志筑花こう閃緑岩
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淡路島の青い海に、白い岩やそれがくだけてできた白い砂はよく似合います。この白は、花こう岩類の石英や長石の白です。
淡路島北〜中部は領家帯に属し、ここには白亜紀に貫入した花こう岩類が広く分布しています。
領家帯は高温型の変成帯で、花こう岩類には片麻岩や結晶片岩などの変成岩が伴っています。また、花こう岩類も変成帯に特有のつくりをしています。
今回は、淡路市塩尾(しお)の海岸で、領家帯の2種類の花こう岩類を観察しました。 |
1、防波堤から海辺に下りて、「志筑花こう閃緑岩」を観察しよう |
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志筑花こう閃緑岩(1つ目の岩) |
志筑花こう閃緑岩に見られる暗色含有物 |
淡路島の東岸に沿った国道28号線を南下し、「淡路ワールドパークONOKORO」を過ぎると、海側に防波堤で囲まれた塩尾の港が見えます。南側の防波堤の付け根から海岸へ下りてみました。
小さな砂浜を南へ向かうと、大きな岩が海に突き出しているのが見えます。大きな岩は3つありますが、これらの岩を手前から(北から)順に見ていきましょう。
初めの岩は、「志筑花こう閃緑岩」と名づけられた岩体でできています。岩石の表面に、レンズ状に伸びた黒い模様がたくさん見られるのが特徴です。
岩に近寄って、詳しく観察してみましょう。
岩石は、白っぽい鉱物と黒っぽい鉱物から成っています。白っぽい鉱物のうち、灰色で透明感があるのが石英。白くて、劈開面がきらりと光るのが斜長石です。ルーペで見ると、斜長石は双晶しているのが分かります。黒っぽい鉱物は、黒雲母と角閃石です。
これらの鉱物は、単純にモザイク状に組み合わさっているのではありません。細長く、あるいは薄くなった鉱物が、ほぼ一定方向に並んでいます。このようなつくりを、片状構造といいます。
これは、この岩体をつくったマグマが、貫入して冷え固まるときに一方向から大きな圧力を受けたことを示しています。このようなつくりは、領家帯の花崗岩によく見られます。
岩体全体を見渡すと、平面的な割れ目が多く見られます。それぞれがほぼ直角に交わる3方向の割れ目によって、岩体は、さいころを積み重ねたように見えます(方状節理)。また、その中で、特に一方向の割れ目が目立ち、板状節理のように見える部分があります。
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志筑花こう閃緑岩 |
志筑花こう閃緑岩に見られる節理 |
また、この岩体中に多く見られる黒いレンズ状の模様は、暗色包有物と呼ばれているものです。細長く伸びている方向は、周囲の岩石中の鉱物の並ぶ方向と調和的です。暗色包有物には、細粒の黒雲母や角閃石が多く含まれています。
これらの暗色包有物は、マグマの貫入によって取り込まれた周囲の岩石が、マグマの熱によって変成作用を受けたものです。
2つ目の岩体も「志筑花こう閃緑岩」からできていますが、西側(道路側)の上の部分は、これとは違う岩石でできています。
この部分には、大きなカリ長石の結晶が多く含まれています。これを「塩尾花こう岩」といいますが、この部分は「志筑花こう閃緑岩」に取り込まれているようです。「塩尾花こう岩」は次の3つ目の岩体で、よく観察できます。
3つ目の岩体
上部が「志筑花こう閃緑岩」、下部が「塩尾花こう岩」
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3つ目の岩体は、高さ10mほどの岩塔です。テトラポットを渡って、その岩塔の下へ行くことができます。
岩塔の下部は、全体的に黒っぽくて、大きなカリ長石の結晶を斑状に含んでいる「塩尾花こう岩」です。
黒っぽく見えるのは、黒雲母などの有色鉱物の割合が多いからです。
岩石を観察すると、黒雲母が多い黒い部分と石英や長石の多い白い部分が縞模様をつくっていることが分かります。このようなつくりを、片麻状構造といいます。
特徴である斑状のカリ長石は、短柱状からだ円形で、大きさ3cm×1cm程度が普通ですが、最大で5cmに達します。
黒雲母は、ペラペラに引き伸ばされて湾曲しながらカリ長石の大きな結晶を取り囲み、石英・斜長石も引き伸ばされたり壊されたりしながら、大きなカリ長石を取り巻いています。このようなつくりをした花こう岩を眼球状花こう岩といいます。
この岩塔の南側に回ると「志筑花こう閃緑岩」が「塩尾花こう岩」の上に乗っていることが分かります。
「塩尾花こう岩」の「志筑花こう閃緑岩」の境界は明瞭ですが、お互いがにじんだようになって接しています。貫入時期は「塩尾花こう岩」が早く、そこに「志筑花こう閃緑岩」が後から貫入しました。
領家花こう岩類は、白亜紀に形成されましたが、3つの時期に分けられています。「塩尾花こう岩」は最も古い第1期、「志筑花こう閃緑岩」は第2期(文献によっては、第1期)とされています。
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塩尾花こう岩 |
塩尾花こう岩 |
海岸の転石
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帰りに、初めの砂浜に戻り、打ち上げられた小石をひろってみましょう。
ここでは、花こう岩類以外にも、片麻岩や結晶片岩などの領家帯の変成岩類が見られます。
変成作用によって鉱物が平行に並ぶつくりを片理、その方向に割れやすいことを劈開(へきかい)といいます。片理や劈開が発達している岩石が、結晶片岩です。
鉱物の結晶粒が大きくなって、片理や劈開が弱くなり、縞状構造が発達した岩石が片麻岩です。
この海岸では、結晶片岩と片麻岩のどちらも見ることができます。
結晶片岩には黒雲母・白雲母が多く、縞状構造も見られますが、片理の方向に割れて薄くなっています。
片麻岩も、泥岩や砂岩起源のもので、黒雲母が多く含まれています。縞状構造がよく見えますが、結晶片岩のようにその方向には割れていません。
片麻岩は、領家帯のような高温型の変成帯に特有の岩石です。
■岩石地質■ 白亜紀 領家帯 「志筑花こう閃緑岩」「塩尾花こう岩」
■ 場 所 ■ 淡路市塩尾 25000図=「洲本」
■ 交 通 ■ 国道28号線 淡路交通「塩尾」バス停下車
■探訪日時■ 2006年10月17日