サラダを召し上がれ  
軽快なノックの音がする。
 
「ん?どなたかな。」
 
執務の手をとめ、オスカーは扉に目をやる。
 
「失礼します。」
 
入ってきたのはアンジェリークだった。アンジェリークは頻繁に自分の執務室に足を運んでいた。
と、言っても育成を頼む訳ではなく、楽しそうにお喋りを楽しんでいる事の方が多い。
オスカーにとっては、そんなレディが自分に気がある事を認識するのは3度のメシより容易い事だ。
 
「よお。お嬢ちゃんじゃないか。待っていたぜ。」
 
軽く手を挙げて挨拶すると、アンジェリークは瞳をキラキラ輝かせて自分に近寄ってくる。
しかし、今日は何だか特に嬉しそうだ。
オスカーが不思議に思っていると、アンジェリークはあっという間に自分の目の前にやって来た。
 
「オスカーさま。今日は1日ここでお仕事されるんですか?」
「?どうしてだい。お嬢ちゃん。」
 
オスカーは、内心「ははん」と思う。
…これから自分とひとときを過ごしたいのだろうか。だとしたら、随分大胆なお嬢ちゃんだ。
しかし、アンジェリークの返事はちょっと意外だった。
 
「いえ。ずっと室内に居るのは、オスカーさまに似合わないなって。それだけです。」
 
そういうと、アンジェリークはニコッと笑って会釈をすると執務室を出て行った。
オスカーは、あっけにとられて彼女の後姿を見送る。
 
「…こういう所が俺の気を惹いているんだぜ。アンジェリーク。」
 
オスカーは、軽く微笑すると頭を左右に振った。
オスカーもまた、アンジェリークびいきなのだった。
 
 
そして、場所は変わって隣のお部屋。
水の守護聖も在室であった。
 
「失礼します。」
 
「あぁ、アンジェリーク。よく来て下さいました。」
 
リュミエールはにっこりと微笑んで、優しくアンジェリークを見つめる。
アンジェリークはいつものように、元気にスキップしながらこちらにやって来た。
 
「リュミエールさま、今日は1日中お仕事ですか?」
「ええ?何故でしょう。」
 
…何か相談したい事でもあるのでしょうか。
リュミエールがそう慮っていると、アンジェリークは更に楽しそうに話を続けた。
 
「たまには息抜きも必要ですよ。リュミエール様はいつも他人に振り回されてばかりなんですから!」
 
…おやおや。
リュミエールは、それを聞いてくすりと笑う。
…わたくしをいちばん振り回しているのは、あなたじゃないですか。
 
「それだけです。じゃあ。」
 
アンジェリークは、それだけ言うとさっさと執務室を出てしまった。
 
「…ほら。」
 
リュミエールもまた、アンジェリークの一挙手一動が気になってならないのだ。
 
    ~>゚)〜〜〜
 
「うふふ♪お二人が在室なのは確かめたわ。手元には書類が結構あったみたい。
これなら、午後まで執務室から出ないよねっ。」
 
アンジェリークは、半ばハミングに近い調子でそう言いながら、ご機嫌に占いの館へ向かう。
 
「サラさん、こんにちは〜。」
 
「あら、女王候補さん。いらっしゃい。」
 
火龍族のサラ。
…情熱的な紅い髪はまるでオスカーさまみたい。
アンジェリークはいつもの様にそんな事を考えながら、いつもの様に、こう依頼する。
 
「オスカー様とリュミエール様の親密度を占って下さい。」
「…ふふ、そうだろうと思ったわ。」
 
サラは、苦笑しながら水晶球に手をかざした。
 
「…星の囁きが聞こえるわ。」
 
ごくり。
アンジェリークは、毎度の事ながら緊張する。
 
「…やっぱり、最悪ね。」
 
がっくり。
アンジェリークは、毎度の事ながら落胆する。
 
「…そうですか。この間、お二人と別々にお話しした時に、オスカー様にはリュミエール様の、
リュミエール様にはオスカー様の良い所をお教えしたのにな。。。」
 
心底残念そうなアンジェリークの様子に、しかしサラは声を立てて笑い出した。
 
「…アンジェリーク。そんな方法じゃあ火に油をそそぐだけよ。
あなたがおふたりの事を好きで、おふたりにも仲良くして欲しいってことは知ってるけど、
あのふたりが、お互いに対してそう簡単にこころを許すとは思えないわ。ましてや恋のライバルなんですから。」
 
