#2 嵐の晩に    (作者 Tomo)


「あれは?!」
キキキー 慌ててブレーキをかける。
ヘッドライトに照らされたそれを見つけた祐介は
「僕が轢いたんじゃないよな。 ていうか今止まってるこの車より前にいるじゃん」
そう呟いた。

「もしもし、どうしました?」
「来…る… やつ…らが… …わたせ…い…」
「え、奴らって?」
「………」
それだけ言うと女性は意識を失ってしまった。

 先程からの雨は既に土砂降りとなっていた。 降りしきる雨の中このまま放って置くわけにもいかなかったのでとりあえず連れていくことにし、ワゴンの後部座席に寝かせた。
「二十歳くらいかな? にしても厄介なもの拾っちまったな 沙織ちゃんにどやされるな」
運転しながら祐介は愛妻の怒った顔を思い浮かべ苦笑した。


「ただいま」
「お帰りなさい 裕君。 遅かったね今日は」
そう言いながら奥の部屋から沙織が出迎えてくれる。
「って、何よ! 裕君その女の人は!!」
祐介は両手で件の女性を抱きかかえていた。
「いや、ちょっと訳ありで拾ったんだ」
「浮気ね。 裕君私にもう飽きたのね (`へ´)」
「ちがうって。 僕の話も聞いてよ」
「あてつけみたいに他の女の人なんて連れて来て、私を捨てるのね (;;)」
「沙織ちゃん! 頼むから誤解しないでよ」
「だって、だって(え〜ん)」
沙織は泣き出してしまった。 こうなると始末に負えない。
「僕は浮気なんかしないよ」
「本当に浮気じゃないの? (ひっく)」
「だから違うって。 大体僕が沙織ちゃん以外の女の子を好きになるはずがないじゃないか」
そう言いながらも祐介は
『詭弁だな… あの時に自分が何をしたかを考えればそんなこと言えないよな……』
と、考えていた。
「本当に?」
「本当だって」
「じゃぁ キスしてくれたら許してあげる」
途端に祐介の顔が真っ赤になる。 外見を裏切らずシャイな祐介なのであった。

女性をリビングのソファーにそっと寝かせると、
「ん〜〜 チュッ」





しばらく沈黙が辺りを支配する。

程無くして二人の顔が離れるとその間に橋が出来ていた。


「うっ…、ううっ……」
件(くだん)の女性が気がついたようだ。
「ここは…? 」
女性はあたりを見回し様子をうかがう。そしてそこが自分の知らない場所であることを理解すると、太股より隠し持っていた銃を抜き出し突付けた。
「手を挙げて下さい。 撃ちたくはありません」
このような事態になって祐介は
『あちゃあ やっぱり厄介なもん拾っちまったか』
等とのんきに考えていた。見た所銃を構える手が小刻みに震えているうえにセーフティロックも外れていない。 典型的な素人構えであったからだ。 が、これ以上ややこしくなるのもゴメンだったのですなおに挙手(きょしゅ)した。

「ここは何処ですか! 貴方方は私をどうするつもりですか」
「それを答える前にその物騒な物をおろしてくれないかな」
「貴方方が私の敵でない保証はありません」
「見た通りここはただの民家だよ。 敵どころか礼を言って欲しいぐらいなんだけどな〜」
祐介はそう言って軽く諭した。 軽いジョークを混ぜながら。 その口調は親類の刑事にそっくりであった。

「どういう意味です」
「話すからさ、まず銃をおろして下さいよ。 味方かどうかはともかく敵でないことだけは保
証するからさ」
「ふぅ…… わかりました」
銃口の向きが下に変わる。
「まっ、座りなよ」
祐介はソファーに彼女を座らせた。 やはりかなり無理をしているらしく顔色はすぐれない。


「まず自己紹介をしておこうか。 僕の名は長瀬祐介。 私立探偵をやってます。 んで、そっちが」
「妻の沙織です」
沙織が会釈をする。
「私は玲緒。 安倍野 玲緒と言います。」
「そうですか。 しかし玲緒さん、貴方この豪雨の中、何故あんなところに倒れていたんです? 僕が見つけなかったら危ないところでしたよ」
「えっ?」
「覚えていませんか? 『これは奴らに渡せない』って僕に言ったんですよ」
「そんなことを……」
「あっ、確か私立探偵をなさっていると言ってましたね」
「ええ」
「力になっていただけますか?」
「報酬しだいですけどね」
そう言って祐介は笑った。 本当のところ報酬はあまり問題では無かった。 ただ、単純に面白そうだといういたずら心が働いたのと、玲緒がどんな反応を示すか様子を見たかったのだ。
「…わかりました。 報酬は言い値でお支払いしますので力になって下さい」
祐介の予想通りというか玲緒さんはあまり疑り深い性格ではないようであった。
「貴方を見つけた時の様子といい… どう見ても素人の貴方がそんな物騒なものを持っている
ことといい… この事件相当ヤバそうですね」
「私は素人ではありません!!」
玲緒がそういったのを聞くと祐介は人差し指を顔の間に立てて左右に振った。
「ちっちっち 銃はねロックを解除しなければ撃てませんよ (笑)」
途端に玲緒の顔が真っ赤になる。
「まっ、これも何かの縁です。 引き受けましょう」
「ありがとうございます」
「で、いったい何を渡せないって言うんですか」
玲緒は少し難しい顔をした後に
「わかりました。 お話し致します。 実は……」



続く


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