jealousyの法則 3
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「・・・あんた、そーんなコト言ってたっけね。すっかり、忘れてたよん☆」
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「はぁ・・・」
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ロザリア、深い溜息。
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場所はオリヴィエの私邸のダイニングキッチン。ロザリアは観念した様にさっきから事の顛末をオリヴィエに説明している。
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「ふふん、そーね。でも、最初から説明しちゃえば良かったじゃないさ。」
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オリヴィエは頬杖をついて、隣に座るロザリアの顔を覗きこむ。
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「そうおっしゃいますけど・・・私だって、女王候補時代があったんですからね!それに、ジュリアス様だけ独身だなんて・・・」
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その言葉が終わらないうちに、ロザリアの顔が、彼女にはあるまじきふやけた表情になる。
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「!!」
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その表情に驚いたのはアンジェリーク。オリヴィエが、ロザリアの横っ腹を人差し指でつついたのだ。
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「・・・失礼。」
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ロザリアは、気を取りなおす。
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「とにかく、私が候補の時は、守護聖の皆様方は全て独身でいらしたんです。でも、まあ、こういう訳で・・・
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現陛下がご結婚されるに当たり、決まり事がちょっぴり変わりまして・・・」
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自分の入れ知恵だとは、ちょっと言えないロザリアである。
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一方、アンジェリークは、現女王陛下が即位されてからいくらも日数が経っていない事を知っていた。
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「・・・そんな・・・ほんの少しの差で・・・」
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アンジェリークは、もう信じられない、といった面持ちで泣き出した。
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ロザリアは、その気持ちが痛いほど判るだけに、候補時代オリヴィエと過ごした蜜月の日々が後ろめたくて、必死でアンジェリークをなだめた。
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「ふーん、でも。ココ(聖地)ではほんの少ししか経過していない時間も、あんたが居た下界では何十年、なんだけどねえ、アンジェリーク。」
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そんな光景を見つつも、オリヴィエは、小声でそう呟いて肩をすくめた。
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「へーえ、オリヴィエ様とロザリア様が・・・」
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レイチェルが意外だと言う表情でアンジェリークを見る。アンジェリークだって同じ気持ちである。
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「うーん、これで、守護聖様の奥様が全部判明したわね。」
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満足げにレイチェルがにこやかにうなずく。
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「うん。悲しいけど、私もこれからは試験一筋に生きるわ!」
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アンジェリークも、こぶしを握り締めている。
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なんとも、立ち直りの早い二人である。
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「それにしても、ココって、守護聖様位しか、イイ男いないよねー。」
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「うん。そうね・・・やっぱり『特別な存在』って、ステイタスだもんね。」
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「そーそー、イイコト言うね!教官とかって所詮ワタシ達と一緒に下界から来て、試験終わると下界に帰っちゃうんだもん。
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つまんないよね。少なくともワタシ達はずーっと、どっちかが『女王』で、どっちかが『補佐官』なんだしねー。」
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「そうそう。いずれは立場が逆転!なんだもん。レイチェル、試験頑張ろうね☆」
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一方、二人の女の子にナメまくられている三人の教官のうちの一人、セイランの執務室・・・
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「ふふっ・・・やっと完成だね。これはどこに飾ろうかな♪」
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機嫌良く絵筆を置いたセイランの目の前に、授業中にうたた寝をする二人の候補の姿が描かれていた。
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後日、奥様から話を聞いたルヴァが、慌ててその絵を外しに王立図書館に飛んで来たのは・・・もっぱら聖地の噂である。
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アンジェリークが帰った後、なおもオリヴィエとロザリアはさっきの続きを話していた。
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「・・・あの子達には、かえって酷な事になっちゃったわね。」
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「そうよう。初めから判ってたら、好きになんかなんなかったかも知れないのにさっ。あんたって、野暮だねえ。
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まあ、すんだ事だもん。気にしない、気にしない。」
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「・・・あなたはそう言いますけど。オリヴィエ。私にはとてもそんな事言えないわ。
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あの、ジュリアス様の前で・・・傷跡を蒸し返すような・・・」
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「・・・あはは☆そうだった。ジュリちゃんが現陛下に告白して見事振られた次の日に、
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同じ森の湖で現陛下がクラヴィスに告白しちゃったんだもんね。きゃはっ、今思い出してもあんまり可愛そう過ぎて笑えるよ・・・
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あの後、暫く宮殿に姿見せなかったもんねぇ。ジュリアス。しかも、現陛下に遠慮して、あんまりクラヴィスの事も怒鳴りつけられなくなっちゃってさ・・・
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ま、今じゃあ前より風当たり冷たくなってる気がするけど。」