サラの所にこの間オスカーが来た。
初めは軽口をたたいて世間話をしていた彼だが、実は他に用件があるのでは…と睨んだサラが突っ込むと、
彼は、アンジェリークとの相性が知りたいんだと白状した。
さしもの恋のペテン師ハンターオスカーも、ひとたび本気で恋をすれば可愛いもの。
当然アンジェリークとの親密度は150を超えており(~_~;)、チビキャラが動いちゃっているほどだった(爆)
気を良くしたオスカー。次はアンジェリークの個人データ―を見せて欲しいと言い出した。
確かに、データ―を公開する事を前提に占いの館に居る以上、拒むことは出来ない。
サラが水晶球に手をかざすと、案の定結果は。。。
リュミエールのチビキャラも動いていたのだった。
 
「…恋のライバルなんて、そんな。」
 
アンジェリークはのんきに頬を染めて照れている。
…幸せなのは判るけれど…二股は良くないわ。
サラは、そう口に出しそうになって、慌ててその台詞を引っ込めた。
…二股三股は当たり前。それがネオロマンスの醍醐味なんだものね。。。
 
「でもでも、私おふたりにもお互いに仲良しになって欲しいんです!!」
 
アンジェリークは必死だ。
…そうよね、仲良しさん同志になれば、相乗効果でLLEDに辿り着き易くなるものね…
サラは、そんな風に思いつく自分にいささかウンザリもしていた。(おいおい;)
 
「判ったわ。あなたの力を二つくれれば、ラブラブフラッシュしといてあげる。」
「本当ですか!お願いします!!」
 
男同士のラブラブフラッシュには些か抵抗を感じたが、取り敢えず人と人との仲を取り持つのが自分の役目。
サラはにっこりと頷いて、嬉しそうに何度もお辞儀をして館を後にするアンジェリークの背中を見送った。
 
     ~>゚)〜〜〜
 
そろそろ昼食にしようかと、執務の手を止めたオスカー。
ペン差しにペンを差そうとした瞬間、執務机から突然モコッと物体が飛び出したのに驚いた。
 
「…あぁ、手紙の精霊か。」
 
緑色のモジャモジャの髪をした、まるで“雷様”みたいな可愛い精霊が、真っ白な封筒を抱えている。
 
「…ありがとう。」
 
オスカーは精霊から封筒を受け取ると、さっそく封をバリバリと破った。
中には、可愛らしいアンジェリークの筆跡がこう記してあった。
 
―オスカー様へ
   よろしければ、今日の昼食にご招待します。
       リュミエール様と、お二人揃って来て下さい。
                         アンジェリーク―
 
「最後の1文が余計なんだっ!!」
 
バシッ、と机を蹴ったところで、ハッとオスカーは我に返る。
・・・リュミエールも誘われているのか。ならば…
あいつに負けじと、べっ甲のクシでせっせと髪を整えていると、早速ノックの音がした。
…どうせリュミエールだろう。
オスカーは、急に不機嫌になって鏡の中の自分の顔を見据えた。
 
「あの…オスカー?」
 
やっぱりだ。
 
「なんだ?聞こえているぜ。水の守護聖殿。」
 
かなりぶっきらぼうな口調なのが自分でも判る。
そして、扉の前であいつが嫌そうな表情をしている事も。
 
「アンジェリークがお待ちですよ。早く行きましょう。」
 
…お前に言われなくても判ってる…
オスカーは、さっとマントを翻して執務室の扉に向かう。
 
「よう。行こうぜ。」
 
オスカーは、リュミエールの三歩前を急ぎ足で進む。
リュミエールは、長い装束の為付いて来るのが精一杯な様子だ。
意地悪してるのは良く判っている。
でも、何故だか止められない。
 
