中瀬鉱山は、金・銀・アンチモンを産出した鉱山です。産出鉱物としては、自然金や輝安鉱が有名です。ここを、Mさんの案内で訪れました。
林道の終点から山中へ。谷沿いの何ヶ所かにいくつかの小さなズリがありました。今回は、これらのズリからベルチェ鉱・珪ニッケル鉱・輝安鉱・白鉄鉱・磁硫鉄鉱・硫砒鉄鉱・黄鉄鉱・黄銅鉱を観察することができました。
ベルチェ鉱は、空隙に針状結晶として晶出しているものと、母岩の中に繊維状結晶が放射状に集まって晶出しているものがありました。
針状の結晶は、ルーペや双眼顕微鏡で見ると見事です。水晶の小さな結晶の外側に、細く鋭く銀色に輝いて飛び出しています。下の写真の結晶よりまだ細いものも見られました。
黄安華(横3mm)
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針状結晶の表面の一部、あるいは全体が黄色の黄安華でおおわれているのもが見られました。
黄安華は、アンチモニンを含む鉱物が酸化してできる二次鉱物で、輝安鉱が変化してできる場合がよく知られています。
ベルチェ鉱は、繊維状結晶で産出しているものの方が一般的かもしれません。こぶし大の石がほとんどこのベルチェ鉱でできているものもありました。
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ベルチェ鉱(写真横7mm) |
ベルチェ鉱(写真横7mm) |
ズリの中で緑色に染まっている部分が珪ニッケル鉱です。表面を水にぬらすとその緑色がより鮮やかになります。珪ニッケル鉱を含む石では、石の表面に近いところほど珪ニッケル鉱が多く、その色も内部より濃い傾向が見られます。ニッケルが、石の内部から染み出して二次的にできたもののようです。
珪ニッケル鉱は『蛇紋石族の一つ(「増補改訂地学事典」 平凡社 1970)』と記述されていましたが、成分の差が大きくほとんど非晶質であることから、今では『含水珪酸塩鉱物混合物からなるニッケル鉱石(「日本産鉱物型録」 東海大学出版会 2006)』とされています。
珪ニッケル鉱は岩石中に目立つ存在であり、ニッケル鉱床として重要な残留風化鉱床の主要な鉱物ですが、まだ鉱物学的な位置づけがなされていないのかもしれません。
珪ニッケル鉱を双眼顕微鏡で観察してみると、透明感のある緑色でガラス光沢をもっています。条線のような一方向の縞模様を観察することができるのですが……。
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珪ニッケル鉱(横8.8cm)
水にぬらして撮影 |
珪ニッケル鉱(横4mm) |
輝安鉱は、ベルチェ鉱よりもう少し幅の広い柱状〜針状結晶の集合体として出てきます。鉛灰色で、結晶面が金属光沢をもって輝いています。
白鉄鉱は、金属光沢を持つ淡い黄色をした箔状〜板状の結晶として産出しています。ピンク色をした凝灰岩中に多く見られますが、その他の岩石中にも黄鉄鉱や黄銅鉱を伴って産出しています。
輝安鉱を見つけたときのことです。不覚にも岩石ハンマーを、左手親指に振り下ろしてしまいました。猛烈な痛みに耐えている私を見て、それぞれのメンバーがかつて山の中でけがをした昔話に花を咲かせ始めました。
KDさんには、10羽のニワトリを飼育し、その生んだ卵を売って旧制中学校へ通ったという話などを聞かせてもらいました。そのKDさんに、別れぎわに「これを指に巻いたらすぐ治る。」とマムシの皮をいただきました。
痛む指でハンドルを握り、楽しく充実した但馬での一日を振り返りながら、自宅へと車を走らせました。車窓には、和田山の夏祭りで打ち上げられた花火が映っていました。あの花火の青色には、輝安鉱やベルチェ鉱から採ったアンチモンが入っているのかもしれません。
■ 場 所 ■ 養父市中瀬 中瀬鉱山跡
■探訪日時■ 2007年8月23日
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