市川町の下牛尾に分布する丹波帯の緑色岩の一部に、枕状溶岩の構造が見られます。
枕状溶岩とは、その名のように枕のような形をしたチューブ状の溶岩が積み重なったものです。高温で粘り気の小さな玄武岩質の溶岩が海底に噴出すると、このような枕状溶岩になります。
枕状溶岩を含む緑色岩の周辺には、チャートや石灰岩、頁岩や砂岩が分布しています。これらの地層の重なりは、丹波帯の地層が海洋プレートが海溝から沈むときに陸側に付加してできたことを示しています。
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市川町下牛尾の永通寺周辺で、枕状溶岩を観察することができました。
1ヶ所目は、永通寺の下の道路脇です。小さな露頭ですが、断面の長径が30cm前後の枕状溶岩がいくつか積み重なっている様子が観察できます。岩石は、暗い緑色の緑色岩です。緻密で硬く、ルーペで観察すると小さな有色鉱物の斑晶が含まれていることが分かります。また、方解石の細脈が割れ目に沿って何本も走っています。
永通寺下の道路脇に見られる枕状溶岩
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もう1ヶ所は、永通寺瑞光殿の裏の崖です。ここには、幅約20m、高さ約8mの大きな露頭があります。露頭全体は、大小の不規則な割れ目の発達した塊状の緑色岩ですが、その一部に枕状溶岩の構造が認められます。
そこには、断面の長径が80cmの大きな楕円形の溶岩(これも枕状溶岩?)の上に、長径30cm程度の枕状溶岩が数個重なっています。枕状溶岩の構造は、その外側で不明瞭となり、塊状の部分に移行しています。
緑色岩は緻密で硬く、瑞光殿を建てるためにこの岩盤を掘り下げるときは大変だったと、寺の住職さんから聞きました。
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永通寺瑞光殿の裏の枕状溶岩
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水中で溶岩が流れると、表面が水によって急に冷やされガラス質の殻ができます。内部はまだ高温なのですぐには固まらず、マグマ(液体)の詰まったチューブ状の袋のような形になります。
マグマは、次々と供給されるので表面の冷えた殻を破って流れ出し、それがまた次のチューブ状の形をつくります。これが繰り返されて、枕状溶岩の積み重なりができるのです。
枕状溶岩はこのようにしてできるので、溶岩が水中に流れたことの証拠になります。
※枕状溶岩に似たものに、陸上でできたパホイホイ溶岩、あるいは二次的にできたニセ枕状溶岩があります。これらの区別は専門的になってきます。
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枕状溶岩のでき方 |
下牛尾の緑色岩(横14cm) |
緑色岩は、変質を受けた玄武岩質の岩石です。普通玄武岩は黒色をしていますが、緑色岩は緑泥石などの鉱物ができているために緑色をしています。緑色岩は、主に枕状溶岩や塊状溶岩、あるいは岩脈や火山砕屑岩から構成されています。
緑色岩は、海洋底起源の岩石です。もう少し詳しく言うと、海嶺で生まれた海洋地殻の玄武岩、海山の玄武岩、大規模な海台の玄武岩などの可能性があり、現在その形成時期や化学成分からいろいろと議論されています。
下牛尾の緑色岩の分布は、狭い範囲に限られています。緑色岩の周囲には、丹波帯の頁岩を主体とする地層が分布しています。その頁岩には、砂岩やチャート、石灰岩、緑色岩がレンズ状〜ブロック状にはさまれています。
このような地層はどのようにしてできたのでしょうか。玄武岩は、陸から遠く離れた海洋底で生まれました。その上に、放散虫の遺骸が積み重なってチャート層を堆積させました。玄武岩やチャートでできた海洋底は、海洋プレートの運動によって陸側に近づいてきます。海洋底は、火山島やその周りに成長したサンゴ礁からできた石灰岩を乗せていることもあります。それらが海溝から沈み込むときに、陸から運ばれてきた砂や泥の層と一緒になって海洋プレートからはぎ取られ、陸に付け加わったのです(付加作用)。
このような、玄武岩(緑色岩)・チャート・石灰岩・泥岩(丹波帯では頁岩になっていることが多い)や砂岩などの地層の重なりを「海洋プレート層序」といいます。海洋プレート層序は、付加作用によって形成された地層の重なりなのです。
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砂岩と頁岩の混在岩(忍辱橋下)
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岡部川河床に露出する緑色岩 |
■岩石地質■ 丹波帯若井コンプレックス
■ 場 所 ■ 市川町 25000図=「粟賀町」
■探訪日時■ 2008年9月23日