天下台山 (321m) 相生市 25000図=「相生」
瀬戸内の穏やかな陽光に包まれて
岩盤でできた山頂に、積雲の間から明るい光が注いでいた。視界をさえぎるものはなく、眺望は四方に開けている。見下ろせば、深く入り込んだ相生湾の対岸に、火力発電所の鉄塔や造船所のクレーン群……。南には瀬戸内海が光り、家島の島々や小豆島が浮かんでいる。ずっとその奥を見渡すと、六甲山から瀬戸大橋、淡路島、鳴門大橋の橋げたも見える。そして四国の山並みが薄く霞んでいる。北に転じると、明神山、雪彦山、七種の山々、笠形山……雪が降っているのか、その上の雲が白いベールを降ろしている。そのベールは、南からの光に照らされて、絹の布ように艶やかに輝いている。北の空から、積雲が帯状に連なり頭上まで流れてきている。時々、その雲に日が陰ることもあるが、あたりは穏やかな瀬戸内の陽光に包まれていた。
山頂から家島の島々を望む
天下台山(てんがだいさん)は、相生湾の東に位置する標高321.4mの山である。地元の人たちに親しまれ、今朝も早朝登山の何人かのハイカーに出会った。この天下台山の自然や、四季折々の姿を紹介したサイトが『とんび岩通信』である。「天下流紋岩」という名では知っていたが、このサイトによって初めて天下台山の姿を知った。『とんび岩通信』によると、天下台山にはハイキングコース、踏み跡、関電の巡視路などが入り組んでいる。登山口も8ヶ所が紹介されている。この中で、私は「岩屋谷公園」から登り、「那波野墓地」へ降りるコースを選んだ。
岩屋谷池からとんび岩を見上げる とんび岩
天下台山の北尾根で異彩を放つのが「とんび岩」である。岩屋谷池の堰堤に立つと、すぐ上の稜線上に青い空をバックにして立つこの岩が見えた。二つの大岩が積み重なった姿が、まるで鷲か鷹が止まっているように見える。名前の由来に誰でも素直にうなずける。白い岩肌、くちばしの下の暗い影、その上の青い空……明瞭な輪郭で凛として山の上に止まっていた。
下山のコースでは、このとんび岩を通る。近寄ると、その巨大さに圧倒される。とんびの頭にあたる岩は、その半分ぐらいが中空に突き出ている。胴にあたる岩との間に、くさびのような岩が入り込んでいて、それが頭の落下をかろうじて防いでいるように見える。谷を見下ろし、じっと東を見据えているとんび岩。細かくざらつく岩の表面にそっと触れてみた。いつからここに立ち、これまで何をここで見てきたのか。そんなことを、ふと問いかけたくなった。
山行日:2001年2月8日HP『とんび岩通信』
天下台山を中心に、周辺の山や史跡、植物などを紹介したサイト。高巖山や権現山の魅力的な姿に惹きつけられる。「花だより」には、草木の写真やその植物にまつわる話が紹介されている。
山 歩 き の 記 録 (ルート)
相生市那波野「岩屋谷公園」〜岩屋谷池〜「地蔵さんへ」分岐〜天下台山山頂〜反射板〜水戸大神〜280m+ピーク〜烏帽子岩(253mピーク)〜三段岩〜とんび岩(160m+ピーク)〜那波野墓地
岩屋谷公園駐車場に車を止め、地形図破線路に沿って天下台山山頂をめざす。駐車場から公園内に足を踏み入れるとすぐに、「天下台ハイキングコース」の大きな案内板が立っていた。この谷につくられた公園内の遊歩道を南に登っていく。散歩の人が犬を連れたりして、三々五々歩いている。やがて、岩屋谷池の堰堤に達する。すぐ上の稜線上に「とんび岩」がはっきりと見える。緑色をした池の水面は、周囲の山を映しながら細かく波打っていた。池の奥に小さな堰堤があり、そこから地道となる。沢の流れとともに、緩やかに道は登っていく。その緩い坂は標高120mあたりで終わり、ここから擬木階段の急坂となる。途中に立つ八角屋根の休憩所で腰を下ろす。やがて右手に頂上の反射板が見えてくるが、道は左に大きく曲がりその反射板を背にして歩く。もう一度山頂に向き直ったあたりに、「地蔵さんへ」と書かれた小さな標識の立つ分岐があった。ここから南に、今日初めての海が見えた。最後の急な坂を登り切ると、視界が一気に開けた。天下台山の頂上である。
帰りは、北尾根を歩く。最初のコルのすぐ左下に「水戸大神」がある。赤い鳥居をくぐると、岩盤を屋根に戴いたトタン外壁の質素な社が建っていた。コルに戻り、280m+ピークの小山を越える。このあたりは、関電の巡視路でシダと灌木の枝が両側から迫る狭いトンネルのような路である。253mピークのすぐ先に烏帽子岩がある。高さ2m程度の岩である。少し進むと、三段岩の上に出る。この岩は、下の谷からは平らで大きな岩盤が、縦に3つ並んで見えていた。この岩の上に立つと、岩屋谷池の緑の湖面がすぐ下に見える。北にとんび岩も見下ろせた。だんだん尾根の斜面を下っていくと、そのとんび岩が少しずつ大きく近づいてくる。小さなコルを上り返した、160m+ピークの直ぐ手前にとんび岩が立っていた。とんび岩に出会った余韻を胸に、最後の坂を那波野墓地へ下っていった。
■山頂の岩石■ 白亜紀後期 天下台山流紋岩
天下台山の山体の大部分が、白亜紀後期の流紋岩からなり、天下台山流紋岩と呼ばれている。
流紋岩の流理構造(280m+ピーク南)
山頂の岩盤は、白い流紋岩である。幅数cmの割れ目が東北東ー西南西にほぼ並行に入っているが、これは節理である。これに、斜交する弱い節理も観察できる。石基は変質が激しく、ほとんど真っ白である。この石基中に、1mm程度の石英の斑晶が、ポツンポツンと入っている。
写真は、「水戸大神」のすぐ上、280m+ピーク南の露頭である。流紋岩溶岩の流理面に沿った割れ目が見事である。この露頭の岩石は新鮮である。石基はガラス質で赤褐色を呈し、流理構造(溶岩の流れを示す縞模様)がはっきりと表れている。1mm程度の石英とわずかな黒色鉱物の斑晶を含んでいる。
烏帽子岩、三段岩、とんび岩と続く尾根上の流紋岩は、球顆状(きゅうかじょう)組織が見られる。球顆の大きさは数mm〜1cm、オパールぽい(?)鉱物を白い殻(斜長石が変質したものと思われる)が取り囲んでいる。岩の表面は、この球顆が浮き出て小さく凸凹している。