蘇武岳@(1074m)  豊岡市   25000図=「栃本」


早春の蘇武岳に残雪光る

蘇武岳山頂と氷ノ山

 「高校一年生のとき、まだ頂上近辺に残雪のある1000mそこそこの蘇武ヶ岳に息を切らし、クラスメイトと競争して登ったことがあった。雪をガブガブ食べ、舌を荒らしたのを覚えている。(植村直己「青春を山に賭けて」より)」

 雪の千ヶ峰に登ってから、およそ1ヶ月。今シーズンにもう1度雪の上を歩きたくて、蘇武岳に向かった。

 スキーを載せた車に混じって、早朝の312号線を北に走る。
 名色高原スキー場の手前の林道から登る予定であったが、間違って建設中の林道に迷い込んだ。Uターンしてもう一度車に乗り込み、稲葉川沿いに移動して「森林開発公団日高団地事業所」の看板のある林道入り口を見つけた。30分のロス。
 車を林道入り口に置いて、歩き出した。林道の雪は結構しまっていたが、それでもザクザクとくるぶしまでもぐり込んだ。
 すぐにスパッツをつけ、セーターを脱いだ。斜面は雪解けが進み、木の根元に根開きが丸く開いていた。

根開き

 40分歩いて、493.0mピークの先の林道ゲートに着いた。ゲートの杭とチェーンは雪に隠れていた。
 まだまだ先は長い。そこからも、ひらすら林道を歩いた。
 標高670mで、備前山の南東尾根にとりついた。積雪が50cmぐらいになって、足が深く沈むことが多くなった。長い長いアプローチが続いた。
 備前山(797m)は名色高原スキー場のリフトの終点になっていた。スキー場はすでに閉鎖していて静かだった。
 さらに林道を進むと、右手に登山道が分かれる地点らしき所に着いた。このあたりで積雪は80cmほど。登山口の標識は雪に隠れて見えない。
 念のため林道をもう少し進んで位置を確認した後、登山口と思われる地点に戻って、雑木の斜面に入っていった。
 夏道らしき切り開きを進むと、文字の消えた標識が立っていて、その先の木の枝から赤いビニールテープが下がっていた。やがて、雪面にかすかに残るスノーシューの跡を見つけた。歩き始めてから、ちょうど2時間たっていた。雪の上に立ったまま、おにぎりを食べた。

 夏道に入ると、急に雪が深くなった。表面がザラメになった残雪は、まだ1mぐらいの高さで残り、夏道を深く隠していた。
 雪はそれほど固くしまっていなかった。ときどき、膝の上まで雪の中にズボッと入り込んだ。

 標高900mぐらいまで、雪の斜面のきつい登り。雪に足を取られながら急な斜面を登るのは、かなり体力を消耗する。
 雪面にわずかに残るスノーシューの跡を辿った。920mのピークの先の小さなコルを過ぎると、また急な登りとなった。
 いつの間にか、あたりはブナ林になっていた。一歩一歩前に進むのが精一杯で、どのあたりでブナ林に変わったのか気づかなかった。息を切らしながら見たブナの木肌は、白い雪によく似合っていた。

 林の中で展望は開けなかったが、行く手にふと蘇武岳山頂の見える地点があった。広い高みのほぼ中央奥に座る山頂は、雪にすっぽりと覆われ白く光っていた。

ブナの雪道 登路より蘇武岳を望む
(写真中央奥が蘇武岳山頂)

 息を切らせながら登っていくと、蘇武岳の北尾根に達した。地形図には、尾根の西に林道、東に登山道が描かれているが、その間の尾根を辿って山頂に向かった。
 思いははやるが、雪に足がとられてなかなか前には進めない。大小の起伏を乗り越えて、やっとの思いで山頂直下の小さな平坦地に抜け出した。
 目の前に大きく広がる丸い山頂を見上げると、雪庇が張り出していた。その下の滑らかだが急な雪面には上から雪が流れたのだろうか、かすかな縦線が細かく走っていた。雪庇が崩れそうで気味が悪かったが、思い切ってこの斜面を登っていった。

残雪光る蘇武岳山頂

 山頂下の雪は、よくしまっていた。雪庇の下を左に回り込み、その美しく光る蘇武岳山頂に立った。

 北にアンテナの林立する三川山、南に信仰の山妙見山、西に氷ノ山・鉢伏山から瀞川山、その奥に扇ノ山の青い山稜……。
 誰もいない頂上。スノーシューの跡もどこかでいつの間にか途絶えていた。風は少しあるが寒いほどではない。
 もっと長く、周囲の山を眺めていたかったが、帰路の時間を考えるとそう余裕もない。最後にもう一度、氷ノ山に目を移し頂上を後にした。

山頂から妙見山を望む
山行日:2000年4月2日


名色の林道入り口〜493.0mピーク北〜林道ゲート〜備前山(797m)〜登山口〜蘇武岳北尾根〜蘇武岳山頂(帰りも同じコース)
 名色の集落の南に林道の入り口がある。地形図に実線で描かれたその林道を備前山山頂(797m)の先まで歩く。
 760mコルで林道から登山道が分かれているので、ここから登山道(破線路)に入った。登山道を西に進み、蘇武岳の北尾根に達する。尾根の雪の上を南に進み、山頂の東側に回り込んで山頂に立った。
 上り3時間45分、下り2時間10分のツボ足での山行であった。

山頂の岩石
 林道の入り口付近に露頭が見られた。砂岩が主で、泥岩を挟んでいる。砂岩は、褐色、粗粒で淘汰が悪い。ところどころで礫岩となっている。泥岩は、葉理が細かく発達している。大部分が風化変質して、粘土状になっていることが多い。
 観察された砂岩層は、中新世の北但層群豊岡累層にあたる。蘇武岳の山頂周辺は、その上位にあたる北但層群村岡累層が分布しているが、雪に隠されて観察できなかった。 

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