東里ケ岳(663.7m)〜郷路岳(620.0m) 但東町 25000図=「出石」「大江山」
東里ケ岳から郷路岳へ、徒歩と自転車で結ぶ
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| 東里ケ岳(林道郷路線より) |
東里ケ岳は、出石川とその支流、太田川の出合の東に、それらの2つの川にはさまれて立っている。はるか西の但馬妙見山からも、鳥が翼を広げたような印象的なこの山の姿を、遠くに小さくかすみながらもはっきり認めることができる。
昨年の秋、この山の取り付き点を探している間に時雨に会い、登頂をあきらめて帰ったことがあった。今日は梅雨入り前の最後の1日、北からの空気に包まれてからっとした気持ちのよい好天に恵まれた(と、朝は思った……)。
南麓の但東町スポーツ公園駐車場に車を止め、その奥の小さな公園から山に入った。沢の左手に杣道がついていた。辺りには自然林が広がっているが、谷底だけにはスギが植林されている。沢の水はすぐに枯れ、杣道もやがて消えた。
足元には、蛇紋岩が転がっている。谷の上方には、炭焼きの石積みが一基残っていた。谷の傾斜が急になったので、右手の斜面を上って尾根に出た。
寝不足のせいか、足取りが重たい。尾根に横たわる倒木に腰かけ、一息ついた。コナラ、アベマキ、アカマツ、どの木も高い。頭上で木の葉が涼しくざわめいた。落ち葉の上には、木漏れ日が揺れた。
尾根を進み、露頭の岩石を観察して一歩踏み出した瞬間、すぐ近くで大きな音がして何かがヤブの中を駆け下った。静寂の中での、突然の音には本当にびっくりさせられる。初めはシカだと思ったが、その先にヌタ場があったのでイノシシだったのかも知れない。
590m標高点の手前は、岩がゴツゴツ露出する急傾斜である。木の幹や枝を手でつかみ、あえぎながら上った。シロダモのかすかな芳香が、ときどき辺りに漂った。
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| 尾根上でリョウブを見上げる |
イワカガミの群落 |
590m標高点は、イワカガミの群生地であった。花期は過ぎていたが、葉の光沢がまだらにあたる木漏れ日をきらきらとはね返していた。ここからは、林界の伐り開きに踏み跡が残っていた。道に続くイワカガミの葉を踏まないよう北に進み、最後の傾斜を上り切ると、風格あるアセビの老木が立っていた。そこが、東里ケ岳の山頂であった。
三角点の上には、根元から幾本にも分枝したマンサクが茂り、周囲はリョウブ、ネジキ、クリ、ホオなどの木々に囲まれていた。それらの木の幹には、ここ2年以内の新しい登頂プレートがいくつか掛けられていた。木々の外に出ると、東が開けた。江笠山が長く裾を引き、その後に大江山連山がたおやかな山稜をゆるく波打たせていた。目の前を、二羽のアオスジアゲハがもつれあうように舞った。
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| 東里ケ岳山頂のアセビ |
東里ケ岳山頂から大江山連山を望む |
山頂からは、東尾根の3つの小ピークを越えて下る予定であったが、最初のコルまで下るとそこへ作業道が伸びてきていた。道には背の高い草が茂り車では通れそうにないが、歩くには十分であった。上り下りの激しい悪路を覚悟していたが、予想外の展開であった。この作業道を利用し、自転車を置いていた「民有林林道郷路線」の起点へ辿った。
まだ時間もあったので、ここから郷路岳山頂を目ざすことにした。帰りの乗車を考えて、自転車を押して上った。折りたたみ式自転車は、結構重い。アスファルト道には、強い日差しが照りつけた。
アザミが咲いている。クリの花穂が垂れている。タニウツギがピンクの花を付けている。道に落ちている白い花は、ウツギだろうか。小さなチョウが飛んでいる……。途中に、展望台の入口や散策路もあったが、寄り道をする体力と気力がもうない。長い道のりを、ただただ自転車を押した。
左に展望広場を見て、ゆるやかな峠をわずかに下ったところに、郷路岳入口の標識があった。少し先に、山頂までの新しい道があったのだが、このときは分からなかった。愛車を三角点といっしょに撮ってやろうと雑木の中にかつぎ入れたが、思った以上のヤブの抵抗に会い、途中であきらめた。自転車をヤブの中に残して、単身で郷路岳の山頂に達した。
山頂を含む郷路岳の南側は、蛇紋岩やかんらん岩、斑れい岩でできている。断層に沿って地下深くからしぼり出された4億5000万年前の岩石である。三角点横の、この兵庫最古の岩石の上に座り込んだ。暑さと疲労でぼんやりした頭の中には、これからの下りの疾走やそのとき切るだろう風、そして自販機のジュースなどが巡っていた。
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| 郷路岳 |
山行日:2004年6月5日