貴方の頬に夕焼け
公園の片隅に出来たスカッシュコート。
ここの所、年少3人組みとアンジェリークは、日の曜日のたびにここに姿を現わしている。
今日もまた、3人は早朝から公園に集まっていた。
 
「アンジェリーク、これ食べるかい?」
「わあ、おいしそう♪」
 
ランディーはアンジェリークがお気に入りだ。
さっきから、いそいそとホットドッグを買ってきてアンジェリークの横に並んで座って食べている。
マルセルもゼフェルも、ハタから見ていてランディーの気持ちにはとっくに気が付いていた。
でも。
器用さを司る守護聖は自分の気持ちには不器用なのか。
ランディーの素直さが、まるで彼の不器用さに拍車をかけているようでついついゼフェルはアンジェリークに対しても乱暴に振舞ってしまう。
  
「んなもんばっか食ってッと、ブタみてーになるぜ。」
「えー、ひどーい。」
「そうだぞ、ゼフェル。女の子に対してそれはないんじゃないか?」
「オメー、さっきからアンジェリークに食いモンばっか与えやがって、ブタみてえな女がいいんだろ?」
「なんだと?!」
「もう、アンジェが困ってるよ!」
 
まあ、こういう展開が、公園でのいつもの風景になっているという事なのだ。
普段なら、マルセルの仲介で再びスカッシュの試合が始まる訳だが、今日は別の人物が…
 
「アンジェリーク、やっぱりここね。パスハが呼んでいるわよ。大至急、王立研究院へ向かって頂戴。」
 
それは、女王補佐官のディアだった。
アンジェリークは、ディアに頷くと慌てて王立研究院へと駆けて行った。
コートの片隅には、彼女のラケットが入った鞄が置いたまま…
 
 
    くコ:彡     くコ:彡
 
 
日も暮れて、スカッシュに白熱してすっかりクタクタになった3人。
とうとうアンジェリークは戻って来なかった。
 
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。俺、アンジェの鞄を寮に届けて帰るよ。」
「ん?ああ…おまえの家はこっから逆方向だろ。オレ、帰り道だからついでに置いてきてやってもいーぜ。」
「悪いな、ゼフェル。じゃあ頼むよ。いくぞ、マルセル。」
「うん。ゼフェルまたねー。」
「あぁ。」
 
ランディーとマルセルの姿は見る見る小さくなっていく。
ゼフェルは、ひとつ大きな溜息をついて、アンジェリークの鞄を持ち上げた。
 
 
    くコ:彡     くコ:彡
 
 
「…こんな時間。みなさま、もう居ないよね。。。」
 
アンジェリークは、夕方になってやっと公園に戻ってきた。
パスハの用件は大した事無かったが、その時に一緒に居たサラとつい話し込んでしまったのだ。
 
「あ…。」
 
スカッシュコートの脇にあるたたずみドーム。
そこにゼフェルがひとりで夕焼け空を眺めていた。
その後姿が妙に寂しそうで、一瞬、声をかけるのをためらわれる。
ふと、足元を見るとゼフェルのスポーツバッグの上に、自分の鞄がちょこんと乗っかっている。
 
「…もしかして、待ってて下さったんですか?」
 
思わず言葉が先に出ていた。
 
「! あんだよ、びっくりしたじゃねーか。いきなり背後から声、かけるなよな。」
 
ゼフェルは、そう言いながら振り向くと、今まで振り仰いでいた空に向かって顎をしゃくった。
 
「それより、見ろよ。今がサイコーだぜ。」
 
空はまさに、夕日がゆっくりと地平線に姿を隠すところだった。
夕日が沈んでもまだ、辺りには赤い空の余韻が残っている。
 
「…暗くならねーうちに送るぜ。」
 
並んで歩く二人の影が、道に長く寄り添って揺れる。
 
「ごめんなさい、ゼフェル様。随分待ったんじゃないですか?」
「別に。…オレは、あそこの夕日が好きだから見てただけだぜ。」
「ううん。ありがとうございます。ゼフェル様のお姿を見た時、とっても嬉しかったです。」
 
たったひとときの2人だけの時間。
ゼフェルの頬には、まだ夕焼けの色が残っているかのようだった。
 
 
                    Fin
このお話のイメージCGが、アトリエにあります。必見でございますよ☆
 
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