「特集 段ケ峰&千町岩塊流」へ

千町岩塊流〜笠杉山(1032.1m)   宍粟市・朝来市  25000図=「神子畑」


雪の千町岩塊流から笠杉山へ

雪の岩塊流

 氷期の地形形成のしくみを今に伝える岩の連なり、苔むしたそれらの岩の上でわずかな水をたよりに命をつなぐ植物、それらが一体となってつくり出す森の景観。千町岩塊流は、2011年6月に公表された「兵庫県レッドデータブック」で貴重性が最も高いとされるAランクに指定された。
 2月も終わろうとする頃、一度冬の岩塊流を見ておこうと思い立ち、スノーシューを積んで千町をめざした。

 上千町の集落のはずれから、川に沿った道を歩き始めた。積雪は30cmほど。降る雪が、あたりのスギの葉を白くしている。川の岩にも雪がのり、岩の間を水が音を立てながら流れていた。
 二股を過ぎ、杉林が切れるとあたりが急に明るくなった。そこには、コナラやミズナラの林が広がっていた。
 歩き始めて40分、千町ヤケノ小屋に着いた。黒くて大きなその建物を背景に、牡丹雪が舞い降りた。小屋の周辺にめぐらされたユニバーサル歩道も、手すりを残して雪に埋まっていた。
 コゲラの小さな群れが、コナラの枝を渡っていった。

千町ヤケノ小屋

 千町ヤケノ小屋を過ぎて、そのまま道を登っていくと、右手に「岩塊流入口」の標識が立っていた。そこから杉林の中に入り、南に方向を変えて沢を一本渡った。
 このあたりは、遊歩道の位置がはっきりと分からなかった。何度か雪を踏み抜いた。次に現れた谷が岩塊流に続く谷。この谷の中の遊歩道らしきところを登っていった。
 標高820mで、遊歩道がヘアピンに大きく曲がっている。ここで遊歩道を離れ、谷を流れる沢に沿って登ることにした。もうここにも、大きな岩塊が滑り込んでいた。
 杉木立の中では、雪は静かに降った。降ったばかりの柔らかい雪をのせて、雪面はゆるくうねっていた。
 標高860mまで登ると、岩が多くなり始めた。このあたりが岩塊流の先端である。高さ3.5m、幅4mの家形の巨大な岩塊は、雪の中でもその側面をあらわにしていた。

 ヤケノ小屋から1時間、頭上に橋が現れた。当初、林道はこの少し上で岩塊流を横切る計画であった。しかし、そこは岩塊流の中心部に近かったので、林道のコースをここまで下げ、この橋をつくって岩塊流をまたぐことになった。
 橋の上には、欄干の高さまで雪が積もっていた。この橋は、昔は岩の下をたくさんの水が流れて「どうどう」という音が聞こえたことから「どうどう橋」と名付けられた。
 
岩塊流先端付近 どうどう橋

 橋を下り、岩塊流の谷を登った。岩塊の上には雪が積もり、表面が複雑に波打っていた。
 あちこちで、岩塊の側面が現れてた。岩塊に着くコケは、冬に色が薄くなっているが枯れてはいない。うっすらと雪をまといながらも、岩にしっかりと張り付いていた。
 シカに樹肌や枝をかじられたオオバアサガラの幼樹は、幹だけを雪の上に出していた。
 
岩塊流に生えるコケ 雪の岩塊流

 岩塊流の上には雪が1mほど積もっていた。雪面のへこんだところはスノーブリッジになっていて、その上に足をかけるとスノーシューごとズボリと沈み込んだ。
 始めの林道予定地は工事によって岩塊流が平坦にならされてしまったので、雪も平らに積もっていた。オオバアサガラの細い幹を透かして、その向こうに大規模な岩塊流の斜面が見えた。

岩塊流と積もる雪

 岩塊流の脇を登っていった。新しく建てられたウッドデッキを過ぎると、遊歩道が岩塊流を横切る地点に出た。チョロチョロと水の流れる音が聞こえる。岩塊流の下を流れる水は、ここだけ地表に出て雪を解かしていた。
 岩塊流のシンボル「くじら石」は、雪を背中にたっぷりとのせて横たわっていた。頭の方から覗き込んでみると、まるで氷山に囲まれ難破した船のように見えた。

