帝釈山(585.9m)・丹生山(515m) 神戸市 25000図=「淡河」「有馬」
鉱山道から北神戸の二山を巡る
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丹生山(山頂は写真右奥) |
野山の若葉が日一日とその色を変化させている。そんな春の一日、帝釈鉱山跡を訪れ、そこから帝釈山と丹生山を巡った。
県道脇の鳥居をくぐり志染川を渡ると、お地蔵さんが迎えてくれた。竹やぶを抜けて雑木林に入ると、最初の丁石が立っていた。石には、「従丹生山廿四丁」と刻まれている。この道は、丹生神社の表参道。あちこちに、モチツツジがピンク色の花をつけていた。
「廿二丁」の丁石を過ぎると、道は平坦になって雑木林の中を真っ直ぐ北に伸びていた。
そのうち、道はゆるく下り始めた。あたりは、アベマキやコナラの美しい林だった。ネジキも葉を広げていた。ウラジロノキの葉裏に広がる軟らかい毛は、和紙の繊維を思わせた。
道は再び上り始めた。地面には神戸層群の砂岩や礫岩が表れ、礫岩から洗い出された丸いチャートの小石がたくさん転がっていた。
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表参道入口のお地蔵さん |
表参道 |
1本のアベマキの木の下で林道と合流し、その先の「十七丁」の丁石近くで参道から分かれた鉱山道に入った。
広くて明瞭な道が、ほとんど傾斜のないまま続いた。腕の高度計は、その間ずっと260mを示していた。道の傍らには、シャガが咲き、クサイチゴやコバノガマズミが白い花をつけていた。
右から北山川の流れが近づいてくると、道は細くなった。そして、左手の斜面に木でつくられた小さな祠が見えた。ヌルデを分けて古い石段を上ると、その祠は2本のヒノキに挟まれて建っていた。鉱山の守り神として造られた金山神社である。祠の中には、緑青の浮き出た銅の鉱石が祀られていた。
祠の下には石垣が組まれ、平坦地がつくられていた。ここには、鉱山に関係する屋敷があったのだろう。鉱夫たちの生活の跡に、ホタルカズラが青紫色の花をひっそりとつけていた。
道は沢を渡り、左岸を上っていた。やがて、目の前にズリが現れた。谷の斜面を赤茶けたズリが覆い、その上にも厚く堆積したズリがテラス状に張り出した高台があった。
どんな鉱物が出てくるのか。ここで、しばらく石を割ってみた。あまりいいものは取れなかったが、それでも黄鉄鉱・閃亜鉛鉱・珪孔雀石・緑簾石・石膏などが採集できた。
ズリの上を斜めに登りテラスに乗ると、右手の岩陰に坑口が開かれていた。鉄柵の間から中をのぞいてみたが、光が届かず坑道の中まで見えなかった。
谷は坑口の先で、切り立った岩盤にふさがれていた。岩盤の上を、細い水が何段かに区切れながら流れ落ちている。この滝は梵天滝と呼ばれているが、「北神戸の山々(多田繁次、1982)」には「チョンチョン滝」という名で紹介されているのがおもしろい。
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帝釈鉱山の金山神社 |
帝釈鉱山のズリ |
坑口の右の急斜面をよじ登ると、先ほど下で分かれた、もう1本の鉱山道が伸びてきていた。道は、急斜面に巧みにつけられていた。滝音を下に聞きながらこの道を進むと、今度は坑口が2つ並んで開いている。ひとつは斜めに、もうひとつは竪に掘られていた。
続いて山側に大きな岩盤が現れ、その下を過ぎると、道は上がってきた谷底と同じ高さとなった。水の枯れた谷を進むと、2つ目のズリが現れた。
ズリの上はゴツゴツした岩場になっていた。これが、先の「北神戸の山々」に出てくる「ロックガーデン」なのだろうか。とにかく、ズリを登り岩場に上がってみた。ここにも岩間に細く開かれた坑口があった。岩は上に続いていなかったが、ここから帝釈山に真っ直ぐ登ることにした。
「ロックガーデン」と洒落て呼べるのは最初だけだった。木々の幹を手でつかみ、枝葉を分けて急坂をよじ登った。時々、踏み跡らしきものを横切った。道がつづらについていたのかもしれないが、今はすっかり木々におおわれていた。
立ち止まって息を整えると、シキミが匂った。リョウブの幹が美しかった。
標高520mぐらいで傾斜がゆるくなり、尾根に踏み跡がはっきりしてきた。踏み跡を進むと、丹生山系縦走路に飛び出した。そこから、山頂はもう近かった。
帝釈山の山頂には、二等三角点が埋まり、石の祠が3基立っていた。展望は南に開けている。志染川の向こうには丘陵地が広がり、その丘陵地の東には住宅街が大規模につくられていた。
目を先に移すと、乳白色のもやに沈んだ瀬戸内海に明石海峡大橋がかすみ、淡路島の島影が北面だけぼんやりと見えた。
石に座って、フィールドノートを取り出した。足元にはヒメハギが咲き、ミヤマカラスアゲハが蜜を求めてヤマツツジの花を次から次へと遊び渡った。
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帝釈山山頂からの展望 |
山頂に咲くヒメハギ |
山頂から縦走路を丹生山へ向かった。夏緑樹の若葉が日を透かして瑞々しい。時々大きなアカガシが現れて足を止めた。
道は、何度かアップダウンを繰り返した。シビレ山分岐で方向を南に変えると、太いスギの木が多くなってきた。道が、各方面から交差してきた。大きなケヤキの下を通って山頂の東を回り込むと、古い石垣の残る草地に出た。草地の山頂側に立つ鳥居をくぐって石段を上ると、山頂の丹生神社に達した。
拝殿で手を合わせ、そのうしろの本殿に回ってみた。切り妻屋根が流れるような曲線を描き、脇障子の鳳凰や縁に置かれた獅子の彫刻が建物と一体となって風格と美を生み出していた。本殿の脇には、シャガが群生していて可憐な花をつけていた。
丹生山の山頂から、また丁石を数えながら、午後の風に木漏れ日の揺れる表参道を下った。
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山上の丹生神社鳥居 |
山頂の丹生神社 |
山行日:2009年5月2日