季節はずれの…
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毎日に潰されそうになる。
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資料をめくる日々。。。
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大陸に視察に行く日。
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そんな毎日が繰り返される。
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大陸に住む、全ての人々の生命を預かる。
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そんな日々が重圧ではない、と言えば嘘になる。
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そしてまた、憂鬱な月の曜日が始まる。
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結局、せっかくの日の曜日も、大陸への力の注ぎ方を研究して終わってしまった。
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守護聖様と楽しいお喋り?
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そんな余裕なんて、全知全能の女王陛下にだってないに違いない。
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多くの生命を預かる。
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そんな使命を背負っていて、うわっついていられるものなら、この宇宙はとうに崩壊しているだろう。
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色々悩んだあげく、私は夢の力を大陸に送ってもらおうと、夢の守護聖様の執務室を訪れた。
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運良く夢の守護聖、オリヴィエは在室していた。
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「はぁい☆待ってたよ。来てくれて嬉しいよ〜。」
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にっこり笑顔で迎えてくれるオリヴィエ。
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守護聖様達はみんな親切で、それが自分の背負った重圧を辛うじて癒してくれていた。
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オリヴィエだって例外じゃない。
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「夢の力を沢山送って下さい。」
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そう、いつも通りにお願いしてみた。
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「オッケー。あんたにも、ちょっぴり夢の力を贈ってあげようか。」
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「?」
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驚いている暇すら与えられずに、オリヴィエに抱きかかえられるようにして
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私は執務室のそとへ…宮殿の外へ連れ出された。
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「え?え?」
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小さな声でそう呟いてみた。
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けれど、オリヴィエはまったく気にする様子もなく、軽々と私を抱きかかえて、足早に歩いて行く。
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オリヴィエの肩越しに、ハラハラと舞い散る枯れ葉がとめどもなく落ちるのが見える。
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聖地の秋。
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四季の恩恵を享受できるのも、聖地ならではの配慮と言えるだろう。
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安定した気候と、四季折々の景色。。。
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オリヴィエの歩く速さの分だけほほに微かにあたる風も、幾分ひんやりとして感じられる。
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カサカサカサ…
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踏みしめる度に、枯れ葉が音を立てる。
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その、乾いた音とは裏腹に、聞くものの心をしっとりとさせる…そんな音に感じる。
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はじめて気がついた。
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いつも考え事をしながら歩いていた私の視界には、こんな光景ですら、映っていなかったのか。
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こんな音ですら、私の心に聞こえなかったのか。
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たった今、そんな風に思ったことがきっかけに…五感がみるみる冴えてくる。
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私の体に腕を回したオリヴィエの感触。髪の香り。。。
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「さ、着いたよ。」
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はっとした。
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オリヴィエが私を降ろしたのは、次元回廊の前だった。
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次元回廊。。。
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定期試験の時に通る、非日常的な施設…
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そこを、その目的以外で通る。
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夢の守護聖と2人きりで。
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いつもの焦燥感は消えていた。
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自分が負った、大きな使命の重圧に張り詰めていた神経の糸が、弛緩していくのが判る。
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昔の自分に…ここに来る、ちょっと前までの自分に心が戻っていく。。。
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オリヴィエに手を引かれて、私は次元回廊をくぐった。
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行き先は…?
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次元回廊を抜け、オリヴィエが施設の扉を開く。
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扉の外に広がっていたのは、先程後にして来た聖地の風景と、さして変わらぬ秋色の景色…
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ここは…?
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いったいどこ?
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オリヴィエ様…?
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胸が一杯になっている。どうして?
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オリヴィエに手を引っ張られたまま歩く。
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さっきと違うのは、私が自分自身の足で、地面に敷き詰められた枯れ葉の絨毯を踏みしめている事。
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カサカサカサ……
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オリヴィエの横顔を、そっと覗いてみた。
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ドキッ
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キリリとしたオリヴィエの瞳。
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ほほを横切る風と同じ位に鋭く、冷たい光。
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怒っている?
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判らない。
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オリヴィエはずっと、無言で私の手を握って歩いている。
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その手のぬくもりだけは、本当に暖かい。
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まるでオリヴィエの手のひらにだけ、神様が夏を置き去りにしたかの様に。
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鮮やか過ぎるほどの高い空の青。
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対照的に、辺り一面、けぶるような霧。
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突き刺す様に冷たい空気。
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そして、赤く色づいた街路樹。舞い散る枯れ葉の雨。
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静かな、静かな街の景色。
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夕闇が迫っていた。
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怖いほど真っ青な空が、みるみる濃紺に染め上げられていく。
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鮮やかな天然色のグラデーション。
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これを美と言わずして、何をもって人は美を定義付けるのであろう。
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痛いほど美しい紅の空に、オリヴィエの持つ夢のサクリアが溶け出していくようにさえ見えた。
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気がつくと、オリヴィエと私は吹き抜けの小高い丘の上に居た。
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「驚いた?ワタシがずっと無言だったりしたから。」
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ちょっと茶化したようないつもの口調で、オリヴィエが私を突つく。
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私は、はにかんで俯く事しか出来なかった。
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気がつくと、振り仰いだ空はすっかり夕闇に染められ、漆黒のヴェールが広げられている様だった。
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すぐそばでは鈴虫の音が、この状況に最後の仕上げをするかのように、涼やかに聞こえている。
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「見ててごらん。そろそろだよ。」
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オリヴィエが、何を言わんとしているのか…
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その意図も掴めぬままに、私は隣のオリヴィエに習って空を振り仰いで見る。
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ひゅーるるる ドーン ぱらぱらぱら
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「!!!」
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それは…
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それは、紛れもなく花火だった。
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色とりどりに空に咲き乱れ、幾度も儚く散る夢。。。
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オリヴィエは黙って空を見上げ、そしてそっと私の顔を見つめた。
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「オリヴィエ様。。。」
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私も、オリヴィエ様の瞳の奥を見つめる。
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「綺麗だね。
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例え儚い夢でもね、ほんの一瞬でも心を揺り動かす美しさがこの世には沢山あるのさ。
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そんな物を総称して夢≠チていうのかな。
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季節はずれの花火だからこそ、妙に感動しちゃう事も、あんただったら判るよね?
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意味あること、現実的な事を大切にする為には…
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同じくらい、夢をみなくっちゃ、現実に負けちゃうよ?」
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それまで苦しさにもがきながら
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重圧に潰されそうになりながら
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唯一使命感に後押しされて、必死に支えてきた自分の…
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心がとっくに潰されていた事なんて、そんなに脆いものだなんて、今まで気がつかないで居た。
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「オリヴィエ様…………」
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何時しかオリヴィエの手を握り締めて、私はうつむいて泣いていた。
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オリヴィエが、ゆっくりと私の肩を抱き寄せてくれる。
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「考え過ぎる」
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よく、友達にそう言われたかもしれない。
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私の、この性格を…この人はすべてお見通しなのかもしれない。
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強がって心で悲鳴をあげている、脆い私を、誰より…
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これからは、夢を見ていたい。
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今まで通り、現実をしっかりと見つめ、その大いなる使命を受け止める為に。
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あなたの、傍で…
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〜 FIN
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