A型 のあなた。
 
普段の私だったら、よりによってリュミエール様に革ジャンなんて、想像もつかない事でしょう。
オスカー様や、オリヴィエ様なら喜んで着こなしてくれるでしょうけれど。
 
ほんとうは、わたしだって直前まで悩んだ。
リュミエール様のお誕生年のヴィンテージワインとか、ドン・ペリとか、メンズの香水とか、花束とか。。。
 
でも。
 
どうしても耳にずっと残っていた言葉があった。

 
まだ、リュミエール様と出会って間もない頃。何かの話の弾みにちらっと、リュミエール様がこうおっしゃっていた。
「…わたくしは、その姿の原型を留めている肉料理は趣味に合いません。
食事と言うものは、やはり見た目も大切ですから。このようないたいけな動物を…と想像してしまうと、とても。食が進まないのです。
…でも。彼らを食べる事によってわたくし達がこの世に生かされているのですから、そうならば無駄にしてしまう事こそ
罪、だと思うのです。肉を取るだけでなく、その革も利用するのであれば、革製品も意味を持っているのでしょうね。。。」
 
はじめは、何気なく聞き流していたけれど、その意味を気にして考えてみると一体リュミエール様の言わんとしている事がなんなのか、
だんだん判らなくなってきて。でも。
もしかして…。
 
リュミエール様はとても寒がり。森の湖でお話していても、夕刻の風が吹きはじめると
「…寒くなってきましたね。そろそろ戻りますか?」
とおっしゃる。
リュミエール様は海洋惑星のご出身。気候はとても温暖だと聞いている。
飛空都市には若干ではあるけれど、四季がある。
革でできた暖かい衣料品を、もしかしたら欲しがっているのかも。
そう、考えたらいてもたってもいられなくて。
 
わたしは革ジャンを手に取っていた。もしかしたらリュミエール様は嫌がるかもしれない。そんなリスクを冒すのは、私にはかなり勇気がいる事だった。
三日三晩悩んだ末、わたしはオリヴィエ様のところに行った。
 
「こんにちは」
オリヴィエ様の執務室の扉を開けると、運良くオリヴィエ様は在室していた。
「あらぁ、お久しぶり。元気してる?」
爪を研ぎながら、オリヴィエ様は嬉しそうに笑顔を向けて下さった。私は、オリヴィエ様のお傍に近寄った。
「…?で、今日は育成のお願いかな?それともお話かな?」
「はい。オリヴィエ様とお話がしたくて。」
「きゃは☆嬉しい事言ってくれるじゃない。そうね、何の話がいいかな?」
オリヴィエ様は、ヤスリを机の上に置いて、手を組んだ。
「じゃあ、お洋服の事をいろいろ教えて下さい。」
「…へぇ。あんた、ファッションに興味あるの?女の子はそうでなくっちゃ。と・く・に、ワタシん所に聞きに来てくれるあたり、あんたのセンスが買えるね。
で、具体的に話してくれるかな?自分に似合うものが知りたい?それとも何か他の事?」
…私の心は揺れた。
-自分に似合うもの、し、知りたい!でも…-
「えと、あったかい服装を教えて下さい。」
やっぱり、リュミエール様の事を知りたい。
オリヴィエ様は、しかし真顔で頷いた。
「そう。防寒は女の子にとって、本当に大切な事よ。自分のスタイルを魅力的に見せることも大事だけど、冷えは最大の敵だからね。
よし、あんたがそれを判っているなら上出来。このオリヴィエ様に任せなさい。冷やさないで魅力的に装うコツを教えてあげるから。」
…そうなの?
「うーん。まずは下着ね。いい?スタイルの基本を作るのは、毎日着ける下着と言っても過言じゃないよ。ん?どうしてかって?
下着は、1番素肌に密着してるでしょう?それに、案外締め付けているもんなの。毎日のほとんどすべての時間、着けていたら、嫌でもその形になっちゃうでしょ?
だから…」
  ------30分省略------
「…と、いう訳。次にいよいよ服選びだけど、あったかい装いの仕方にも2種類あって、重ね着と、温かい素材を身に着ける事。まず重ね着する場合は…」
  ------60分省略------
「そして、温かい素材。うーん。得てして温かい素材ってのはもこもこしてるから、重ね着は出来ないよね。それよりはふんわりと可愛く大きめのものを羽織ったらドウかな?
ん?どんな素材かって?そうねぇ…毛皮とかフリースとかセーターとか革とか…」
!!ビンゴ!!…わたしはようやく心の中でそう、叫んだ。革。そうなのよ革!
「革ですか?」
そして、あわてて口走った。
「そう。うふふ。革を着こなしたいのかな?あんたにはちょっとごつい気もするケド。ねえ、リュミエールには革、似合うと思わない?
あのこ、寒がりだから、革着なよって薦めてるんだけどさぁ、なんかはっきりしないんだよね。着てはみたいらしいんだけど、
ワタシが薦める真っ赤な革ジャンに抵抗があるのかなぁ…」
 
…着てはみたい?!
 
−その後の私は心ここにあらずで、オリヴィエ様が何をお話してたのかさえ、覚えていない…−
  
そうして、今私の手にはラッピングしたこげ茶色の革ジャンがある。
 
「リュミエールさま」
後姿のリュミエール様に、そっと声をかける。
リュミエール様はゆっくりとこちらに振り返った。
 
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