高橋青年のステファン・グラッペリ物語

8「PIANOS HAMM」

 パリに戻ってすぐに、二人は引っ越しました。
 最初のアパルトマンの契約が2ヶ月だけだったためです。
 新しいアパルトマンはモンパルナス駅の近くにあり、周りはすごい繁華街でした。
 二人はよく近所を散歩しました。
 モンパルナス駅からサンジェルマン・デ・プレ教会まで続く「レンヌ通り」は二人のお気に入りで、通りの両側には、びっしりとお店やカフェが並んでいました。

 ある日、その「レンヌ通り」を散歩していると、「PIANOS HAMM」という楽器屋のウィンドーに、一台の真っ赤なアコーディオンが置いてありました。
 そのあまりの可愛さに、山口あかねの目は釘付けになりました。
 それはボタン式アコーディオンというタイプの物で、鍵盤の代わりに、キラキラと光る綺麗なボタンがいっぱい付いていました。

 「どうやって弾くんだろう?」と思った山口あかねは、中に入ってその楽器を見せてもらいました。
 少し弾かせてもらい、すっかり気に入った山口あかねは、「いい!欲しい!」と思いましたが、それは留学生が簡単に買えるような値段の物ではありませんでした。
 「中古なら買えるかな?」と思った二人は、パリの楽器屋を色々見て回りましが、気に入った物はありませんでした。
 「他の国になら、何かいい物があるかも?」と思った二人は、旅行に出かけてみました。
 ベルギー、オランダ、ドイツと探して回りましたが、やはり何も見つけられませんでした。

 そして遂に、旅行から帰った次の日、山口あかねは「PIANOS HAMM」で、あの真っ赤なアコーディオンを購入したのでした。(弾けるんか?)


アコーディオンを買った日、1992年8月4日

つづく

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