横 尾 山    (312m)                 神戸市      25000図=「須磨」「神戸南部」
須磨アルプスの岩稜を歩く
 
横尾山(山頂は右のピーク)
 神戸市街地の背後、約30kmにわたって山稜を連ねる六甲山地は、今からおよそ100万年前から始まった地殻変動(六甲変動)によって隆起した。山地と周囲の平野部との境界、あるいは山地の内部までもが、多くの活断層によって分断されている。この密集する活断層が六甲変動の激しさを表すものであり、1995年1月17日の兵庫県南部地震は、今もその変動が続いていることを私たちに見せつけたのである。この六甲山地のほとんどは、今から約7000万年前(白亜紀後期)に形成された花崗岩でできている。
六甲山地の西端は、鉢伏山の先、塩屋で淡路島に向かって海に落ちている。このあたりは、宅地開発や道路によって山が深くえぐられ、ときには完全に分断されている。鉄拐山と栂尾山の間にあった高倉山は、ポートピアアイランドの埋め立てのため、ほとんど削り取られ、跡地は高倉台の住宅街になっている。

 今日は、多くのハイカーで賑わう須磨浦公園から鉢伏山、旗振山と歩き、高倉台の住宅街を通って、横尾山をめざした。
 海が近いので、ウバメガシが多くその純林ともいえるようなところもある。ヒサカキ、カゴノキ、ネズミモチ、ソヨゴ、ヤブツバキ、シャシャンボ、カクレミノなどの常緑樹がこれに混じる。分枝した幹が曲がりくねったヤマモモが印象的であった。
 鉄拐山を越え、212.2mの三角点のあるピークを過ぎると、その先に栂尾山から横尾山が見えた。こちらから見る横尾山は、ウバメガシなどの常緑樹にこんもりと包まれた穏やかな山容である。

「須磨アルプス」のやせ尾根
 それが、高倉台の住宅街の中を通り、栂尾山を越え、横尾山の山頂を越えると景観が一転する。山の斜面に切り立った褐色の岩盤が大きく露出している。岩石は風化の進んだ花崗岩である。岩肌を手でこすると、石英や長石などの鉱物が細かくぼろぼろと砕け落ちる。花崗岩はもともとこのように風化しやすい岩石であるが、大小の断層をつくった構造運動によって圧力を受け、さらに風化に拍車がかかったのであろう。登山道は、馬の背と呼ばれているやせ尾根の上についている。途中、危険なところには鎖や階段が取りつけられている。このあたりは、このような景観によって「須磨アルプス」と呼ばれているのである。
 登り返して着いた東山にはおもしろい昔話があった。昔、横尾山天狗と鷹取山天狗が縄張り争いをしていた。綱引きで決着をつけることになったが、酒に酔った横尾山天狗が負けそうになり、岩に足をかけて踏ん張ったはずみで、山がちぎれて今の場所に引き寄せられた。それでこの山を天狗山と呼んでいたが、明治になって、今の世に天狗山とは恥ずかしいという者やら、いや改名したら御先祖様に申し訳ないなどと言う者などで村はてんやわんやの大騒ぎ。ついに、和尚様の提案で、横尾山の東にあるので東山と呼ぶことになったという話だ(山頂に立つ案内板より)
 東山の山頂は、眺望にすぐれている。南に神戸の港と大阪湾を見下ろし、そのずっと先には紀伊水道を望むことができた。北を見ると、高層ビルが建ち並ぶ近代的な街がすぐそこまで迫っている。ここまで歩いて来た方角を振り返ると、鉢伏山、鉄拐山、栂尾山の右に、横尾山が荒々しい花崗岩の岩稜を露出して堂々とその偉容を誇っていた。

山行日:2001年2月25日


山 歩 き の 記 録 (ルート)

須磨浦公園駐車場〜鉢伏山〜旗振山(252.6m)〜鉄拐山(234m)〜高倉山石碑(200.12m)〜高倉台住宅街・商店街〜栂尾山(274m)〜横尾山(312.1m)〜東山(253m)〜板宿八幡神社〜山電板宿駅
登山口のロープウェイ駅
 須磨浦公園駐車場に車を止め、敦盛橋を渡って山電の線路を越えると右手にコンクリートの階段がついている。鉢伏山頂までの近道と標識にあるので、ここを登っていった。急な階段道をどんどん登っていく。ときどき振り返れば、大阪湾の青い海が光っている。ロープウェイ駅のすぐ裏に鉢伏山頂と旗振山頂の分岐がある。鉢伏山の頂上は公園になっていた。頂上を越し、元の道と合流し、少し上ると旗振茶屋のある旗振山の山頂である。茶屋の中も外もビールや酒でいっぱいやる常連客で賑わっていた。
 鉄拐山手前のコルは十字路になっている。左に六甲全山縦走用の道がついているので正面の道を進んで鉄拐山に登る人は多くないようである。ウバメガシの中の鉄拐山山頂には、「神戸市三等多角点」とともに「国土地理院復興基準点」のプレートが埋め込まれていた。212.2mの三角点まではウバメガシの中の快適な道。この三角点を越えると、公園になっていた。標高200m+の小ピークにおらが茶屋が立ち、すぐその下に削り取られた「高倉山」の石碑が立っていた。高倉山は、標高291.5mあったということである。風が強くなり、小雪が舞ってきた。
 急な階段をまっすぐ降り、高倉台の住宅街と商店街を抜け、またまっすぐな階段を登って栂尾山にとりつく。けっこうきつい。栂尾山の山頂には展望台がある。展望台の上で車座になって食事をしているパーティの中に入らせてもらって、ラーメンや鶏鍋の匂いをかぎながら周囲を眺めた。
 横尾山の山頂は、三角点を中心とした狭い裸地である。三角点を囲んだコンクリートの下がえぐれている。この山の風化・浸食の激しさを実感する三角点であった。
 この横尾山の山頂から標高203mの東山(地形図に記載なし)までが、「須磨アルプス」と呼ばれている岩稜地帯。山頂からいきなり鎖を伝わってこの中に足を踏み入れる。岩壁の横を歩いたりやせ尾根を歩いたりするが、要所に鎖や階段があるので安心して歩ける。目の前に広がる景観に心躍らせて歩いた。東山を越え、板宿八幡神社に降りた。板宿の繁華街を歩いて、山電板宿駅から電車で須磨浦公園駅へ帰る。

   ■山頂の岩石■ 白亜紀 六甲花崗岩 黒雲母花崗岩

 今回歩いた鉢伏山〜東山までとその北西の高取山の山塊は、西の横尾山断層、南の須磨断層、北の高取山断層の3つの活断層に挟まれた地域である。断層運動によって隆起したこの地域には、六甲花崗岩と呼ばれる黒雲母花崗岩が分布している。鉢伏山〜横尾山までの登山道沿いにもところどころに露頭があるが、横尾山〜東山までの「須磨アルプス」ではこの花崗岩が大きく露出している。全体的に風化が激しく、手で岩石の表面をこすると細かくぼろぼろと砕け落ちる。
 主な構成鉱物は、石英・斜長石・アルカリ長石・黒雲母である。粗粒から中粒で、斑状に含まれるピンク色のアルカリ長石が特徴的である。粒度や黒雲母の量に、岩相の変化が見られる。各鉱物の大きさが1cmに及ぶペグマタイトの岩脈も見られた。
風化していく花崗岩
節理や劈開が発達している
黒雲母花崗岩
透明感のある灰色の鉱物が石英、白い鉱物が斜長石、ピンク色の鉱物がアルカリ長石、黒い鉱物が黒雲母である

TOP PAGEに戻る登山記録に戻る