ロジンケミストリーをMOPACで解析 : やや大きい分子の反応を計算するといろいろ問題が出てきます。どのように取扱うか、結構やり方があります。
一般的な反応としてロジン-無水マレイン酸付加反応があります。ニートの200℃前後の反応です。溶媒の考察が不要なので、分子軌道法が参考になるものです(溶媒を使用する反応では溶媒効果そ考慮して計算するか、あくまで理想的な条件だと念頭に置いて利用することが必要です)。
ロジンに無水マレイン酸を付加させる反応はDiels-Alder反応で、ジエンとエンの二つの部位の協奏的な反応です。従って、キーワードとして「symmetry」を使います。Z-matrixをわかりやすくするために、ジエンの4炭素原子に最初の番号をつけ、エンの2炭素原子に付加分子の最初の番号を付けます。2分子を別々に作るのではなく、最初に付加後分子を作って結合する原子を明確にして、結合原子の原子間距離を長くすることでminimum
energyを計算させます。このようにやらないと、最初の構造の設定に苦労します。
1. ロジン異性体のΔH
ロジンにはいくつかの異性体がある。代表的な異性体について、生成熱(ΔH)を計算して安定性を見る。gemicalで内部座標を確定してZ-matrixを作成し、キーワードを「PM3
EF PRECISE」としてMOPAC7で計算する。
ロジン異性体 | ΔH kcal | ΔH kcal | ||
アビエチン酸 | -107.3 | 無水マレイン酸 | -90.1 | |
レボピマル酸 | -106.3 | |||
パルスチン酸 | -110.3 | |||
デヒドロアビエチン酸 | -106.3 |
アビエチン酸がロジンの主成分と記憶していますが必ずしも最も安定というわけではないかもしれません。MOPACでこのように出るのが何を意味するのか、考えるのも一興と思います。
2. レボピマル酸と無水マレイン酸の反応生成物
@ロジンに無水マレイン酸を付加させる時、ロジンはレボピマル酸の形になってDiels-Alder反応することが判っている。Woodward-Hoffmann則は知らないものとして考える時、ジエンに対して無水マレイン酸が攻撃する方向は4方向が考えられる。4反応生成物のΔHは次のように計算される。MOPAC7で計算する時のキーワードは「PM3
EF PRECISE」(ここで用いた分子構造の各原子のZ-matrixにおける番号はC47がC2に、C48がC1と結合するように分子構造をghemicalで描いてexportすることによってZ-matrixのテキストファイルを得た)。
攻撃方向記号 | A | B | C | D |
安定構造ΔH | -224.2 | -225.6 | -226.5 | -226.7 |
C4-C47 A | 1.54 | 1.54 | 1.54 | 1.54 |
対カルボキシル基 | 反対方向 | 反対方向 | 同方向 | 同方向 |
対isoプロピル基 | と反対の方向 | の方向 | と反対の方向 | の方向 |
A 2-@の生成ΔHを得られた分子の各々の分子構造は下のようになる。
生成物安定構造
A | |
B | |
C | |
D |
3. レボピマル酸と無水マレイン酸の反応におけるminimum
energyの計算
@各攻撃方向について、minimum energyの計算を行う。2@で使用したZ-matrixを基にして次のようにキーワード/対称性記述/原子間距離順列を入力し、C47の距離FL=−1とする。
pm3 ef precise symmetry GEO-OK
LM_A
・
・
C 2.30 -1 105 1 58.7 1
4 3 2 (47番原子)
C 2.30 1 105 1 -58.7 1
1 2 3 (48番原子)
・
・
47 1 48
47 2 48
2.25 2.20 2.15 2.10 2.05 2.00 1.95
1.90
A各攻撃方向についてMOPAC7の計算を行った結果を下図に示す
B 3Aと1の結果から各攻撃方向で生成する分子の活性化エネルギーは下表のようになる。
\ 攻撃方向 | A | B | C | D |
レボピマル酸 ΔH | -106.4 | |||
無水マレイン酸 ΔH | -90.1 | |||
TSΔH | 96.7 | -36.6 | -75.5 | 167.9 |
活性化エネルギー ΔE | 293.2 | 159.9 | 121.0 | 364.4 |
4. 結論
3Bで得られた活性化エネルギーからレボピマル酸と無水マレイン酸の反応では、レボピマル酸のカルボキシル基と同じ方向/isoプロピル基と反対の方向、換言すればレボピマル酸の疎水面の下方に親水基があり面の上方に疎水基がある化合物が生成しやすいことがMOPAC7で判る。この化合物が配位できる遷移金属が存在すれば、その遷移金属を介して物質に定着すると考えられる。MOPACではこのレベルまで言える。更に生成異性体の生成率を求めることができるが、そこまでのことは危険と考える。その計算結果がひとり歩きすることを恐れる。
5.キーワード「TS」で遷移状態の計算ができない
minimum energy計算で算出された極大値を基にしてキーワード「TS」でMOPACの計算したが、結合炭素間(C47−C2及びC48−C1)距離は遷移状態を示すことなく、安定結合距離で収束した。分子の大きさがある程度大きくなるとコンフォメーションのような原子間の回転が多数の結合で起こって生成エネルギーの集成の計算となり、図3Aに見られるような微動(蠕動)となってMOPAC7で採用している判断基準内では判断されないためと考えられる。
以 上
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