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「その様子をクラヴィス様が面白がっちゃうから、尚更始末が悪いんですっ!陛下には、いつも私から注意してね、て頼んでるんですけど。」
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「惚れた弱みってやつよ。陛下だって、クラヴィスのそーんなトコに惚れたんでしょうからさ。んふふ・・・」
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「まぁ、オリヴィエったら・・・」
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「あきれた顔も可愛いよん。さ、今日はもう寝ましょうねー♪♪」
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オリヴィエは、ハミングと共に寝室に消えていく・・・そんな彼のご機嫌な後姿を目で追いながら、
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自分の幸福に『二人とも、ごめんね』と心の中で呟くロザリアであった。
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「きゃあ、来て下さるなんて嬉しいです♪さあ、お座りになって下さい。」
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初めてのジュリアスの訪問に、アンジェリークはすっかり舞い上がっていた。
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今まで、怖くて厳しいかただと敬遠していた首座の守護聖が、自分の部屋にわざわざ足を運んでくれたのだ。
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「今、コーヒーを淹れてきますから・・・」
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緊張してぺこりと自分にお辞儀をするアンジェリークの事を、ジュリアスはほほえましく眺めている。
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はっきり言って好みなのだ。
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恋破れた愛しい現女王陛下にも似ている様で・・・やっぱり控えめなアンジェリークは、
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ジュリアスにとって滅茶苦茶、好みのタイプだったのだ。
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「最初の定期審査の時は、私も様子を見る意味で二人とはほとんど接していなかったが・・・
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アンジェリークは事の他、一生懸命やっている様だ。この私が後ろ盾をしてやれば、怖いものなど無かろう。」
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ご満悦なジュリアス。
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「・・・遅いな。何をやっているのだ?」
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アンジェリークは、馴れないコーヒーメーカーの扱いに悪戦苦闘していた。ジュリアスの知る由も無いが。
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「・・・。」
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「・・・?」
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ふと、ピンナップボードを何気なく眺めたジュリアスは、「望みの予測」ではないものが貼られている事に気が付いた。
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さっきから手持ち無沙汰な所為か・・・静かにジュリアスはそれに近づいた。
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「・・・!!!」
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次の瞬間・・・ジュリアスはカッと目を見開いた。
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「すみませーん。ジュリアス様、お待たせしましたー。・・・あれ?」
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ジュリアスは居なかった。開け放たれたドア。ジュリアスのイメージにそぐわぬ振る舞いにアンジェリークは怯えた。
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「わ・・・私がもたもたしていた所為で・・・ジュリアス様、怒らせちゃった・・・」
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「クラヴィス様・・・又、ジュリアス様に喧嘩をお売りになったのですか?」
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クラヴィスの執務室でリュミエールがそっと呟く。
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「何故だ。リュミエール。」
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口の端が微妙に上がるクラヴィス。現陛下と結婚してからというもの、ジュリアスの話題になる度にクラヴィスはこうなる。
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・・・よっぽど幼少の頃、あの方に傷つけられたのでしょうか?リュミエールはいつもそう思う。
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「さっき、ジュリアス様が私の執務室にみえました。暫らく・・・いえ、その・・・」
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リュミエール、非常に言いにくそうである。
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「暫らく・・・何だ?」
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「はい、暫らく・・・私が描いた故郷の海の絵を・・・眺めてらしたんです。お辛そうな表情で・・・」
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「それと、私と何の関係があるのだ?」
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「お忘れになったのですか?クラヴィス様のご結婚が決まった時・・・あの方は毎日の様に私の絵を眺めに来ていましたが・・・」
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「ああ・・・そうだったな・・・」
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「ですから、又何か・・・」
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「知らぬな。」
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「・・・そうですか。」
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では・・・一体?・・・リュミエールには、他の理由がまったく思い当たらなかった。
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「ロザリア、ちょっとよろしいですか?」
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微笑みながら補佐官室に入ってくるのは、リュミエールだった。この方がここに来ると言う事は・・・
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「何かございまして?」
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悩み事を抱えている時だ。しかも、自分以外の人間関係の。
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「さすが・・・察しが宜しいですね。実はさっきアンジェリークが私の所に・・・」
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「アンジェリークが?」
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ロザリア、またも嫌な予感。まさかあの事をリュミエールにも聞きに来たのかしら・・・?