そしてふたりはアンジェリークの部屋の前に着いた。中から美味しそうな香りがしてくる。
自分がこんなに空腹だという事を思い知らされるように、オスカーのお腹がひとつ鳴る。
 
「オスカー、早く入りましょう。」
 
笑いを噛み殺しているリュミエールが、いつにも増して憎たらしい。
しかし、オスカーは気を取りなおして扉をノックした。
 
「はあい、どうぞ。」
 
扉を開けると、フリフリのエプロン姿のアンジェリークが、菜箸を片手に奥の部屋から顔を出していた。
…まるで新婚さんの様だ。俺ひとりならとっくに××していたものを…(××って何?)
そんなオスカーの怪しい妄想を一掃するかのように、アンジェリークは爽やかに微笑んだ。
 
「あ、盛り付けをしていますから、お座りになっていて下さいね♪」
 
見ればテーブルの上に、ピンクと赤と青のナフキンが置いてある。
…俺は赤いナフキンの席に座れということか。。。
リュミエールも同じ様に思ったか、青いナフキンの席に手を掛けている。
…俺とアンジェリークは同じ暖色系の色だ。お前だけハブだぜ。
そんな極めて子供っぽい事を考えていると、アンジェリークがお皿を3枚持って現れた。
 
「お待たせしました〜」
 
どうやらフレンチのコース料理に挑戦したらしい。皿には前菜なのであろうカナッペが乗っている。
アンジェリークがカナッペの皿を置いている間に、リュミエールがテーブルの上のミネラルウォーターをみんなのコップに注いだ。
…ケッ、水の守護聖だけに水を注いでやがる。←何だか凶悪モードの炎の守護聖である。
しかし俺は、招待を受けた者として、あくまでもサービスを受ける事に徹する事にした。
リュミエールと張り合って点数稼ぎをしても仕方がない。←出遅れたのが悔しいらしい
 
「お嬢ちゃん、なかなか綺麗な色合いじゃないか。早く食べたいぜ。」
 
案の定、アンジェリークは物凄く嬉しそうに頬を赤らめた。
…そら、やっぱり客は客らしくってな。
オスカーは勝手に勝利のポーズを心の中で決めると、皿からカナッペをつまんだ。
アンジェリークは、緊張して俺の表情を覗っている様だ。
さて、お嬢ちゃんの腕前はどうかな?
パクリ
 
「お嬢ちゃん、とても美味いぜ。」
「本当に、とっても美味しいですよ。」
 
リュミエールと同じタイミングで感想を述べたのは間が悪かったが、
ふたりの賞賛の言葉に、アンジェリークは頬をピンク色に染めて俯いた。
…悪くないぜ、その反応も。
しばし、アンジェリークはふたりの賞賛の言葉を浴びながら、自らもカナッペを頬張っている。
そりゃそうだろう。守護聖の中でも、1、2を争う誉め上手のふたりを捕まえているのだから。
 
3人のお皿が空になると、アンジェリークは再び立ちあがった。
 
「ごめんなさい、わたし立ったり座ったりで落ち着きませんけど…」
「いいんですよ。こちらこそあなたに慌しい思いをさせてしまっていますから。」
 
…フ、流石に“わたくしがお給仕致しましょうか”なんて事は言わないのか、水の守護聖。
オスカーはちょっぴり残念に思った。
アンジェリークが次に持って来たのはスープの様だった。
お盆に3つのカップが乗っている。
目の前に置かれたそれは、香ばしい香りのするセピア色の液体。
オスカーは、ゆっくりとスプーンですくって口に運んだ。
…これも美味いじゃないか!
コンソメスープは、スープの中では最も難しいと言われている。
これがインスタントでないなら上等な腕前だ。
オスカーの頭の中に、新婚家庭の和やかな団欒風景が描き出された。
真っ白なエプロンをかけたアンジェリークが、“あなた、お待たせ♪”といいながらキッチンから出てくる。
手には美味しそうな手料理、エプロンの下はもちろん…
オスカーの妄想が危うく18禁モードになりかけた時、リュミエールとアンジェリークの和やかな会話風景がふと視界に入った。
…おっと、こうしちゃいられない。
 
