丹波竜発見地  (丹波市山南町)

 
丹波竜の里公園 丹波竜モニュメント


1.丹波竜、ここで発見される!

 丹波市に、丹波竜発見地を訪れました。

 目印は、「丹波の里公園」の巨大モニュメント。
 丹波竜の実物大のモニュメントが山をバックに立っていました。大きい!!足元に立つとその大きさに圧倒されます。
 ここから、発見地まで遊歩道が整備されています。遊歩道の下には、篠山川が流れています。川の両岸に露出する篠山層群の地層を見ながら進みました。

 発見地は、6次にわたる発掘が終わり、コンクリートですっぽりとおおわれていました(第6次発掘調査は、2011〜2012年)。コンクリートの上には、ピンク色で丹波竜が描かれています。
 発見地の上には、発掘で現れた化石の状態をそのまま表した「丹波竜化石の産状レプリカ」が展示されていました。

丹波竜発見地

 2006年8月7日、丹波竜はここで発見されました。丹波市山南町上滝を流れる、篠山川の河床です。
 発見したのは、足立洌(あだちきよし)さんと村上茂(むらかみしげる)さん。
 水底の小動物が泥の中につくったサンドパイプという生痕化石を探しているうちに、赤茶色の地層の中に突き刺さった白っぽい石の棒のような化石を見つけたのです。
 これを採集して持ち帰り、図鑑やインターネットで調べ、二人は「恐竜以外には考えられない」という結論にいたりました。そして、この化石を三田市の「人と自然の博物館」に持ち込んだのです。

 これを見た博物館の三枝春生先生は、「これ本物ですよ!本物です!」と叫ばれたそうです。
 二人が発見したのは、恐竜の肋骨の化石でした。恐竜の発見は国内で5例目、もちろん兵庫県では初めてという大発見でした。
 その後、試掘が始まる9月27日まで、「誰にも話すことが出来ない上に、現場が荒らされないかと気がかりで、毎日のように二人で交代で見張り番をするのですが、誰にも気づかれないようにするのが、また大変なことでした。」と、発見者の一人、村上さんは語っています。(「ひとはく通信ハーモニー No.57,No.58」より)

発見直後の化石 (村上茂氏撮影)
(ひとはく通信ハーモニー No.57より引用)

2.丹波竜をはぐくむ篠山層群の地層

 篠山層群の地層は、丹波篠山市の篠山盆地から丹波市山南町東部にかけて分布しています。篠山層群は、下部の大山下(おおやましも)層と、上部の沢田(さわだ)層に分けられます。
 大山下層は、主に礫岩、砂岩、泥岩の地層から成り、沢田層は、主に凝灰岩から成っています。
 丹波竜は大山下層から発見されました。

遊歩道から見える篠山層群の地層
 
 「丹波の里公園」の丹波竜モニュメントから発見地まで、遊歩道を歩きながら篠山層群の地層を観察してみました。
 この区間に分布しているのは、大山下層です。赤茶色の地層と灰色の地層が交互に重なり、地層面がよくわかります。地層は、上流に向かって(東に)傾いています。
 赤茶色の地層は泥岩、灰色の地層は砂岩か礫岩です。砂岩や礫岩の方が泥岩より硬くて侵食に強いので、灰色の地層の方が突き出ています。
 対岸には、泥岩層に貫入した岩脈が見えます。この岩脈も硬いため、周りの地層から突き出ています。
 また、断層や河床にできたポットホールも観察できました。

地層に貫入した岩脈

 この地層は、いつ頃できたのでしょうか。

 篠山層群は、地層中から発見された貝形虫やカイエビの化石と、地層から採集されたジルコンのフィッション・トラック年代によって次のように見なされています。

 大山下層は、 白亜紀前期アルビアン(Albian)
 沢田層は、白亜紀前期アルビアン(Albian)〜白亜紀後期セノマニアン(Cenomanian) (林他,2019および林他,2010)

 アルビアンは、1億1300万年前〜1億0050万年前。セノマニアンは、1億0050万年前〜9390万年前です。
 大山下層から発見された丹波竜は、この研究から「白亜紀前期(1億1000万年前)の恐竜」と紹介されることが多くなっています。

 地層から、当時の環境を推定することができます。

 1億1000万年前、日本はアジア大陸の東の端に位置していました。篠山層群は地層をつくる岩石の種類や堆積のしかたから、山地の中の小さな盆地の河川の近くでできた地層と考えられています。
 篠山層群の泥岩は、赤い色をしていることが特徴です。この地層からはカオリン鉱物が検出されていて、湿潤な気候下で赤色土壌化が起こったことが推定されます。
 一方で、スメクタイトやイライトという粘土鉱物やカリーチ(乾燥気候でできる炭酸塩岩)をふくむことから、蒸発の激しい乾燥気候も示しています。
 つまり、この赤い泥岩層は雨季と乾季のある半乾燥〜半湿潤気候の下で堆積したと考えられています。(林他,2017)
 丹波竜は、このような環境で暮らしていたのです。

 丹波竜の発見後、篠山層群の地層から、トロオドン類や角竜類の骨格、ティラノザウルス類やテジリノサウルス類の歯などの恐竜の化石が発見されました。
 また、日本最古級のほ乳類「ササヤマミロス・カワイイ」や、カエル類、トカゲ類、ワニ類、カメ類などの発見が続いています。
 篠山層群は、まさに化石の宝庫なのです。

3.丹波竜とはどんな恐竜だった?

