武嶋山(160m)・大木山(375.0m)  西脇市・多可町  25000図=「中村町」


武嶋山の岩峰から秋に染まる大木山へ


清巖寺から武嶋山を仰ぐ

 もう少し待っていたら、霧にたたずむ岩山の幻想的な姿が浮かび上がったのかもしれない。今朝の武嶋山は、濃い霧に包まれていた。

 武嶋ひぐらし荘の登山口には、「観光 多可十景 竹島山」の古い標石がひとつ。横の案内板には「武嶋山」と標記され、山上の清巖寺や磨崖仏の説明が記されていた。
 登山口から石段を登って、まだ霧の立ち込める山へ入った。
 風化した岩の斜面につけられたつづら折れの道。古くからの参道で、岩の上の修験場にもつながっているという。道の脇には、四国八十八ヵ所などの石仏が並んでいた。

清巖寺への参道

 石垣を抜けると、その上の清巖寺に出た。
 ここから磨崖仏の彫られた一枚の大きな岩盤、立岩が真横に近い。磨崖仏の姿はほとんど木の葉にさえぎられていたが、左右の梵字だけが霧の向こうにようやく見えた。

 朝霧の上がるのは早い。境内でしばらく岩を調べている間に、霧がすっかり晴れて青空が広がっていた。寺の瓦屋根の上で、武嶋山の岩峰が朝陽をまぶしくはね返していた。

朝霧にけむる磨崖仏

 境内の右手にかかる鉄のハシゴを登る。そこから、一枚の大きな岩が山の尾根をつくっていた。岩の割れ目には、ネズミサシやアカマツが根を下ろしている。
 尾根の傾斜は急だが、岩の表面にたくさんの凹凸があって滑らない。

武嶋山の岩盤

 岩は、球顆流紋岩だった。直径数mm〜数cmの球顆がたくさんふくまれている。球顆は珪質で硬く、岩の表面に飛び出して細かな凹凸をつくっている。
 岩を割ると、中からきれいなオレンジ色をしたカリ長石の結晶が出てきた。
 岩盤の上の方では、節理が発達していた。この節理に沿って岩が割れ落ち、切り立つ岩の風景をつくっていた。

武嶋山の球顆流紋岩 球顆流紋岩中のカリ長石

 左右が切れ落ちた岩場を抜けると、岩塔の上に出た。武嶋山の山頂である。そこには、高度感のある風景が広がっていた。
 眼下には、稲刈りの終わった田園。一つひとつの田んぼを、あぜの緑が四角く縁取っている。平野の中を大きく曲がって流れる杉原川を目で追うと、南の方角で逆光に水面を光らせていた。
 雲ひとつ浮かんでいない空の下、遠くに笠形山、飯森山、千ヶ峰が稜線を引いていた。

武嶋山山頂から
笠形山(左)、飯森山(中央)、千ヶ峰(右)を眺める

 山頂から少し北に進むと、大きな岩盤の上に出た。北に215mピーク。そこから東へ大きく回り込んだところに、大木山が見えた。大木山の山肌は、コナラやアベマキの葉がオレンジ色や茶色に染められていた。
 尾根は岩がちで、急傾斜で左右に落ちている。はじめは、かすかな踏み跡があった。
 アカマツ、ソヨゴ、ネズミサシの下で、コシダが地面をおおっている。タカノツメは、茶色に枯れた葉を下の方の枝に残しているだけだった。
 コシダの中に見え隠れする踏み跡をたどった。油断すると、クモの巣が顔にまとわりついた。フィールドノートの上を、小さなダニが這った。
 215mピークを越え、進路を東へ変える。小さなコルを登り返すと、送電線鉄塔の下に出た。北に伸びる送電線の向こうに石金山がそびえていた。
 

登路から大木山を見る
(手前左は、215mピーク)
送電線鉄塔から見る石金山(右奥)
 

 道のりはまだまだ長い。尾根の踏み跡を、ひたすら登った。
 木々の幹はどれも細い。植林されたヒノキが、ところどころで雑木の自然林に混じっていた。
 南北に連なる尾根に合流して、南東へ急坂を登る。道がゆるやかなところではっきりしていた踏み跡は、傾斜が急になると、きまって消えてしまった。
 コバノミツバツツジの葉をゆすってみると、枯れた小さな葉が大量に落ちて視界を隠した。

尾根を歩く

 大木山の山頂は、切り開きの中に三角点の標石がひとつ。無粋なプレートや標柱などは何もない、こじんまりとした静かな山頂であった。ヒサカキが小さな実を枝先に並べていた。
 木々の間から見えるのは、加古川の流れ。その流れが向かう先、ずっと遠くにうすく見えるのは帝釈山や丹生山だろうか。
 いつの間にか、空には薄いベールのような巻層雲が広がっていた。

大木山山頂

 大木山の山頂から、尾根を南へ下った。ここまでよりずっと長い周回の帰り道。踏み跡は相変わらず、現れたり消えたりをくり返した。頭からヤブに突っ込んでいくところもあった。
 ソヨゴやサルトリイバラの実の赤が鮮やかだった。サルトリイバラの実・・・、ここまで集めていたら、サルトリイバラ酒ができたのに・・・。

ソヨゴの実 サルトリイバラの実

 途中で西に分枝する尾根に乗り、260mピークへ。標高205mで送電線鉄塔に出て、そこから巡視路を北へ下った。
 巡視路から、山裾が下に見えた。道を下っていると、秋に染まった林のオレンジ色に自分が溶けこんでいくような気がした。  

山行日:2018年11月21日

武嶋ひぐらし荘〜清巖寺〜武嶋山(160m)〜215mピーク〜送電線鉄塔〜大木山(375.0m)〜260mピーク〜送電線鉄塔〜武嶋キャンプ場
 武嶋山の登山口は、武嶋ひぐらし荘。獣除け柵を開いて中に入る。
 清巖寺までは、古い参道。そこから武嶋山山頂までは岩盤を登る。
 武嶋山から大木山を巡る周回コースをとったが、ずっと踏み跡が見え隠れする尾根だった。

山頂の岩石 武嶋山 白亜紀後期 鴨川層  球顆流紋岩
        大木山 白亜紀後期 鴨川層  火山礫凝灰岩(弱溶結)
武嶋山山頂の球顆流紋岩
 武嶋山は、球顆流紋岩でできている。この岩石は、登山路や山頂などどこでも観察することができる。
 表面は風化が進んで黄土色をしているが、内部は淡灰色のことが多い。
 直径数mmから数cmの球顆を大量に含んでいる。球顆は珪質で硬く、岩の表面にゴツゴツと飛び出している。球顆の密集したところでは、2,3の球顆がくっついているように見える。
 石英、斜長石、カリ長石の斑晶を含んでいる。長さ2mm、短柱状オレンジ色のカリ長石が観察できるところがあった(写真、本文中)

大木山山頂付近の火山礫凝灰岩
白い岩片は流理構造を示す流紋岩
 大木山の山頂付近には、弱く溶結した火山礫凝灰岩が分布している。
 流紋岩や軽石、頁岩、砂岩などの岩片をふくんでいる。軽石は緑色に風化し、やや扁平になっているところもあった。石英や斜長石、カリ長石の結晶片をふくんでいる。


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