Yellow Rose

「ねえ、頼むからもう泣き止んでくれよ・・・」
困り果てるランディーの目の前には、今回の女王試験で飛空都市に召された女王候補、アンジェリークがいる。
ただ、あまり喜ばしくない事に、彼女はさっきからさめざめと泣いているのだった。
「・・・そうだよな、急に泣き止めって言って、泣き止めたら嘘泣きだよなぁ。判ったよ。」
ランディーの服の前方は、既に涙でぐしょぐしょである。

アンジェリークが泣いている所に、何故か偶然通りかかったランディー。ゼフェルに言わせれば、『けっ!どんくせえヤツ』といった所だろう。
でも、ランディーは内心、金の髪の女王候補の事をかなり気に入っていたのだ。
あんまり相手にされているとは言いがたかったが、ランディーの方はお誘いもこまめにしてい、傍から見れば凄いお熱の入れ様だった。
「!一体どうしたんだい?アンジェリーク!誰かに何かされたの?」
ランディーが慌ててアンジェリークに話しかけても、アンジェリークはただたださめざめと泣くばかり・・・

夜の風が吹き始めた。さすがにこのままでは埒があかないと思った純情少年ランディーは、アンジェリークを寮まで送った。

「ランディー様、済みません、ご心配お掛けして・・・」
やっと、消え入りそうな声でアンジェリークが言った.
「じゃあオレはこれで。」
ランディーがさわやかに立ち去ろうとした時、アンジェリークはランディーの袖を掴んだ。
「待って下さい!一人にしないで下さい!」
驚いたランディー。アンジェリークの言うままに部屋に入ると椅子に座った。

「わたし・・・わたし・・・ずーっとクラヴィス様の事が好きだったんです!」
「!!!!」
いくらランディーがさわやかだからって、いきなりこれではたまらない。
しかし、そんな事はまったく無視してアンジェリークは話し続ける。
「今日、勇気を振り絞って告白したんです。クラヴィス様に。」
ランディーは眩暈を覚えた。そんな事に俺の勇気の力を使わないでくれ・・・と心で嘆く。
「でも・・・でも・・・クラヴィス様に叱られちゃって・・・私嫌われただけだったんです。」
またも思い出して涙ぐむアンジェリーク。反面、ホッとするランディー。
「なんて、馬鹿な事しちゃったんだろう。言わなければ良かった・・・」
アンジェリークはさっきから、次から次へと溢れてくる涙を拭うばかりだ。
「アンジェリーク、もう泣かないで。俺は君の笑顔が何より好きなんだ。」
「・・・」
アンジェリークはそーっと顔をあげてランディーを見た。
ランディーは、優しくアンジェリークを見つめる。
「ランディーさま・・・ありがとうございます。」

翌日から飛空都市のあちこちで、二人の姿がよく見られるようになった。

「なーんかさぁ、最近ランディーのヤツ愛想ねーよな。」
「仕方ないよ。やっと大好きなアンジェを独り占めできたんだもん。」
「しっかしよぉ、アンジェリークって、クラヴィスが好きだったんじゃねーのかよ。」
「でも、クラヴィス様は『お前は、自分の言ってる事が判ってない様だな。』って怒ったそうじゃない。」
「・・・あいつも、ちっとはまじめな所あんだな。」
「ゼフェルったらー」
和やかに談笑する二人。この取り合わせは気が合うようだ。
「でもねえ、クラヴィス様ってお優しいんだね。」
「ん、何でだ?」
「だって、クラヴィス様が怒ったのって、ランディーの気持ちをアンジェに気づいてもらいたかったからなんだって。」
「・・・マルセル、それ、もしかしてクラヴィス本人に聞いたのかよ。」
「ううん。リュミエール様の執務室に伺った時に、リュミエール様がそういってクラヴィス様を誉めてたの聞いちゃったんだ。」
「ほー、そうかよ。あいつもいい所あんじゃんか。」
「うん。ぼくも、クラヴィス様の事もっと好きになっちゃったよ。」

そうして、穏やかに時は流れた。
誰もがアンジェリークとランディーの中を公認のものとして、暗黙のうちに認めるようになっていた。
中でも、クラヴィスは歳若い二人の姿を穏やかに見守っていた。

「マルセル、俺に温室の花をくれないかな?」
「うん、いいよ。どれでも好きなものをあげる。」
「じゃあ、これを・・・」
「?これ?じゃあ今切り分けるから、待っててね。」
「・・・悪いな、マルセル。」
ランディーは照れて頭を掻いた。

ここは、森の湖−
「アンジェリーク・・・。ここで、君に改めて言うよ。僕はずっと君の事を・・・・」
ランディーは、さっき用意してきた、一抱えもある薔薇の花束をアンジェリークに差し出した。
アンジェリークは、それを見て、固まった。
「・・・ねえ?!アンジェリーク!?・・・ねえ、聞いてるの?ねえ、ねえってば・・・」

「ねえ、ゼフェル。ランディーったら、さっきぼくのお庭から、いーっぱい薔薇の花を持っていったんだよ。何に使うんだろうね?」
「あん?あいつの事だ。アンジェリークにでもあげんだろ?」
「ええ!?本当っ!」
「ったく、んなん知らねえよ。」
「えー、でも、でも、ランディーが持ってったの黄色い薔薇なんだよぅ。」
「だからー、それがどーしたんだよ。」
「花言葉って、知ってる?お花にはそれぞれ象徴される言葉があるんだ。その中でも、薔薇は特別に、色によって花言葉も違うんだよ。」
「へーえ、そうなのかよ。で?」
「紅い薔薇は‘情熱’とか、」
「オスカーのヤツにピッタリじゃんか。」
「白い薔薇は‘純潔’とか、」
「リュミエールに持たせてえな。」
「ピンクの薔薇は‘ひとときの感動’とかさあ」
「おいおい、そりゃ、あいつにゃピッタンコだな。」
がははは、と笑うゼフェル。マルセルは尚も真剣な顔でゼフェルに訴える。
「だからっ、ランディーが持ってたのって、黄色い薔薇なんだってば!」
「・・・?黄色い薔薇は、何なんだ?その、花言葉ってやつは。」
「・・・あのね。・・・嫉妬。」
ゼフェルの日焼けした顔が、一瞬白くなった様に見えた。

 Fin

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