篠山層群の地層に見られる生痕化石と雨つぶの跡

(丹波篠山市西古佐)

  1億1000万年前の生物の巣穴や這(は)いあと、それに雨粒のあとが見えるところがあります。
 丹波篠山市の「丹波並木道中央公園」。その中にある「太古の生き物館」の玄関前です。
 幅8m、高さ5mの大きな露頭で、ここには篠山層群大山下(おおやましも)層の泥岩と砂岩・礫岩の地層が広がっています。
 
篠山層群大山下層の地層
マウスポインタを写真の上にのせて下さい。
ms.:泥岩   ss.:砂岩   cg.:礫岩   ポイントA〜D:下の説明で使用


1.巣穴(サンドパイプ)と這(は)いあと

 ポイントAでは、生き物の巣穴の化石が見られます。
 直径が1〜2cmほどの円形で、一番大きいものは2.5cmあります。
 地層は細粒砂岩でできていて、巣穴の中は周りより大粒の砂で埋められています。地層のここに表れている面は層理面で、当時の砂浜と考えられます。
 砂に巣穴を掘って生きている生物がここにいて、その巣穴の一番上(または、断面)が見えているのです。巣穴は、ここから管となって真下に伸びています。このような管を、サンドパイプといいます。
 巣穴をつくったのは、どんな生き物でしょうか。それには、カニやシャコのなかま、あるいは貝のなかまなどが考えられます。

巣穴の化石  巣穴の化石
(写真には20個以上の巣穴が見られる)

 ポイントBでは、生き物の這(は)いあとの化石が見られます。層理面に、這いあとが幅1cm、長さ15cmの浅い溝となって残されているのです。
 巣穴の化石(サンドパイプ)や這いあとの化石は、どちらも過去の生物の生活のあとが残されたものです。このような化石を、生痕化石といいます。

這いあとの化石
(画面中央、横に伸びる溝)

2.雨粒のあと

 ポイントBの這いあと化石の近くに、小さな円形〜楕円形のくぼみがたくさん見られます。くぼみの大きさは、直径2〜4mmぐらいのものが多く、最大6mmです。
 これは、雨粒のあとが地層に残されたものと考えられ、雨滴痕と呼ばれています。1億1000万年前に降った雨が地表の細かい砂の上につくったあとが、長い年月の間地中にうずもれ、固い石となって今地表に表れたのです。
 丹波竜が発見されたのも、同じ丹波層群大山下層の地層です。昨日降った雨のあとも消えてしまうのに、恐竜の背中を濡らしたかもしれない雨のあとが残っているとは・・・。悠久の時間の流れを感じさせてくれますね。

雨滴痕
(10円玉の半分程度の大きな円形は巣穴化石)
 
 巣穴の化石と雨滴痕については、「太古の生き物館」でも展示・解説されています。この解説も参考にして観察しましょう。

3.露頭の地層を調べよう!

 この露頭で地層を調べてみました。
 写真は、層理面にクリノメーターを置いて地層の傾斜を調べているところです。
 ここでの地層の走向はN10°E、傾斜は30°Eです。地層の走向と傾斜は、この地層がどのように広がっているのかを知るために必要な情報となります。

細粒砂岩層の層理面で傾斜を測る


 ここで見られる地層は、泥岩の層と砂岩・礫岩の層が交互に重なっています。
 泥岩は、砂岩より風化しやすく、層理面に平行あるいは垂直に入った割れ目がたくさん入り、そこから小さくバラバラと四角に割れ落ちています。
 このような風化のしかたを「チリ割れ」と呼んでいますが、泥岩や頁岩によく見られる風化のしかたです。

チリ割れした泥岩と突き出た砂岩


 砂岩は泥岩に比べて固いので、ポイントCのように、砂岩の層はチリ割れの泥岩の間に突き出ています。
 岩の割れたところを触ってみると、泥岩は粒が小さいのですべすべしているのに対して、砂岩は粒が大きくざらざらしています。
 砂岩にも、層理面に平行あるいは垂直の割れ目がたくさん入っています。

砂岩の表面(写真横3.5cm)


 ポイントDは小石(礫)が固まってできた礫岩です。礫の形は、ある程度角がとれて丸まった亜円礫。大きさは、最大で5×7cmです。
 礫の種類は、チャートと砂岩が大部分を占めています。

礫岩  礫岩中のチャートの礫
(左の灰色の礫と右の赤い礫は共にチャート)

 チリ割れに風化した泥岩は、もっと小さく割れて雨に流されていきます。
 風化に耐えている砂岩や礫岩も、やがて表面から崩れて小さくなり流されます。
 今見えているところは、やがて巣穴のあとや雨滴痕ごと消えてしまいます。しかし、この下の地層に眠っている化石が新しく顔を出すかもしれません。

4.赤い地層の篠山層群

 ここで見られる地層は赤っぽい色をしています。特に泥岩の赤茶色がよく目立ちます。この赤っぽい色が篠山層群大山下層の特徴です。
 どうして、このように赤っぽい地層ができたのでしょうか。
 それは、この地層ができたときの環境に原因があると考えられます。

 1億1000万年前、日本はアジア大陸の東の端に位置していました。
 篠山層群は地層をつくる岩石の種類や堆積のしかた、産出する化石の種類から、小さな盆地の中の湖や河川の近くでできたと考えられています。
 泥岩は、水底に堆積した泥が長い年月の間に押し固められてできた岩石です。
 篠山層群の泥岩は、いったん湖が干上がって土壌化ために赤くなったと考えられます(赤色土壌化)。
 この地層からはカオリン鉱物が検出されていて、湿潤な気候下で土壌化が起こったことが推定されます。
 一方で、スメクタイトやイライトという粘土鉱物やカリーチ(乾燥気候でできる炭酸塩岩)をふくむことから、蒸発の激しい乾燥気候も示しています。
 つまり、篠山層群の赤い泥岩層は雨季と乾季のある半乾燥〜半湿潤気の下で赤く土壌化した地層が、その後水に沈み、長い年限の間に押し固められてできたと考えられています。(林他,2017)

赤っぽい篠山層群の地層
 
■ 参考・引用文献
 林 慶一・藤田早紀・小荒井千人・松川正樹,2017,兵庫県篠山地域に分布する白亜系篠山層群の層序と古環境,地質学雑誌,123,747-764.


■岩石地質■ 泥岩と砂岩・礫岩の互層(泥岩優勢) 篠山層群大山下層(白亜紀前期)
■ 場 所 ■ 丹波篠山市西古佐「丹波並木道中央公園」内  25000図=「篠山」
■探訪日時■ 2020年9月22日