しゃくし岩(210m)     姫路市・たつの市   25000図=「龍野」


山頂をおおう一枚岩
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岩稜から見るしゃくし山(左)と228.5mピーク(右)

 山頂をすっぽりとおおう一枚岩。しゃくし岩は、姫路市林田町とたつの市神岡町の境界尾根に位置する標高200m余りの小さなピークに広がっている。

 「はやしだ交流センターゆたりん」からスタート。二つの池の間を抜けて山道に入った。道に降り積もるコナラやアカマツの落ち葉が、朝露に濡れている。林の低いとこからはホオジロの声、枝の上からはエナガの声が聞こえてきた。

落ち葉の山道

 小さな峠を越して下ると、舞子池の畔(ほとり)に出た。メジロの群れに出会った。メジロは、ヤブツバキと竹の間をせわしなく動き、しばらくしてどこかへ飛んで行った。

舞子池の畔に来たメジロ

 舞子池を過ぎて、田んぼの間の道をしばらく歩く。山にさしかかって霊園を抜けると、鳥居の向こうに石段が見えた。
 コケ生した石段を登ると、そこから参道が斜めに続いていた。幾度か折れて尾根に達したところに大きな岩壁が現れ、その上に岩国神社の社殿が建っていた。
 このあたりには伊勢層の火砕流堆積物が広く分布しているが、神社の建っているのは斜長石の斑晶が目立つデイサイトだった。一部に板状~柱状の節理が見られる。デイサイトは、火砕流堆積物に貫入した岩脈だと思われた。

岩国神社

 岩国神社から雑木の尾根道を登っていった。落葉樹がすっかり葉を落とし、柔らかい冬の陽が射し込んでくる。落ち葉の上には、ソヨゴの小さくて赤い実が点々と落ちていた。
 最初の小さなピークで、南からの尾根とぶつかった。境界標石の立つこのピークからは、南が見渡せた。田や家並みの間を林田川が細く流れている。金輪山の右に電波塔をのせた的場山が望めた。

最初のピークからの眺め

 そこから少し行くと、岩稜が現れた。小さな火山礫の飛び出した岩の上は歩きやすく、前方に展望が開けた。岩稜の先にしゃくし山。そこから稜線は、その右奥に見える228.5mピークへと続いていた。
 

岩尾根から見るしゃくし山(左)
と228.5mピーク(右)

 岩稜を過ぎ、雑木の中を登る。枯れ木の中に、ソヨゴとヒサカキの葉の緑が目立つ。ヤマガラの声が聞こえてきた。
 登り切る前に大きな岩が現れた。もうこれがしゃくし岩の始まりだった。しゃくし岩は、このピークをすっぽりとおおい、さらに南斜面に大きく広がっていた。
 白亜紀後期の大規模な火山活動でできた火砕流堆積物(伊勢層)で、ここには非溶結の火山礫凝灰岩が現れていた。

しゃくし岩の上 右に見えるのは228.5mピーク

 岩の表面は、うす緑色の地衣類におおわれている。一部に、オレンジ色のダイダイゴケの仲間も見られた。
 「しゃくし」の名は、何に由来するのだろうか。しゃくしとは、汁をすくったり、ご飯を盛ったりするのにつかう杓子(しゃくし)。しかし、岩の形からはなかなか想像しにくかった。

しゃくし岩をおおう地衣類

 しゃくし岩を下り、登り返す。あたりはヒサカキの林。オレンジ色を帯びたうす茶色のヒサカキの細い幹が林立し、ところどころにコナラの太い幹が混じっている。冬至の一日前の陽は、正午が近くても低くて木々は地面に長い影を引いていた。
 

ヒサカキの林を登る

 登り詰めた岩盤の上には、いくつかの岩が乗っていて、岩と岩の間を土が埋めている。そこに、228.5m三角点と境界標石が埋められていた。
 三角点の南側に露岩が出ていて、そこから展望が開けた。南西のずっと向こうに見える嫦峨山や天下台山が逆光にかすんでいる。南の低い山並みの向こうには、海岸の火力発電所の煙突が見えた。

228.5mピーク
(真ん中が三角点、右奥の高いのは境界標石)

 山頂を後にして尾根を下った。ずっとよく整備された道がついていた。
 葉を落とした木々の中に、リョウブやヒサカキやアカマツの緑が映えていた。道の両脇には、コシダが茂っている。木々の間から見える雲は、午後になって厚みを増してきたようだった。

コシダの下山路

 いくつかの小さなピークを越えて山を下ると、舞子池の畔に出た。
コガモ、オオバン、カイツブリ、キンクロハジロ、ホシハジロ...舞子池には、たくさんの水鳥が浮かんでいた。
ホシハジロは一ヵ所に集まって、首をうずめて動かない。

舞子池のコガモ  舞子池に浮かぶホシハジロ

 舞子池の北の分岐を東に進んだ。マンリョウが、赤い実をつけていた。小さな高みに東屋が建っていて、そこからと奥池の畔に下った。
 奥池と立合池の縁に沿った細い道を進む。二つの池には太陽光パネルが浮かんでいた。太陽光パネルの周囲には水面も広がっているが、そこには水鳥はいなかった。
 立合池には、「里山会」の小屋が建てられていた。小屋の壁には、かつてここを訪れていたハクチョウの写真。池に面してベンチがつくられていたが、そのすぐ前に太陽光パネルが迫っていた。

 最後に裏池を泳ぐオオバンとヒドリガモを見て、「ゆたりん」へ戻った。

山行日:2021年12月21日

はやしだ交流センターゆたりん~舞子池~岩国神社~228.5m三角点~舞子池~ゆたりん
 ゆたりんから舞子池まで道がついている。岩国神社鳥居からしゃくし岩、三角点を経て舞子池に下るコースはよく整備されていた。
 帰りは舞子池北の分岐を右に折れて奥池・立合池を巡る。このコースは、道が消えかけているところがあった。

山頂の岩石 白亜紀後期 伊勢層 火山礫凝灰岩
しゃくし岩の火山礫凝灰岩(横10.0cm)
 しゃくし岩周辺には、白亜紀後期の伊勢層が分布している。
 伊勢層は、主に火砕流堆積物からできている。白亜紀後期、ここでも大規模なカルデラ噴火があった。今回歩いたコースでは、火砕流堆積物としての火山礫凝灰岩が見られた。

 写真は、しゃくし岩で採集した標本である。非溶結の火山礫凝灰岩で、基質の火山ガラスは変質して黄土色をしている。
 標本の左右に見られる濃い茶色の穴は、軽石が粘土鉱物に変質して抜け落ちた跡で、有名な「大谷石」では「みそ」と呼ばれている。この穴の中には、軽石の繊維状の構造が残されていることがあった。
 流紋岩と黒色頁岩の岩石片や、長石と石英の結晶片をふくんでいる。

 この火山礫凝灰岩は、岩石片の量に変化が見られた。また、弱く溶結しているところもあって、そこではレンズ状に押しつぶされた軽石が見られた。

 岩国神社では、デイサイトが見られた。緑色を帯びた石基の中に、斜長石の斑晶が目立つ。板状~柱状の節理がやや発達しているところがあり、岩脈として貫入したと考えられる。

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