雪のクジラ石

 岩の上の木々は、どれも葉を落として静かに降る雪の中に立っていた。コナラの幹にはえたコケも、うっすらと雪化粧している。ミズナラやコハウチワカエデの幹にも雪が張りついている。ツルウメモドキは、赤い実をまだ落とさずにつけていた。
 傾斜は、しだいにゆるくなってきた。岩塊の数も減って、もう雪を踏み抜く心配がなくなった。新雪の上にイノシシの足跡があった。
 谷は広くなって左右に開き、標高1035mまでくると岩塊はもうあちこちに散在するだけになった。

稜線へ

 雪をのせて白く化粧した木々の枝をくぐって斜面を登ると、稜線に達した。
 稜線に立つと、北から風が吹き上がってきた。その風に飛ばされた小さくて硬い雪が、ウェアに当たってパチパチと音を立てた。アセビが葉に雪をのせ、じっとうなだれている。どちらにも滑り落ちることができなかった岩があちこちに立っていた。
 コナラやミズナラに、ブナやリョウブやウリハダカエデの混じる雑木林。木々の枝には霧氷が白い花を咲かせていた。

稜線の霧氷

 稜線を北西へ下った。稜線の新雪は風で飛ばされていた。クラストした雪を踏むと、スノーシューの爪がザクザクと音を立てた。
 稜線にも吹きだまりのようなところがあって、そこには粉雪が積もっていた。Ca.890mの大乢には、簡素な祠に地蔵さんが祀られていた。
 大乢からの上りは、ヒノキやアカマツの枝葉が雪の上にたくさん落ちていた。朝から降っていた雪はいつの間にか止み、うす雲を透かして日が射してきた。雪面がその日差しにキラキラ光った。
 北風がまた強くなってきた。アセビが道をふさぎ始めた。Ca.990m、山頂の一つ手前のピークに立つと、霧氷の木々の向こうに笠杉山のピークが大きく現れた。

990mピークより笠杉山を望む

 コルへ下って、ラストの登り。霧氷の枝の下を登っていくと、傾斜が急に緩んで雑木が切れた。その先の白い高みに、笠杉山の山頂標識が立っていた。
 山頂に立つと、段ヶ峰が南東に近かった。雪をまとった山並みが幾重にも重なって、茫洋とかすみながらこの山頂を囲んでいた。

笠杉山山頂

 山頂から30mほど戻ったところに、「千町小屋」(千町ヤケノ小屋)の道標が立っていた。この道標に従って、南へヤケノ小屋を目指した。支尾根が複雑に分枝していたが、木の幹や枝に取り付けられたピンク色のテープが道を示してくれた。
 2本の林道を横切り、尾根から谷に下った。谷を流れる沢を、右岸から左岸へ、左岸から右岸へと何度か渡って進むと、広い道に出た。明るく開けたコナラ林にアカゲラの鳴き声が響いた。
 ヤケノ小屋に着いた頃に、また雪が降ってきた。

山行日:2012年2月26日

上千町〜千町ヤケノ小屋〜岩塊流〜稜線1070m地点〜大乢地蔵〜笠杉山〜千町ヤケノ小屋〜上千町
 除雪は上千町の集落まで。そこから千町ヤケノ小屋まで車道を歩く。さらに車道を少し進んだところに、「岩塊流入口」がある。
 ここからは、遊歩道が岩塊流まで導いてくれる。岩塊流の先端に達して、その脇を少し登れば「どうどう橋」の下に出る(標高885m)。さらに岩塊流を見ながら登ると、稜線に出る(標高1070m)。
 稜線を北に進めば、大乢地蔵を経て笠杉山に達する。
 笠杉山の山頂から、南南西に伸びる尾根を下る。道標とピンク色のテープが道を示してくれる。最後は、コナラ林の中の広い道に出て、千町ヤケノ小屋に戻った。

「兵庫の山々 山頂の岩石」 TOP PAGEへ  登山記録へ