「お嬢ちゃん。お嬢ちゃんの作る料理はどれもお嬢ちゃんみたいに美味しいぜ。」
 
「そんなぁ。」
 
アンジェリークは真っ赤になって俯いた。
随分と嬉しそうだ。
…ひとつ、最後にお嬢ちゃんも味見させてもらっていいかな?
この台詞は飲みこんでよかったと、オスカーはほっとする。
 
「次のお料理も持って来ますね♪」
 
初めは緊張した面持ちだったアンジェリークも、2品がふたりの大好きな守護聖に好評だった所為か、ちょっぴり自信が出たようだ。
…これなら次の品も期待できそうだ。
オスカーは、顔を緩ませながらそう考えていた。
リュミエールも、次は何かと心待ちにしている様子だ。
ふと視線を移した瞬間、オスカーに、アンジェリークが持って来た皿の中身がチラッと見えた。
…!!!!!
…そうか、重大な事を、俺は忘れていた。
依りによって、次のメニューであるサラダのドレッシングは。。。
そう。依りによって白い、ぐにゃぐぐにゅした物体だったのだ。
…中華ドレッシングなら食えるのに。。。
オスカーは歯噛みした。レストランでは大抵ドレッシングが選べるから、今までサラダで困った事はなかった。
しかし、まさかアンジェリークがマヨ派だったとは。。。
速攻で絶望のふちに立ったオスカーの前に、非常にもマヨの香りがぷんぷん漂うサラダが置かれた。
しかも、愛しいアンジェリークの手で。
…見ているだけで反吐が出そうだ。
…皿から漂ってくる匂いを嗅ぐだけで眩暈がしそうだ。
…マヨネーズが好きなヤツには絶対判らない、この不快きわまる感覚。
今まで、2品に速攻で手を付けたオスカーがずっと固まっている事には、まだアンジェリークは気づいていない様だった。
リュミエールが、サラダも誉めている。
アンジェリークは嬉しそうに笑っている。
オスカーは、冷や汗をかいている。
取り敢えず、さっきから固まりながらもマヨのかかっていない部分を探していたオスカー。
レタスの下敷きになっている部分に希望を託して、そっとサラダにフォークを入れる。
…よっし!
ラッキーな事に、下の方にあるオニオンスライスは無事だった。
…いや、待てよ。
オスカーは、しかしそこで手を止めて考えた。
…ここで、下手に一口だけ食べて後を残したら、アンジェリークはどう思う?
…不味かったんじゃないかって、変に誤解されたら、その方がもっと困るじゃないか。
…ここは、正直に苦手だって事を言うべきか?
そこまで考えた時、オスカーはふっとリュミエールと視線が合った。
…リュミエールは、俺がマヨをフルネームで言いたくないほどに(~_~;)大嫌いだと言う事を知っている。
リュミエールは、視線でオスカーに尋ねている。
“どうしますか?わたくしから言いましょうか?”
…水の守護聖の世話になるほど、この炎のオスカー軟弱じゃないぜ!
リュミエールの顔を見たとたん、それまでの弱気モードはどこへやら。。。オスカーはガゼンやる気になった。
…食ってやる!愛しいお嬢ちゃんが心をこめて作ってくれたサラダ!お嬢ちゃんだと思ってなっ!!
 
