棚 原 山 (406m)   姫路市    25000図=「前之庄」「姫路北部」


須加院川を溯って春の棚原山へ

棚原山

 奥須加院の田川神社から須加院川に沿ったあぜ道を歩き始めた。今日は、須加院川をさかのぼり、その源頭から棚原山をめざす。

 山のあちこちを、ヤマザクラの花がポッポとピンクに染めていた。川は狭い低地の中を曲がって流れ、右岸が山脚に沿うようになった。山ぎわには、スミレやタチツボスミレが咲き、カワラヒワが黄色の紋を見せて飛び立った。
 ときどき河床に下りて石を調べては、何度も立ちつくした。ここの地層は、見れば見るほど頭が混乱するばかり……。広峰層の礫岩や角礫岩、それにきれいに成層した砂泥互層の関係をいったいどう考えたらよいのだろうか。
 頭の中を整理することもできずにまた歩き出すと、足元から飛び立ったホオジロが電線に止まってさえずった。
 やがて、この谷最奥の集落、谷山に着いた。河畔には桜が並び、花がほころびかけている。あと1週間もすれば、満開の花がこの小さな里を美しく彩るであろう。

ヤマザクラがポッと咲く 谷山の集落を過ぎて

 谷山を抜けると地道となった。道は川に沿ってゆるくうねるようにして伸びていた。のどかな里の風景に、ウグイスの声がよく響いた。流れの上にかかる木々の枝に、アオジやルリビタキが止まった。キセキレイは、流れに下りて浅い水の上を歩いた。
 地層は超丹波帯に変わって、古い砂岩や頁岩が現れるようになった。砂防堤を過ぎたあたりから、水量が目に見えて減ってきた。谷が広がった陽だまりに、シャガやフユイチゴが葉を広げていた。
 標高180mの二股から細い山道となった。スギやヒノキに、雑木が混じる。林の中に、ツバキの赤い花が落ちていた。ヤマドリがあわてたようにバタバタバタと大きな音を立てて逃げていった。

ハコベ
 ずっと山道のガレ石を踏んで登った。テングチョウが、かたわらの石に止まっていた。石の間に小さなハコベ。ルーペで見ると、花弁が驚くほど白く輝いていた。
 傾斜がだんだん急になってきた。谷に水がなくなったと思ったら、その上でまた水が染み出していた。川の流れの最初の一滴はあいまいで、それをとらえることは難しい。
 標高310mを越えると、谷は急傾斜なまま浅く広くなってきた。あたりには、ワラビやゼンマイが広がっている。谷の一番低いところを、真っ直ぐ登っていった。
 ササと雑木が入り混じったヤブの手前に、荒れたソマ道が左に上っていた。このソマ道でヤブをかわし、左手のヒノキ林に入って急坂を登った。
 そこを登り詰めると、棚原山の山頂に達した。
 山頂は、枯れたササとススキにおおわれた狭い原っぱになっていた。「棚原明神旧鎮座跡」と刻まれた石碑が立ち、そのうしろの石の小さな祠には、今年の元旦登山で供えられたのか、多くのさい銭がのせられていた。その祠の近くの草地から、一匹のヒオドシチョウがバタバタと音を立てては舞い上がり、すぐにまた戻ってきた。
 眺望は東から南が開けていた。眼前に、ここから八葉寺に続く尾根が伸びている。その向こうに、姫路市北部の街並みをが広がっている。その街並みを、さらに志方城山や畑山、高御位山などの山並みが低く重なって囲んでいた。
 海を見ようと南に目を移した。空気はうすく濁ってかすみ、海と空との区切りは分からなかったが、双眼鏡の視野の中で、林立する工場の煙突の上に数隻の船が小さくぼんやりと浮かんでいた。
棚原山山頂 棚原山山頂から畑山方面

山行日:2009年3月31日
奥須加院田川神社〜谷山〜棚原山〜332.8m〜棚原山(333m)〜八葉寺〜相坂トンネル〜田川神社
 奥須加院の田川神社から谷山の集落を抜け、須加院川をさかのぼって棚原山の山頂に達した。山頂からは、尾根につけられた自然歩道を歩いて八葉寺へ下った。
山頂の岩石 後期白亜紀 夢前層 凝灰岩質中粒砂岩
広峰層のスランプ構造
 沢沿いに歩くと、地質の情報が多く得られる。
 「龍野地域の地質」(山元他、2000)では、このルートは谷山の集落付近までが広峰層(白亜紀)、そこから超丹波帯山崎層(ペルム紀)に変わり、さらに丹波帯南山層(ジュラ紀)に変わって、棚原山山頂付近は夢前層(白亜紀)とされている。
 この地域の広峰層は、火山活動によって形成されたカルデラ湖に堆積した湖成堆積物と考えられている。地層をつくる岩石は、礫岩、角礫岩、頁岩、砂岩頁岩互層などで、それらが複雑な構造で分布している。砂岩泥岩互層では、層内で折りたたまれたように大きく褶曲しているスランプ構造が観察された。
 超丹波帯と丹波帯の分布地域では、頁岩と砂岩の地層が見られた。両者の境界は観察されず、また岩質による区別もできなかった。
 夢前層は、棚原山山頂下の丸太階段の脇で観察できた。凝灰質の中粒砂岩で、細粒砂岩の薄層をはさんで成層している。黄土色に風化していて、手で崩せるほどもろい。

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