という問題点もある。こうなると、強いリーダーシップによってリードされる活動だけでは、収まりきれなくなる。ゆるやかな方向性を示しつつ、それぞれの活動を尊重しながら、必要に応じて情報や人材をつなげて、新しい価値や活動を生み出す手助けをするという新しいリーダー、すなわち協働コーディネーターがますます重要になる。

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◆協働コーディネーターの必要性
 このように多様な主体がまちづくりに関わっていくためには、「協働のルール」をつくり、これを運用できるコーディネーターを育成していくことが、今後のまちづくりで重要な課題となる。

 現在、七尾市には、元気ななお仕事塾という新しいスタイルのまちづくり活動が始まっている。塾生たちはそれぞれの関心によってプロジェクトをつくり、まちづくり活動を展開する。塾長の内山氏は、全国公募で選ばれたまちづくりコーディネーターであり、彼の元で、様々な立場の市民がいくつかの活動を展開している。まちなかで定期市を開催したり、映画を上映したり、明治期の芝居小屋を再生する活動を展開したりと、テーマは様々である。塾の中に実行委員会をつくることもあるし、塾から新しいNPOを立ち上げたケースもある。また、塾長は塾以外で既存の団体がまちづくりに取り組もうとするときにも、必要な知識やネットワークを提供し、活動を活性化させている。先頭に立つというより、その活動に寄り添い、場合によっては後押しするという点で、従来のリーダーとは立ち位置が違っているようだ。

 今後、このような活動が活発化するにつれて、内山氏のように、つなぎ・寄り添い・後押しするタイプのリーダーを生み出していくことが必要である。仕事塾での活動等を通して、コーディネート機能を持つ人材の育成が期待されるところである。

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・まちづくりの2つのタイプ
 さらに、これまでの活動を振り返ってみると、まちづくりを推進する組織には、大きく2つのタイプがあることに気がつく。(表2 ) ひとつは、主体をはっきりさせ、自己責任の活動を志向する「まちづくり会社型」である。 ( 株 ) 御祓川はその代表だろう。出資者らは債務保証を自ら負いながらスピード感を持って川沿いの店舗展開を進めた。少人数による熱意ある取り組みが、まちを動かすエンジンとなったことは間違いない。しかし、それにはリスクが伴う。

 もう一方は「ワークショップ型」である。前者に比べて多くの人が関わり、充実感や満足感を重視することが特徴だ。お金をかけるよりは知恵や汗をかき、地味でも着実に成果をあげていく。川への祈り実行委員会などの活動がこれにあたる。一口 1,000 円のFUNDは、私たちが川を汚したことへの賠償としては少なすぎる額かもしれない。しかし、ここでは川と関わる楽しさを重視する。一人でも多くの人々が活動に関わっていくことが重要なのだ。

 表2:まちづくりの2つのタイプ

A まちづくり会社型

B ワークショップ型

 主体がはっきりしている

 自己責任

 投資がともなう

 スピード感

 ダイナミックな事業展開

 リスクが大きい

 みんなで

 楽しむところから

 ゆるやかな責任、充実感、

 満足感

 お金をかけず時間をかける

 地味でも着実な成果

 これらは、どちらかが優れているという話ではなく、まちづくりのテーマや状況に応じて、両方のタイプが必要である。スピードが要求される商業開発などは、「まちづくり会社型」 が適しているだろうし、 まちの中に残る伝統的な建造物を保存するためには、時間をかけて多くの人が、その建物の価値を認識できる「ワークショップ型」の活動が必要だろう。ところが、ある重要な建物が取り壊しの危機に遭っているときは、たちまち「まちづくり会社型」に切り替えて、緊急にその建物を守らなければいけない場面が出てくる。

 このように、2つのタイプを使い分け、場合によっては組み合わせて、様々なまちづくり課題に対応していくことが重要である。筆者の感覚では、今後ますます「ワークショップ型」の活動が増えていくが、ここぞという場面で「まちづくり会社型」の精神がなければ、数々の活動は持続できないだろう。さらに、この2つのタイプはきれいに分かれるものでもなく、両者の良い面を持ち合わせた融合型の活動形態が主流になっていくのではないか。同一組織でも、場面によってどちらかの面が強調されて現れるということになるだろう。

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・まちづくりが人の心を変える
 このシリーズでは、多様な主体が関わるまちづくりにおいて、ますます協働コーディネーターの役割が重要になっている様子を七尾の現場から報告してきた。現在、筆者は石川県での協働コーディネーター育成の必要を感じ、TRC研修修了生の仲間とともに「いしかわ協働ネットワーク」の活動を始めている。年に数回の協働コーディネーター養成講座や行政職員対象の講座を開催しているが、七尾市にはまだ協働のルールと呼べるものがなく、実際のプロジェクトの中でも協働の理解不足からくる問題が噴出しているという状態である。財政問題や議会レベルの低下など問題は山積だが、少しずつでも着実に進めていくしかない。

 市民が、それぞれの活動を通してマチとの関係を結びつつ、広がりのある新しい公共を担っていくことで、人々の心に少しずつ変化が起こる。「まちに関わると楽しい」「このまちが好き」「元気になった」その心の変化は、どの統計書にも現れないが、まちへの想いを次世代へとつなぐ原動力となる。協働コーディネーターは、人々の想いをつなぎ、新たな心の変化を促し、一人一人が輝けるまちを育てていける存在である。これからも、人々の心を動かす「まちの物語」を生み出していきたい。

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