「あぁっ」
 
リュミエールのか細い悲鳴が漏れた。
それでもオスカーは構わず、マヨのかかったレタスを口に押し込み続けた。
…ハッキリ言って、俺は自らの味覚をしばし封印している。
…自分自身に、フォークでサラダをすくっては口に運びつづけるマシーンになるよう命令を下し。
…この苦悩、お前に判るか?リュミエール。
「もう、お止め下さいオスカー。
アンジェリーク、オスカーはマヨネーズが苦手なのですよ。
アンジェリークのお作りになる料理がとても美味しいために、思わず召しあがっていらっしゃいますけれど…
きっと、無理なさっている事でしょう。アンジェリークにも、苦手な食べ物はありますよね?」
「そうだったんですか?あぁ、どうしよう、オスカー様、ごめんなさい。私、知らなくって。。。」
 
アンジェリークは、半泣きになってオスカーにもういいですからと訴える。
 
「リュミエール!余計な事を。。。」
 
オスカーは、既にサラダを半分平らげていた。今更ばらされるのはオスカーにとって心外極まりない事だった。
…ここまで頑張ったのに、努力が無駄になったじゃないか!
 
「オスカー様、この間お部屋でお話したときに、苦手な食べ物を聞いておけば良かったです。
本当に、不愉快な思いをさせてしまってごめんなさい。」
「いや、知らなかったんだからお嬢ちゃんの所為じゃない。気にしなくていいんだぜ。
それどころか、お嬢ちゃんの手に掛かると嫌いなマヨも美味しく思えて、つい手を付けてしまったくらいだ。
苦手を克服できたら、お嬢ちゃんのお陰なんだぜ。」
「オスカー様。。。」
 
アンジェリークは、ようやくホッとした様子で立ち上がると、3人のサラダの器を持って奥に下がった。
オスカーは、素早く水をごくごくと飲み干した。
 
「オスカー、差し出がましい事とは思いながらも、あなたの様子はとても見ていられませんでした。
アンジェリークも、あなたの召しあがり方が不自然な事に気が付いて、とても心配そうなご様子だったのです。
あのまま黙っていれば、変な誤解を受けるかも知れないと思ったものですから…」
「いや……そうか。」
 
オスカーは、水でマヨの匂いを流し込めた事でようやく少し冷静になれた。
…そういえば、自分はマヨに耐えることに必死で、自分が今どういう表情をしているのかすら気にしていなかった。
…まあ、恐らくかなり怖い顔をしていた事だろう。リュミエールがうろたえるほどの。
そこまで思い至った所で、アンジェリークがメインディッシュを運んできた。
大振りの皿に盛り付けられているのは、血も滴るヒレステーキだった。
焼き具合も絶妙な半生。柔らかい上等の牛肉から滴る肉汁が食欲をそそる。
見れば、案の定リュミエールが青い顔をして皿の上の料理を注視している。
…お前にこれは、無理だろうが。
オスカーは、悪戯っぽく笑うとリュミエールの皿の上のステーキに、手元のフォークを突き刺した。
 
「これは俺が頂くぜ。いいだろう?水の守護聖。」
 
アンジェリークが、ハッとしてオスカーの顔を覗き込む。
オスカーは、バチンとウインクして微笑んだ。
 
「さっきのサラダが悔しくてな。これは俺がひとり占めさせていただくぜ。」
「オスカー。。。」
 
リュミエールが、潤んだ瞳で嬉しそうにオスカーを見つめる。
…悪くないぜ。こうして、こいつといたわり合う関係っていうのも。
ステーキを頬張りながら、オスカーはそんな事をつらつらと考えていた。
 
最後はカプチーノとハーブティーがそれぞれ振舞われた。
飲み物に関しては情報をしっかり掴んでいたらしく、アンジェリークの最後のキメは完璧だった。
 
      ~>゚)~~~ 
 
「今日は、わたしの料理を食べに来て下さってありがとうございました。ちょっとリサーチが足りなくて、行き届きませんでしたけれど…」
「いいえ、わたくしたちの方こそ、あなたのお作りになった、とても美味しい昼食を戴けて光栄に思っていますよ。」
「俺からも礼をいうぜ、お嬢ちゃん。また、誘ってくれ。今度は2人きりでな。」
「オスカー様ったら。」
 