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「ええ、何でも、ジュリアス様を怒らせてしまったようなのですが。」
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・・・Oh my GOD!・・・ロザリアは思わず下界に居た時の癖で、胸の前で十字を切る。
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ああ・・・ジュリアスに聞いたのね。よりにも寄って・・・
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「どう言う風に、怒らせたのか、言ってましたの?」
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「ええ、何でもお部屋にいらっしゃったのでコーヒーをお出ししようとしたのですが、
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馴れていなくて随分とジュリアス様を待たせてしまったらしいのです。
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コーヒーを手に部屋に戻った時にはジュリアス様は居なくなってたそうなのです。」
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「え?あのジュリアスが、勝手に帰るなんて・・・」
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「私もそう思います。時間には厳しい方ですが、来客をもてなす為に待たせている位で怒って帰るような方ではないと。」
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「・・・他には?何か・・・」
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「ええ・・・実は午前中にジュリアス様が私の執務室を訪ねて下さったのですが・・・ちょっと様子が変だったんです。」
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「変・・・と言いますと?」
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「丁度・・・陛下の結婚式の頃のような・・・」
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「!!!」
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・・・やっぱり・・・
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「判りました。私がアンジェリークに聞いてみましょう。」
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「お願いしますね。」
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ほっとして補佐官室を後にするリュミエールの優雅な後姿を見送りながら、
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ロザリアは、自分のジュリアスに対する心使いさえもがアダになった事を感じていた。
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「アンジェリーク、ちょっとよろしいかしら?」
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「はーい、どうぞ。」
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アンジェリークの部屋に一歩踏み込む。
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「あ、お掛けになって下さい。」
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先日の申し出はどこへやら、すっかり女王試験に精を出してる風のアンジェリークの部屋は、ジュリアスが喜びこそすれやっぱり怒る要素が判らない。
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「ロザリア様は、紅茶で・・・?」
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「ええ、良くってよ。」
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「すぐ淹れてきます!」
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大急ぎでキッチンに消えるアンジェリーク。昨日のジュリアスの一件が堪えたのだろう。
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「悪くないわね。学習机の上にも参考書がめくられた痕があるわ。ピンナップボードには望みの予測・・・ん?」
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違和感を感じ、ピンナップボードに近づいたロザリアは一瞬固まり・・・
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「嘘ぉ〜〜〜っっっ」
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と悲鳴を上げた。奥から、アンジェリークが飛び出してきた。
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「あなた、まさかこれを昨日もここに付けていたのかしら?」
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「・・・はい。」
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アンジェリークはうな垂れている。
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ロザリアの言う『これ』とは、
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−−− 守護聖様 奥様 一覧表 −−−
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ジュリアス様 =独身
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クラヴィス様 =女王陛下
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ルヴァ様 =王立図書館のスタッフ
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リュミエール様 =美容師
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オスカー様 =下界からさらって来た
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オリヴィエ様 =ロザリア様
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ランディー様 =喫茶店のウエイトレス
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ゼフェル様 =王立研究員のスタッフ
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マルセル様 =私邸の温室係
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と、かわいい丸文字で書かれた模造紙だった。
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「・・・何もわざわざこんな一覧表を・・・」
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悪い予感ほど、的中率も高いのが世の常。
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「え、と。もしかして、ジュリアス様、これを見てお気を悪くされたのかしら・・・?」
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・・・もしかしなくても・・・気ぃ悪くするだろう。誰だって・・・とは言えない補佐官ロザリアだった。
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「とりあえず、これは破棄して頂戴ね。」
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せっかくレイチェルと協力して作った作品ではあったが、昨日のジュリアスの一件がかなり堪えていたアンジェリークは、素直に頷いた。
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程なくして、女王試験は終了した。アンジェリークが新しい宇宙の女王に、レイチェルが補佐官に任命された。
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任命式の日に、終時顔が緩んでいたクラヴィスにジュリアスが突っかかった事は、記憶に新しい。
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「ワタシ達、新しい宇宙では二人キャリアウーマンで過ごそうネ」
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「うん。そうしようね。」
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誓いも新たに新しい宇宙に旅立つ二人の女の子・・・
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「現代っ子ですねぇ・・・」
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ルヴァがしみじみと微笑む。
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ロザリアは気の毒そうに、今回一番の被害者であるジュリアスをそっと見つめた。
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fin
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to desk