高場山(797.6m)・点名宮野(911.4m) ・三辻山(961.5m)
神河町・姫路市・宍粟市 25000図=「寺前」「長谷」
※山名について この山域の山名には混乱がある。「点名宮野」は、『近畿の山 日帰り沢登り(中庄谷直・吉岡章 1994年 ナカニシヤ出版)』で「上岩奥山」とされているが、上岩の集落とはずいぶん離れている。何かの間違いだと思われる。「三辻山」は、現在961.5mピークとされているが、かつては雪彦山の北の915.8mピークがそう呼ばれていた。また、「姫路市最高峰」の977mピークは、かつては「大阪山」と呼ばれ、「黒滝」の通称も有している。
谷から尾根へ、夏の縦走
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稜線より三辻山を望む |
この季節の山歩きは、大いにつらい。この日も、朝から気温が高く、あたりは湿気のためにどこも白くかすんでいた。
それでも、山上に自転車をデポし、宮野の登山口まで戻った頃には、ガスも薄くなって青空も見えてきた。ザックには、ペットボトル3本とおにぎり4個。今日は、ここから掛ヶ谷を上り、高場山から境界尾根を歩いて三辻山をめざす。
沢に沿った山道には、まだ朝の涼しさがあった。
歩き出してすぐに、発電所跡の案内板が立っていた。山道と沢との間に数段の平坦地があって、そこに水路の跡も残っていた。
木々の枝葉はしっとりと露にぬれていた。スギの木の下に、もうアセビが現れた。
突然、バッという音がした。音のした方を向くと、一頭のシカが走り去るのが見えた。
道は谷の斜面をどんどん上っていた。沢の流れがずっと下になり見えなくなっても、昨日の夕立の雨を集めて流れる水の音は大きく、ミソサザイのさえずりも聞こえてきた。足元で、ニホンアカガエルが動いた。
標高415m。沢から聞こえてくる音が、シャラシャラという音に変った。地形図に記されている滝(二ノ滝)がそこにあるという見当をつけ、斜面を谷へ下った。
半分ほど下ったところで、滝が見えた。木漏れ日にまだらに照らされた木々の枝葉の向こうに、数条の水が流れ落ちている。しばらく滝の風情に見とれ、ここで十分に満足もしたのだが、それでもさらに斜面を下りてみた。
谷の底まで下りてみると、目の前にその滝が懸かっていた。落差30m、滝の上部で大きく二条に分かれている。水は陽光を浴びてきらめき、細い絹糸が絡み合うようになって、暗褐色の岩肌を滑り落ちていた。
山道に戻り、先に進んだ。道はいったんゆるくなり、滝の少し上で沢と同じ高さとなった。沢は滑らとなって、平らな岩の上を水がゆくるすべっていた。
人影におどろいた小魚が、さっと石の下に隠れた。
再び、山道が沢から離れた標高510m地点。大きなモミの木の下から、前方に三ノ滝が見えた。木々に縁取られた滝の岩盤を水が何段かになって流れ落ちている。そこだけスポットライトを浴びたかのように浮かび上がっていた。
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二ノ滝 |
三ノ滝 |
道は三ノ滝の上で、また沢に近づいた。1本のスギの木の下に、石の道標がもたれかかっていた。道標には、「左ごんげん 右山ミチ」と彫り込まれている。
この道は、古い巡礼の道、牛馬の守護神であった雪彦の賀野神社への参道だった。
賀野神社へは、ここから谷を渡り峠を越えて熊部に出て、さらに西へ山を越える。とは言っても、ここからの道はもう完全に消えているかのようだった。
2006年に島田さんと大柿さんが、この道を賀野神社からここまで歩いている。それは、困難で、また、素晴らしく楽しい冒険だったのだろう。
山道をさらに進んだ。沢を渡って右岸へ。湿った岩の間に、ヤマトウバナがうす紫の小さな花をつけていた。大きな岩盤の前を再び左岸に渡り、そこから一登りすると貯水池に出た。池は、水を静かにたたえ、緑色の水面は周囲の山々を映していた。
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「左ごんげん 右山ミチ」の道標 |
ヤマトウバナ |
池の堰堤の奥から、送電線の巡視路が斜面を上がっていた。スギの下を急登する。尾根に出ると、鉄塔の横に高みがあった。夏草を分けてその高みに上ると、そこが高場山の山頂だった。
山頂は四方に展望が開けていた。北に点名宮野が大きな山体を横たえ、その奥に見える暁晴山をはさんで、三辻山、930mピーク、姫路市最高峰の3つのピークが連なっている。
稜線は、そこからさらに左へ雪彦山、明神山、七種の山々と続いた。どの山も白くかすみ、東に笠形山の山影が雲の白に溶け込んでいた。
今日初めて浴びる日差しに、ズボンやマップはすっかり乾き、ついでに私も乾いてしまいそうになった。
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高場山より北西を望む
左から姫路市最高峰、Ca.930m、三辻山 |
高場山より点名宮野を望む |
高場山から、神河町と姫路市の境界尾根の切り開きを北へ向かった。大きく下り、上り返すと林道に出た。
しばらくこの林道を北へ進み、林道が境界尾根からそれる所で、境界尾根のスギの木立の中に入っていった。急坂を上ったところで、境界から分かれて東へ向かった。
倒木の多い尾根を何度かアップダウンして上り詰めると、点名宮野の三角点が埋まっていた。三角点の横に、小さなぷらプラスチックの札。こんなところにも、人が訪れた形跡が残されていた。
展望のない山頂で、一休みした。近くでウグイスが鳴いている。ダイミョウセセリが、ササの葉に止まった。
境界尾根に戻り、さらに北へ向かった。倒木が多く、切り開きも灌木やシダにおおわれて消えた。見通しがなく、地形も不明瞭。迷いそうになりながらも、送電線下の鉄塔へ出ることができた。
ここから西へ送電線が弧を描きながら上り、その上に目指す三辻山が三角形の山形でたくましくそびえていた。いつの間にか、空には入道雲が湧いていた。
尾根を西へ進み、825mピークを越えて杉林を上っていった。コナスビの黄色い花が、風に揺られて小刻みにふるえていた。最後の急登は、繁茂したシダを分けた。
三辻山の山頂には、「宍粟50名山」の新しい標柱が立っていた。ササの背が高く、首から上だけ出してあたりを見た。北には、峰山高原、夜鷹山、大田池高原がゆるく稜線を引き、南には明神山、七種の山々など播磨の山並みが重なっていた。
山頂から北西に下り、三辻山登山口の道標のある林道に達した。
デポした自転車で、山を下る。14.3km、30分のノンストップは爽快だった。宮野の手前で、むっとした暑い風に変わった。
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コナスビ |
三辻山山頂 |
山行日:2008年7月13日