嬉しそうなアンジェリークに手を振り、2人の守護聖は聖殿への道のりを並んで歩いた。
 
「リュミエール、今日は前菜にお前の嫌いなフォアグラが出なくてよかったな。」
「…実は、カナッペと聞いた時には、一瞬冷やりと致しました。」
「ははは、そうだろう。でも、まさかフレンチでマヨが出てくるとは、いよいよ俺も終わりかと思ったぜ。」
「ええ。わたくしもあれを見た時は、オスカーが食べられないという事を、わたくしからアンジェリークに話そうと思いましたよ。」
「しかし、俺はあれを口に入れた。あの時は驚いたか?」
「…フフ、その際のあなたの顔の怖さに、ですけれどね。」
「ハッ、そりゃ傑作だな。」
 
 
        ~>゚)~~~ 
 
 
「サラさん、こんにちは〜。」
 
「あら、女王候補さん。いらっしゃい。」
 
毎度の事ながら、アンジェリークはいつもの様に、こう依頼する。
 
「オスカー様とリュミエール様の親密度を占って下さい。」
「…ふふ、判ったわ。」
 
サラは、いつもの様に苦笑しながら水晶球に手をかざした。
 
「…星の囁きが聞こえるわ。」
 
ごくり。
アンジェリークは、毎度の事ながら緊張する。
 
「…あら?」
 
サラは、水晶球を覗いたまま固まってしまった。
 
「サラさん?!」
「あ、あぁ…ごめんなさい。アンジェリーク、このふたり、親密度最高よ。」
「ほ、本当ですか〜♪」
 
アンジェリークは、心底嬉しそうに手を叩いて喜んだ。
 
「うふふ、お2人の為に手料理を作ってご馳走した甲斐があったわ。
あ、そうだ、サラさんのラブラブフラッシュのお陰ですよね〜、流石サラさんだわ、ありがとうございましたっ。」
 
アンジェリークはうきうきしながらサラにぺこんとお辞儀をすると、占いの館から飛び出して行った。
しかし、サラは浮かない顔をして再び水晶球を覗き込む。
 
「アンジェリークと、ふたりそれぞれとの親密度も相変わらず高いけれど…なんか、ひっかかるのよね、これ。」
 
 
        ~>゚)~~~ 
 
 
アンジェリークは、この喜びをさっそく大好きなお二人に伝えるべく聖殿に走った。
聖殿の入り口に辿り着いたアンジェリークが、果たしてどちらの執務室から顔を出そうかと迷っていると、丁度思考対象の2人の守護聖の話し声が聞こえた。
声は、聖殿の中庭に面したテラスからだ。
アンジェリークは、悩みが解消された事も手伝って、満面の笑みでテラスへ続く廊下を急いだ。
この角を曲がればテラス。
パッと角を飛び出そうとした時、2人の会話の様子がおかしい事に気が付いて、アンジェリークは足を止め、そっと顔だけ出してテラスの様子を覗った。
オスカーとリュミエールが居る。
何事か熱心に話しているのだ。
立ち聞きする気は毛頭なかったが、会話は必然的に聞こえてくる。
 
「リュミエール、今朝はあの後遅刻をしなかったか?」
「ええ。なんとか間に合いましたけれど。オスカー、もう朝のオイタはお止め下さい。」
「フ、お前の寝起きの後れ毛が俺をそそるんだぜ。」
「オスカーっ!いい加減に…。」
 
リュミエールの会話が途絶えるのと、オスカーの顔がリュミエールに被さるのが同時に起こった。
 
「…う、嘘。。。」
 
アンジェリークは、それ以上いたたまれずに踵を返して寮の自室に駆け戻った。
 
サラがさっき水晶球の中に見たものは、本来なら守護聖と女王候補の間に見られるピンクのハートが
オスカーとリュミエールの間に、飛んでいる様子だったのである。
ラブラブフラッシュとは、かくも恐ろしき。。。
…………アーメン。
 
 
Fin
マヨ嫌同盟…ほんの冗談だって(^^ゞ 
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ayarinも、マヨ嫌同盟の一員なもので。。。マヨネーズ業界の方、いや…ほんの軽いジョークですってば(汗)