 さて、丹波竜とはどのうような恐竜だったのでしょうか。
 2007年に発掘調査が始まって以来、6次にわたる発掘で、歯、ろっ骨、脳函(のうかん)、尾椎などが次々と見つかりました。
 丹波竜は、長い首と長い尾を持った、植物食の大きな恐竜、竜脚類のなかまです。竜脚類には、有名なところではブラキオサウルスや、マメンチサウルスなどがいます。
 研究の結果、丹波竜の尾椎、血道弓、脳函には他の竜脚類に見られない8つの標徴があって、新種であることがわかりました。
 丹波竜には、他の竜脚類と共通する特徴もあります。どの種類とどのような特徴が共通するのかを手掛かりにして系統解析が行われました。
 それによると、丹波竜はティタノサウルス形類に属し、その中でも白亜紀のアジア固有のユーヘロプス科に属する可能性が高いことがわかりました。

恐竜の系統樹 (1)〜(8)が篠山層群から発見されている
(4)が丹波竜 (「大地とくらしのガイドマップ 2018」より引用)


 丹波竜は、2014年に論文発表され、竜脚類の新属新種として記載された上で、タンバティタニス・アミキティアエ(Tambatitanis amicitiae)と命名されました。
 Tambaは産出地の「丹波」、Titanisはギリシャ神話の「女の巨人」、Amicitiaeはラテン語で「友情」の意味で発見者二人の友情を記念しています。

 長い首と長い尾。全長12〜15mの巨大な植物食の恐竜、丹波竜。
 世界では、全長が30m以上のアルゼンチノサウルスやティタノサウルスなどがいますが、丹波竜は今のところ、日本では最大級の恐竜だと言えます。

丹波竜の骨格標本(手前 レプリカ)
丹波竜化石工房「ちーたんの館」の展示より

4.丹波竜の生き残る戦略とは?

 1億1000万年前もの昔、丹波竜はどのような生活をしていたのでしょうか。2017年1月に放送されたNHKのTV番組「ダーウィンが来た」で、丹波竜の生活がCGによって再現されました。 それによると・・・

 弱肉強食の厳しい世界。その中で丹波竜の生き残る戦略は、肉食動物が手を出せないほど大きくなることでした。これには、2つの秘策があったのです。

 一つ目の秘策は、「動かない・かまない」ということです。

 巨大な体で食べ物を探して歩きまわると、それだけで大きなエネルギーを使ってしまいます。しかし、丹波竜は長い首だけを動かし、体を動かさずに地上の草も高い木の葉も食べることができました。
 歯は、鉛筆のような細長く小さな歯でした。このことから、かまずに摘み取った葉を丸飲みしていたことが分かります。かむ時間を節約し、おなかに食べ物をどんどん送り込んでいたのです。
 植物は消化しにくいので、植物を食べる動物は普通、歯で食べ物をよくすりつぶしてから飲み込みます。植物をかまずに飲み込む丹波竜は、食べ物をどのように消化していたのでしょうか。
 丹波竜は、ろっ骨が大きく横に広がっています。組み立てた復元模型の中は、大人の人間が6人もすっぽり入るほどです。
 ここには、胃や腸が入っています。丹波竜は、けた外れな大きな消化器官を持ち、ここに大量の微生物を住まわせ、微生物に食物を分解させていたと考えられます。
 つまり、食べ物を丸飲みし、微生物に分解をまかせる。かむ時間が節約できて、一日中ひたすら食べ続けることができたのです。

長い首と長い尾
1/40スケールフィギュア
(「チータンの館」で購入 1500円でした)
 大きなお腹
(左のフィギュアのお腹)

 二つ目の秘策は、「速く成長する」ということです。

 丹波竜がいくら大きいといっても、子供のときは小さかったはず。孵化した赤ちゃんは3kgほどで、命を狙われやすいのです。
 このような、子供ときの危機をどのように乗り越えたのでしょうか。
 丹波竜の骨の断面の観察から、子供の頃の成長線はほとんど見当たらないことがわかりました。これは、子供の頃、急激に成長したことを物語っています。
 また、頭骨のつくりから脳下垂体が極端に大きかったことがわかりました。脳下垂体は、生物の成長に深く関わっています。脳下垂体から、成長ホルモンを大量に放出し、急激に大きくなったのです。

 丹波竜は、急速な成長でけた外れの大きな体を手に入れ、独自のスローライフで入れ生き残っていたのです。

■ 参考・引用文献
 林 慶一・松川正樹・大平寛人・陳 丕基・甄 金生・伊藤 慎・小荒井千人・小畠郁生,2010,貝形虫およびカイエビ化石の生層序とジルコンーフィッション・トラック法に基づく篠山層群の年代の再考,地質学雑誌,116,283-290
 林 慶一・藤田早紀・小荒井千人・松川正樹,2017,兵庫県篠山地域に分布する白亜系篠山層群の層序と古環境,地質学雑誌,123,747-764.
 林 慶一,2019,兵庫県東部に分布する篠山層群の年代議論の整理,甲南大学紀要.理工学編,66,1-9.
 ひとはく通信ハーモニー No.57 地域の達人 足立洌氏 丹波恐竜化石の第一発見者に聞く 兵庫県立人と自然の博物館 2007.6.12
 ひとはく通信ハーモニー No.58 地域の達人 村上茂氏 丹波恐竜化石の第一発見者に聞く 兵庫県立人と自然の博物館 2007.9.28
 ひとはく通信ハーモニー No.87 特集 丹波竜の学名決定! 兵庫県立人と自然の博物館 2014.12.25

 丹波地域恐竜化石フィールドミュージアム推進協議会,2018,大地とくらしのガイドマップ
 NHK 「ダーウィンが来た はじめ見た!日本の巨大恐竜」 2017.1.15放送


■岩石地質■ 泥岩と砂岩・礫岩の互層(泥岩優勢) 篠山層群大山下層(白亜紀前期)
■ 場 所 ■ 丹波市山南町 25000図=「谷川」
■探訪日時■ 2020年9月11日