焼肉店にて… 
いつもの事なのだが。
執務の終わりにサラとパスハが焼肉店に立ち寄る。
そう。二人はそんな仲だったのだ…とまあ、そんな事は置いといて。
 
サラ「ねえ、あそこに居るのって…」
パスハ「ああ…間違いない。ジュリアス様とクラヴィス様だ。」
 
2人は、店内に入ってきた守護聖達の様子の、一部始終を見守った。。。
 

思いがけない事に、ジュリアスは超上機嫌な様子で店の奥へと入っていく。
その後を、超面倒くさそうにノロノロとついて行くクラヴィス。
ジュリアスは、当然ながら壁側のソファ席に腰を下ろす。
クラヴィスは機械的に通路側の椅子を引いて座った。
ジュリアス「さて、何を頼む?」
クラヴィス「…。」
「では、私に任せてもらおう。」
そう、言うが早いかジュリアスは颯爽と片手を上げてウエイターを呼ぶ。
ウエイターが氷水とおしぼりを置き、メニューを手渡そうとするが、ジュリアスはそれを遮った。
「いや。メニューはよい。カルビ2皿、ロース1皿、タン塩1皿
野菜焼き1皿、海鮮盛1皿、ワカメスープ2皿、ライス2皿。
それと生ビールジョッキで2つ。」
そんなに食べるのかと言いたげなクラヴィスを尻目に、ジュリアスはそれだけ一気にまくし立てた。
しかし、なんて庶民的なジュリアス。
ウェイターが立ち去ると、ジュリアスはご満悦な様子で話し始める。
「私が焼肉に通じているのが、そんなに可笑しいか?
私も、つい最近までこのような食し方は知らなかったのだが…
この間オスカーに連れられて来たのが、存外楽しかったものでな。」
クラヴィスは、別にそんな事聞いてはいない…という表情で黙っている。
しかし、彼の表情になど気にも留めず、ジュリアスは話す片手間に小皿にタレを注ぎ
ニンニクのすり下ろしをタップリとタレの上に乗せた。
「辛味は入れるか?」
「は?」
「辛いものは好きか、と聞いているのだ。」
「…いや。好かぬ。」
「そうか。ならばこれで食べると良い。」
ジュリアスは、タレの上にタップリとニンニクが乗った小皿をクラヴィスの前に置いた。
そして自分の小皿にちんまりと辛味…トウバンジャンを乗せる。
そうこうしている内に、先ずビールのジョッキがやって来た。
「フレンチにはワイン。焼肉にはビールだそうだ。さあ、そなたも。」
クラヴィスは仕方無しにジョッキを持ち上げた。
カチンッ
ジョッキが触れ合う涼やかな音がする。光様と闇様の乾杯。
そして、おおよそビールジョッキ(しかも中ジョッキ)の似合わぬ2人の守護聖は、
喉ぼとけを上下させながら、ごくごくとビールを飲んだ。
ウェイターが、カルビとタン塩を運んで来た。
…実はクラヴィスは、先程からお腹が鳴って仕方が無かったのだ。
それもその筈。ジュリアスの突然の乱入で、執務が遅くまで長引いてしまい
ろくに昼食を採っていなかったクラヴィスには、それが結構堪えていたのだ。
その為、この時ばかりは流石のクラヴィスも、すぐにカルビを1枚取ると鉄板の上に乗せた。
「馬鹿者っっっ!!!そなた何をしているっ!!」
乗せるや否や、この叱咤。しかしそんな事日常茶飯事であるクラヴィスは、
平気な顔をして付け合せのオクラも鉄板に乗せた。
「!!ここにタン塩があるではないかっ!!焼肉は、先ず初めに
綺麗な鉄板でタン塩を焼くのだっ!!まったくその様な事も判らぬのでは…。」
「…そろそろいいか。」
クラヴィスの頭の中では、もはやジュリアスの声はフェイドアウトしていた。
目の前のカルビはいい色にこんがり焼けて、とても美味しそうだ。
クラヴィスはカルビを箸でつまむと、タレに浸してから口に運んだ。
「おいっ、聞いているのか?」
「…端っこで焼いたろう。真ん中でタンを焼けば良いではないか。」
クラヴィスにそう言われてしまっては返す言葉もない。
ジュリアスはしぶしぶ、それでも嬉しそうにタン塩を鉄板の中央に乗せた。
しかも、何枚も。
「…焼肉が好きなんだな…。」
珍しくクラヴィスが自発的に喋った。いや。思わず喋ってしまった。
それほどまでに…ジュリアスは何枚もタン塩を乗せたのだ。
「タン塩は良く焼かなくてはいけないからな。ふむ。」
 ジュリアスは何事かブツブツと呟きながらタン塩を焼く。独り言は自己完結しているようだ。
「もうよいぞ。今が食べ時だな。」
そう言うや否やジュリアスは、タン塩を1枚クラヴィスの目の前に置かれた
レモンダレの入った小皿に乗せた。クラヴィスは、驚いて目の前のタン塩を注視する。
「早く食べないか。遠慮する事はないぞ。」
そう言うジュリアスの眩しげな微笑が、一層クラヴィスを幻惑する。
仕方ない。この者の好意、甘んじて受けるか…
クラヴィスは、タン塩を口に運ぶ。おや、と思う間もなく次のタン塩がジュリアスによってもたらされる。
…これでは、わんこタン塩ではないか。
クラヴィスはウンザリしながら、それでもタン塩を口に運ぶ。
またももたらされるタン塩。どうやら、初めにこれを食べ切らなければいけないようだ。
ジュリアスの法則に気が付いて、取り敢えずタン塩を食べるクラヴィス。
クラヴィスの苦労が報われたのか、ようやくタン塩が終わった時
初めに頼んだ皿が一気にやって来た。またもいそいそと鉄板に具を並べるジュリアス。
「…お前は焼肉奉行だったのか。」
クラヴィスの小さな小さな呟きが、彼の心の全てを物語っていた。
そう。その後もずっと、ジュリアスの法則がいちいち飛び出したのは言うまでもない。

別名、クラヴィスの受難。もっとも、面倒くさがりな彼の事。
その実結構、楽チンだと思っていそうではありますね(~_~;)
さて、次回はどなたの法則が飛び出るやら(笑)
〜次回に続く〜(多分)
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