#1 初めは雨の日で    (作者 Tomo)


 しとしとしと・・・ その日は朝からの雨で少し憂鬱だった。

 いつものように事務所に顔を出し、藍原女史に挨拶をすますと調査中の話を進める為に瑠璃子さんと外出した。
つまらない仕事だ。今回の仕事もよくある浮気調査だった。

 高校卒業後、つまらない日常はゴメンだという理由で仲間内と探偵業を始めた。
小説などによくあるハードボイルドな世界にあこがれたのと、電波の力を役立てられるかなと思っての事だった。が、見ると聞くとでは大違い。実際は浮気調査や、ペットの捜索といったような話が大半であった。

 確かに電波の力は役に立った。腹に一物持っている人間の本音を見透かす事が出来たし、丘の上などの小高い場所で電波を集めれば大抵の情報は収集できた。その甲斐あって最近では評判も上がり、仕事が無いなどと嘆くこともなくなった。

「あ〜あ また浮気調査か…… もっとわくわくするような仕事は無いのかねぇ」
「長瀬ちゃん そんなこと言っちゃ営業さんが可哀想だよ」
「ん〜 でもねぇ 子供も産まれるしさ、 もっとギャラの高い仕事したいんだけどな」
 それを聞いた時、瑠璃子さんは少しだけ悲しそうな目をした…… ような気がしたのは僕の自惚れだったんだろうか?

「長瀬ちゃん…… 行こっ」
 僕らは営業車に乗り込み出発した。

 とある大きな旅館の東京事務所の前まで来た。今回の調査対象である。なんでも、東京に単身赴任中の旦那が浮気をしていないかどうか調べて欲しいという依頼だ。

 まずは事前調査である。雑居ビルなのでビルに入ること自体は何のおとがめも無い。
屋上まで行き、配管に手を触れ電波を集めはじめた。雨の日は電波が届きにくいが有線でならそんなこともない。


 2時間ほど情報収集をしてみたがめぼしい話は無かった。
「やっぱり、奥さんの心配のし過ぎじゃないかな」
「長瀬ちゃん、飽きっぽいから… (^^ゞ」
 瑠璃子さんが苦笑する。まったくその通りで、もうとっくに飽き飽きしていた。
「情報集めてても、浮気の『う』の字も無いんだもの 本当に浮気してるんなら噂話の一つや二つあるもんだよ」
 本当の所、言い訳をしているに過ぎないのだが それはバレバレだったようだ。
「……… 長瀬ちゃん (ー_ー)」
「も、もうちょっと調べてみよっか (^^;)

 更に2時間後
「ん? この話かな?」
「長瀬ちゃん 電波見つけた?」
「かもね」
      ・・・ ザザ ザー ・・・

『えぇ〜 耕一課長 浮気してるんですか?』
『あくまで噂なんだけど、なんか貢いでいるって話よ』
『うっそぉ〜』

『経理の子に聞いたんだけどぉ、 なんか毎月一定額だけ手渡しで給料もらっているらしいのよ』
『なんか幻滅ぅ』
『そーお? 私だったら浮気しちゃうな 玉の輿、の・れ・るかも』

      ・・・ ザザザ ザー ・・・

「調査の必要ありだね」
瑠璃子さんがにっこりと微笑んだ





 結局浮気の事実は無かった。確かにお金を出している事実はあった。が、それは昔叔父さんが起こした事件に対する個人的な補償、というより罪滅ぼしの様なものであった。

「違ったね」
「うん」
「……」
「……」

一瞬沈黙が支配する。

「さってと、とっとと報告書をまとめて終わりにするかな」

「長瀬ちゃん」
「ん? 何? 瑠璃子さん」
「悲しい話 だったね」
「瑠璃子さん、それは... 僕らが踏み込んではいけないんだよ」
「うん… そうだね」

「・・・」
しばしの沈黙の後、
「あ、もう十一時回ってるよ。 沙織の雷が落ちるなぁ」
「長瀬ちゃん 帰ろか」
「そーしよ。 瑠璃子さん早く乗って」
バムッ! 勢いよく自動車の扉を閉め
「ちょっと急ぐよ」
そういうと、軽やかにという言葉の通りに走りだした。

 程無くして、車は月島邱に到着した。
「さ、着いたよ瑠璃子さん」
「アリガト 祐介ちゃん」
「じゃ、お疲れさま」
「長瀬ちゃん… 運転気を付けてね」
「うん」

 瑠璃子さんを降ろした後は、それこそ疾風(しっぷう)のごとく車を駆った。
それは端からみれば不思議な光景だったであろう。ただの白いワゴン車が200Km近く出しているのもそうだが、信号が赤にならないのである。まるで街そのものが祐介を送り届けようとしてるようにも見える。

「さっすが天下の来栖川ワークスだなぁ」
 祐介は今更ながらに感心をした。 しかし速い理由はそれだけではない。 祐介は電波を使い信号に干渉していたのだった。 止まることが無ければ風の如く走れる訳である。

「そろそろ着くな」
 見慣れた道が見えて来たので祐介はスピードを落とした。 雨足はかなり強くなって来ていた。

 その時である。 雨の中、照らされたライトの先に一人。 女の人が倒れていた…


続く



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