小 赤 壁  (姫路市的形町)

 姫路市の八家川河口から福泊にかけての海岸には、長さ900mにわたって海食崖が連なっています。
 文政8年(1825年)、姫路藩家老河合寸翁が創立した仁寿山校に招かれた頼山陽は、月夜に舟を浮かべこの地の風光を賞しました。そのとき、中国長江の赤壁に思いを馳せて、この岸壁を「小赤壁」と名付けたと言われています。
 遊歩道の上には、切り立った崖がいくつもそそり立ち、休日には多くのロッククライマーがここで遊んでいます。

 小赤壁の岩石は、白亜紀後期(およそ7000万年前)の激しい火山活動でできた溶結凝灰岩です。また数ヶ所で、その下にある丹波帯の堆積岩(およそ2億年前)が見られます。
 溶結凝灰岩のいろいろな産状、そこに貫入する流紋岩の岩脈、溶結凝灰岩と堆積岩の不整合、泥岩と砂岩がつくるメランジュなど、小赤壁には地質の見どころがたくさんあります。 

小赤壁全景


1.小赤壁の溶結凝灰岩

 八家地蔵の駐車場に車を止め、東から西に向かって遊歩道を歩きました。小赤壁公園を抜けて海岸に出ると、もうそこから小赤壁の岩場が始まります。
 岩石の表面は全体的には白っぽく見えますが、薄い赤褐色に染まっているところもあります。岩には数方向に割れ目が走り、その方向に平面的に割れ落ちています。この割れ目は、溶結凝灰岩の冷却節理によるものです。

 小赤壁の岩壁をつくっている岩石は、溶結凝灰岩です。溶結凝灰岩とは、火砕流で流れてきた火山灰(発泡した火山ガラス片)や軽石などが、熱と重さによってその一部が融け、圧縮されてできた岩石です。火山ガラス片や軽石は、圧縮によって気泡が押しつぶされ、横に押し広げられてレンズのような形になります。このようなつくりを、溶結構造といいます。

 小赤壁の岩石の表面を観察してみると、緑色や赤褐色の薄く伸びたレンズがたくさん並んでいることがわかります。これが、軽石が押しつぶされてできたレンズで、その長さは数cm〜10数cm、長いものでは30cmを超えるものも見られました。
 ほとんどの気泡はつぶされていますが、中には気泡が残っているものも見られました。この溶結凝灰岩には、大きさ数cm程度の流紋岩の破片(火山礫)がふくまれています。もっと大きな流紋岩の火山岩塊がふくまれているところもありました。
 また、基質の中には、石英や長石や黒雲母の小さな結晶も見ることができます。これらの結晶は、岩を割って見た方が詳しく観察することができます。

溶結凝灰岩 溶結凝灰岩の溶結構造

 岩を観察しながら歩くと、岩の表面に細かな縞模様が長く続いているようすが観察できるところがあります。これは、流理構造と言ってマグマの流れた跡を示しています。この部分は、火砕流によってできた溶結凝灰岩ではなくてマグマが地表に流れ出て固まった流紋岩溶岩だと考えられます。
 野外では、細長く伸びたレンズなら溶結凝灰岩、縞模様なら溶岩と判断するわけですが、レンズが40〜60cmもあるような中間型の部分も見られました。溶結凝灰岩とするか溶岩とするか難しいところですが、火砕流の内部が融けてそれが再びマグマのように流れて固まった(再流動)可能性が考えられます。

流紋岩の流理構造

2.丹波帯のメランジュ

 溶結凝灰岩の下にある堆積岩の地層は、3ヶ所で観察することができます。その地層は黒いので、少し離れたところから見てもよくわかります。

丹波帯の堆積岩(黒い部分)

 この地層をつくっているのは黒い泥岩(頁岩)で、その中にさまざまな大きさの砂岩がはさみこまれています。砂岩は、レンズ状の形をしていることが多く、まわりの泥岩より硬いので地層から飛び出しています。また、あまり変形せずに砂岩泥岩互層の形態を残しているところもありました。
 砂岩は、東の岩体では灰色の硬い珪長質砂岩、まん中と西の岩体では褐色の中粒砂岩です。泥岩は、黒色で剥離性(うすく割れる性質)に富んでいます。レンズ状の砂岩の周囲では、砂岩を取り巻くように剥離の方向が湾曲しています。

丹波帯メランジュ 1 丹波帯メランジュ 2

 このような、泥岩などの基質中に他の種類の岩石が混在している地層をメランジュといいます。メランジュは、フランス語で「混ぜる」という意味です。
 メランジュは、付加体の地層の特徴であり、海のプレートが陸のプレートの下に沈み込むときにいろいろな岩石が変形しながら複雑に混じりあってできたと考えられます。
 丹波帯はジュラ紀の付加体で、この堆積岩層は今からおよそ2億年前にできた地層です。

泥岩にはさまれたレンズ状砂岩

3.丹波帯の堆積岩と溶結凝灰岩の不整合

 堆積岩と溶結凝灰岩は、不整合で接しています。両者が不整合面で直接接している場合と、不整合面の上に礫岩の地層がのっている場合とがあります。

 直接接しているところでは、その境界(不整合面)はシャープで、溶結凝灰岩がその下の泥岩や砂岩の岩片を取り込んでいるようすが観察できます。また、泥岩の中に溶結凝灰岩が脈状に入り込んでいるところもありました。

 不整合面の上の礫岩は、基底礫岩です。礫の種類は、ほとんどが溶結凝灰岩か同質の流紋岩です。一番下には、直径5〜10cmの円礫、その上に直径1〜2cmの小さな円礫、さらにその上には直径30〜60cmの大きな角礫がのっています。
 円礫の部分は、水流によって運ばれ堆積したもの、上の大きな角礫は岩屑なだれ堆積物のように見えます。

不整合面(左:溶結凝灰岩 右:泥岩(混在岩) 不整合面の上の基底礫岩

4.浜辺の小石

 小赤壁の海岸には、岩場の間に小さな砂や小石の浜がありました。そこで、小石を拾うことができました。小石の多くが溶結凝灰岩。軽石レンズのつくる縞模様がそれぞれの小石にそれぞれの模様をつくっています。色は白っぽいものが多いですが、濃い赤褐色で結晶片を多く含む溶結凝灰岩もあります。
 溶結凝灰岩の他には、流紋岩や砂岩や泥岩の小石があります。また、白や黒のチャートも見つけることができました。

溶結凝灰岩の小石

5.波食地形

 小赤壁には、波の侵食作用によるいろいろな波食地形が見られます。
 小赤壁の岩壁は、海食崖です。波は、海岸の岩石の下部を削ります。下部がくぼむと、やがて上部が崩れ落ちて崖がつくられます。
 海食崖の基部に広がっているのが、波食棚です。おもに潮間帯にある平坦な台地で、波の侵食によってできました。
 節理に沿ってくぼんでいるところがありますが、これは波食窪(ノッチ)といいます。節理による割れ目が、選択的に侵食を受けてくぼんだものです。波食窪は、奥行きより幅が大きいものをいいますが、幅より奥行きが大きくなると海食洞といいます。
 波食棚の上に直径60cm程度のくぼみができているところがあります。これは、甌穴(ポットホール)といって、岩の表面にできた穴の中に礫が入り、波によってその礫が回転し、岩を削り取ることによってできました。

海食崖と波食棚

■岩石地質■ 溶結凝灰岩(白亜紀後期)
          丹波帯混在岩(メランジュ)
■ 場 所 ■ 姫路市的形町 25000図=「姫路南部」
■探訪日時■ 2015年2月1日