後 山(1344.6m)〜駒ノ尾(1280.7m) 兵庫県千種町・岡山県東粟倉村、西粟倉村 25000図=「西河内」

樹氷咲く雪稜をスノーシューで歩く

氷ノ山(船木山付近より) 後山より望む船木山(左)、駒ノ尾(右)、大山(右上)


 とけ残った雪の上に、新しい雪が真白く積もっていた。沢沿いの道に別れ、山の斜面をつづらに上って尾根に達すると、それまで付いていたトレースが厚みを増した新雪に消えていった。その尾根を、主稜線上のピーク、船木山をめざして真っ直ぐに上っていった。
 立ち止まって呼吸を整えた。ブナ、リョウブ、イヌシデなどの枯れ枝を透かして、青い空が広がっている。風の音も鳥の声も、何も聞こえない。白い雪がすべての音を吸収してしまったかのような静寂の世界であった。

樹氷の船木山山頂

 船木山の西肩で主稜線に達した。そこには、樹氷咲くブナの木が立ち並び、遥かどこまでも見渡せるような展望が広がっていた。
 樹氷の木の下を、船木山へ上った。山頂を示すものは、雪の高まりだけである。
 ゆるやかに下ったコルの向こうに、後山が立っている。古くからの厳しい修験の山である後山は、しかしこの絵のような風景の中では少しも険しくは見えなかった。
 後山を正面に見て、船木山を下った。
 左前方に、三室山の雄大な山体が迫っている。
 氷ノ山は、伸びやかな稜線を左右にゆるく引いている。その稜線上で、わずかに尖って見えるのが鉢伏山。
 遠く小さく並ぶ仏ノ尾と青ガ丸。さらに、山ひだを深く刻み込んだ扇ノ山が左に続き、近くの東山、沖ノ山と連なっている。
 どの山も、雪で山頂部が白く輝き、青空にそのスカイラインをくっきりと区切っていた。
 雪原の上には、風紋が複雑な曲線を描いている。その曲線を、とけ落ちた樹氷がところどころで乱していた。平坦な雪面にも小さな凹凸があり、ときどきスノーシューが深く沈みこんだ。

後山(船木山とのコルより)

 雪の斜面を真っ直ぐに上り、後山山頂に達した。遥か南、低くぼやけたもやの上に四国の山影が浮かんでいる。双眼鏡で、石鎚山と剣山の白い山の姿をとらえることができた。東に幾重にも重なる山並みの上に、灰色の雲の層が水平に薄く線を描き、その上にとぎれとぎれに白と黒のまだらになったかたまりが蜃気楼のように浮かんでいる。もしかすると、それは本当に蜃気楼だったのかも知れない。

  双眼鏡で辺りを眺めていると、南尾根から一人の男性がやって来た。今日が、今年でもう四回目の後山だという。ザックの背にくくりつけられていた赤いスコップを取り外し、そのスコップで山頂の雪を掘り始めた。あっという間に、天井の開いた雪洞ができあがり、その中に作られた段の上にシートを敷いて座った。ブランデーを飲みながら、
 「こんな幸せなことはないなー。」
 山の楽しみ方を本当に知っている人だった。南の斜面を横切った鳥がハイタカだということも教えてもらった。双眼鏡をその鳥に向けようときには、もうどこか飛び去ってしまっていた。


三室山 稜線より那岐山を望む


 山頂で昼の宴を始めようとしているその山の達人に別れを告げ、後山を下った。船木山に戻り、トレースの全くない主稜線を西へ向かった。スノーシューで蹴り出した雪が、いくつにも分かれてコロコロと斜面を落ちていく。
 白い稜線は、鍋ケ谷山、駒ノ尾と緩くうねりながら続いている。鍋ケ谷山の笹原は、すっかり雪におおわれていた。ブナの木もまばらで、雪原が大きく広がっている。どこをどう歩こうとまったく自由だ。振り返れば、トレースがずいぶん曲がっていた。
 駒ノ尾の三つの峰は、雪がまぶしく光っていた。その
前方に見える那岐山も大山も歩くほどに、近づいてきたように感じた。

駒ノ尾山頂
(石柱の右背後に東山、さらにその右奥に扇ノ山が見える)

 午後1時、後山から1時間半ほどで駒ノ尾にたどり着いた。雪原の高みには、山名の刻まれた石柱が立っている。遮るものが何もないこの山頂には、風が南から通り抜けていた。その風に、最後まで残った樹氷がパラパラと音を立てて雪の上に落ちた。
 ブナの木の枝先には、細長い褐色の冬芽がやがて来る春をじっと待っていた。

山行日:2003年2月28日

山 歩 き の 記 録

岡山県東粟倉村後山キャンプ場駐車場(Ca.710m)〜破線路〜船木山(1334m)〜後山(1344.6m)〜船木山〜1235.3m三角点〜鍋ケ谷山(1253m)〜駒ノ尾(1280.7m)〜1139m標高点〜Ca.970m地点〜林道竹の頭線終点(Ca.850m)〜実線路〜林道竹の頭線起点(Ca.690m)〜後山キャンプ場駐車場

林道より駒ノ尾を振り返る

 中国自動車道作用ICから国道373号線を北上。兵庫県から岡山県に入って、大原町古町の交差点を右折して国道429号線へ。東粟倉村の後山集落を抜けて、左折し大規模林道に入る。行者川を渡って西に約500m進むと、北へ後山キャンプ場に向かう車道が分かれている。後山キャンプ場の駐車場に車を止める。

 車道をわずかに戻った所に、船木山への登山口がある。船木山へは、地形図破線路で示された遊歩道が整備されている。沢を右から左へ渡り、再び右へ渡ったところで沢を離れて斜面を登っていく。この斜面の途中でスノーシューをはいた。南尾根に出てから真っ直ぐ北へ登ると、後山から駒ノ尾へ続く主稜線、船木山の西肩に着く。

 主稜線を東へ、船木山を越えて後山へ。後山からは、船木山へ戻って、そのまま西へ1235.3m三角点、鍋ケ谷山を越えて駒ノ尾まで縦走する。

 駒ノ尾からは、南へ伸びる尾根を下る。1139m標高点を過ぎて南東へ下り、標高約970mの地点で尾根から離れて(破線路から分かれて)、東へ真っ直ぐに斜面を下った。下ったところが、ちょうど「林道竹の頭線」終点であった。(地形図実線路西端)。ここで、スノーシューを脱いだ。この林道を終点まで歩き(地形図実線)、林道起点からわずかに上って、駐車場へ戻った。

   ■山頂の岩石■ 雪で観察できず

 兵庫県と岡山県の県境である今回の縦走路では、積雪のため露頭の観察はできなかった。
 ただ、駒ノ尾山頂東の稜線で、迷子石的な岩石がひとつ雪から顔を出していた。
これは、花崗閃緑岩であった。

 山頂部以外では、ある程度岩石の観察のできる露頭があった。山を下りた「林道竹の頭線」の終点には、花崗閃緑岩が分布していた(後期白亜紀〜古第三紀 波賀複合花崗岩体)。
 その他、丹波帯に属すると思われる緑色岩の露頭が数ヶ所で見られた。
 

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