蘇武岳周辺A 豊岡市 25000図=「神鍋山」「栃本」
蘇武岳周辺、花咲く森へ
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| サンカヨウ |
チゴユリ |
1.稲葉から妙見蘇武林道
蘇武トンネルをくぐり稲葉(いなんば)に出ると、車は稲葉川に沿って上りはじめた。
ヤマボウシ
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橋本さんが、運転席からサワグルミの実を見つけた。狭く曲がりくねった道を運転しながらも、周りの植物を観察する技はすごい。橋本さんの植物に関する深い知識と熱意にふれながらの、但馬の植物を巡る旅の2日目が始まった。
サワグルミの果穂は、薄く褐色に染まり始めていた。翼の付いた堅果が、鈴なりに垂れ下がっている。私も、部屋のインテリアにと、その果穂を一つ標本に採った。
さらに上っていくと、車の前をヤマドリの親子が横切った。3羽の子はまだ小さく、親のあとをヨチヨチとそれでも必死に追いかけ、道脇の斜面に転がるように落ちていった。
道の周囲は美しい自然林。ブナ、ミズナラ、トチノキ、ナナカマドなどが葉を伸ばしている。風車のような白くて大きなヤマボウシの総苞片は、緑の中に鮮やかに映えていた。大きな葉のテツカエデは、雄花を下げていた。その下には、ハクウンボクが花をつけていた。やわらかな白の花びら、その中に目立つ黄色のおしべ、ハクウンボクの花には優雅な気品が漂っていた。
傾斜が緩くなり、白菅峠に出た。ここから、妙見蘇武林道が尾根上を南へ伸びている。北への三川林道は、工事中であった。尾根上の林道を南に進み、奥神鍋スキー場の一番上のリフトをくぐった。助手席の宇那木さんが、道の山側に白い花を見つけた。サンカヨウだった。そこは浅い谷になった斜面で、サンカヨウが小さな群落をつくっていた。この花を見るのは、北海道の無意根山や暑寒別岳以来のことだった。その先の日陰の斜面には、まだ雪が融け残っていた。
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| サワグルミ(果穂) |
テツカエデ(雄花) |
ハクウンボク |
2.銚子ケ谷湿原
銚子ケ谷は、蘇武岳の北、尾根が高原状に広がったところにある。ここにカキツバタの大きな群落があることは、10数年前に登山者が見つけるまでは知られていなかったという。
林道に、その入口を示す標識が立っていた。浅い谷に沿って、ブナ林の中の小径を緩く上っていった。落ち葉の中にギンリョウソウが立っていた。スギ林に入ると、傾斜がほとんどなくなった。
そして、スギ木立の中にカキツバタの葉で埋まった銚子ケ谷湿原が現れた。カキツバタの開花には早すぎたようで、まだ花茎さえ伸ばしていなかった。花が見られなかったのは残念だったが、湿原の周辺には植物の種類も多く、私たちは気を取り直すのも早かった。
湿原の奥には、レンゲツツジのオレンジの花が陽を浴びていた。ユキグニミツバツツジも、わずかながら名残の花をつけていた。湿原の中には、オタカラコウやミゾソバなどの湿地の植物。周囲のスギ林の林床には、チゴユリ、ニョイスミレ、ツクバネソウ、ショウジョウバカマなど。
湿原の周りの日当たりの良いところには、ミツバツチグリが光沢ある黄色い花をつけていた。オオカメノキ、エゾユズリハ、ミズメなどの木本も多く、橋本さんが次々と同定する植物をメモしていくと、30種はすぐに超えてしまった。
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| 銚子ヶ谷 |
レンゲツツジ |
3.蘇武岳
せっかくここまで来たのだからと、蘇武岳に登ることにした。といっても、林道の登山口からはほんのひと登りで山頂に達してしまう。レンゲツツジのオレンジの花とタニウツギのピンクの花が暖色を添える山道を、私たちは上っていった。
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| 蘇武岳山頂へ |
タニウツギ |
蘇武岳の山頂には、何人もが食事をしながら憩っていた。6年前の4月初め、この山頂はまだ雪に深くおおわれていた。そのとき雪に半分以上埋まっていた標柱の横に立った。北に三川山、南に妙見山が近い。氷ノ山や扇ノ山は、白く霞んで見えた。来日岳の丸い山影は、ほとんどもやに消え入りそうだった。
大岡山の手前では、青いパラグライダーがゆったりと弧を描いて浮かんでいた。あたりをぼんやり眺めていると、時間がゆったりと流れたような気がした。ふと我に返り、山頂付近の地質を観察した後、下山する二人の後をあわてて追った。
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| ヤマヤナギ |
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| ヒカゲノカズラ |
蘇武岳山頂 |
山頂のレンゲツツジ |
山行日:2006年6月11日