猿岩~馬船丸山(515.5m)~御所山(520m) 
神河町     25000図=「寺前」


山腹に立つ圧巻の大岩
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猿岩

 神河町上岩(あげいわ)から南の山を見上げると、山腹をおおう木々の中に一つの大きな岩が見える。村の上のこの岩が、上岩の地名の由来となったという。
 岩の名は、「猿岩」。この地域の古い地図に、猿岩の姿とその名前が記されている。
 地域のシンボルであるこの岩を多くの人に知ってもらおうと、区長だった大中政實(おおなかまさみ)さんを中心に上岩の人たちによって登山道が整備された。最近は、寺前小学校の子どもたちも校外学習でこの岩に登り、ふるさとの自然に親しんでいる。

 古地図に描かれている猿岩(一部)
(上岩多目的集会所蔵)

 第二栗谷橋からスタート。鹿よけネットのゲートに、「猿岩まで1.9k」の標識がかかっている。ここから、谷に広い道がゆるく上っていた。
 スイカズラが白と黄の花を並べていた。マタタビの白い葉が目立つ。ウツギの花が枝もたわわに咲いている。ホトトギスが遠くで鳴いていた。

スイカズラ

 道が二つに分かれたところで、左に進んで沢を渡った。ここには、「猿岩まで1.5k」の標識。
 「猿岩近道」の標識の立つところで、舗装された林道と分かれてもう一つ沢を渡る。
 道をしばらく行くと、右の斜面に山道が分かれていた。山道に沿って続くロープを伝いながら、スギ林を登った。
 暗い林の中で、コガクウツギの装飾花が真白い光を灯しているように映えている。ツルアリドウシの花弁は縁がほんのりとピンク色。ヒメウラナミジャノメが地面に止まった。

 ツルアリドウシ ヒメウラナミジャノメ

 ロープをたどっていくと、広い道に出た。先ほど分かれた林道がここへ上がってきている。この道を東へ進んだ。道は地形に沿ってほとんど水平に続いていた。
 ナガバモミジイチゴがオレンジ色の実をいっぱいつけていた。食べてみると、甘くて美味しい。道をゆるく曲がると、道の先にいたシカが走って逃げた。
 「P 車、最終回転場所」の標識がかかっていた。車は、ここまで上がることができる。
 さらに先へと進む。道の脇にシライトソウが咲いていた。

 ナガバモミジイチゴ シライトソウ

 道にタケニグサが現れたところに、「猿岩登り口 猿岩まで100m」の標識がかかっていた。ここから急な斜面を真上に向かって道がつけられていた。
 固定されたロープに沿って上へ登っていく。地面には、角張った岩がたくさん重なっている。岩の大きさは、大きいものでは2mほど、小さいものは数cm~十数cmとまちまちである。
 上から崩落してきた岩で、ロックフォールという。ロックフォールの上には、その供給源となった岩盤がある。それが猿岩にちがいない。

 ロープをたよりに急な坂をさらに登ると、上に猿岩が見えた。
 空に向かって地面から大きく飛び出した猿岩は、光を浴びて白っぽく見えた。縦に2方向、斜めに1方向に節理が入っている。その割れ目に背の低い木が根を下ろしている。岩の上も木々におおわれていた。
 

猿岩を見上げる

 猿岩の下から、左右どちらからでも巻き上れるようにロープがつけられていた。左は岩の真横を、右は岩からかなり離れて大きく回り込むようにつけられている。
 左からロープをつたって岩の上へ登った。

 岩の高さを測ってみた。GPSでは誤差が大きすぎるので、巻き尺で実際に測ることにした。
 岩の上が少し後方に下がっているので、5mほど下の飛び出したところまで下る。そこから、先端に石をつけた巻き尺を前に放り投げるた。1回目は巻き尺がからまって失敗。2回目は、巻き尺がするすると出て、30mいっぱい出ていったところでずしんと端を持つ手に衝撃がはしった。
 岩の下へ降りて確かめると、巻き尺先端の石は岩の付け根の3m下でぶら下がっていた。
 巻き尺を投げたところから岩の下まで27m。その上の5mを足して、岩の高さは32mであることがわかった。

 もう一度岩の上へと登る。
 正面に城山が見えた。ふもとに、上岩や寺前の町並みが広がっている。最明寺の屋根瓦、大嶽山の採石場、小学校や中学校のグランド、役場の建物・・・。
 田んぼには水が張られている。田植えが近い。
 

猿岩の高さを測る

 猿岩の上から、まっすぐに上へと登った。今日は、ここからまだ長い。
 自然林の急な斜面。木の幹を持って体を引き上げていく。赤っぽくなめらかな木肌はヒサカキ。ネジキの木肌にはねじれた深い裂け目。リョウブは薄くはがれてまだらになっている。
 コナラの太い幹は両手で抱えて体を引き上げた。
 
 412mピークは、上岩から見上げた山のてっぺん。向山と呼ばれている。ここに立つのは13年ぶりだった。

 ここから尾根を少し下り、再び上っていった。
 尾根には鹿よけネットが張られているが、古くなって倒れているところも多かった。もうシカはどこにでもいるので、尾根のネットはすでに意味がなくなっている。
 尾根には切り開きがあった。アカマツの松ぼっくりがたくさん落ちている。ガンピが黄色の花をつけている。モンキアゲハとすれちがった。
 傾斜が増したところで切り開きがなくなって、ヤブこぎとなった。そこを登り切ると、505.1m三角点の山頂に達した。
 山頂は自然林の中。ソヨゴやナツハゼが小さな花を咲かせていた。

ソヨゴの花(雄花)  ナツハゼの花

 三角点から下って登り返す。このあたりは切り開きがあって歩きやすかった。
 登り詰めた573mピークは、今日の最高所。切り立った岩の上に、アカマツやネジキやリョウブが根を下ろしていた。

 573mピークから、神河町と市川町の境界尾根を進んだ。もう切り開きはなくなって、尾根はヤブにおおわれていた。尾根の南側に、道らしきものが残っていたがそれも途絶えがちだった。サルトリイバラのトゲが行く手をのじゃまをした。
 コルを過ぎてまた登っていくと、鉄塔の下に出た。ちょうどお昼の時間。ここで昼食にしようとザックを開けたが、コンビニで買ったおにぎりが入っていない。うっ、車に置いてきた・・・。このショックは大きかった。
 気持ちを立て直せないまま、再びヤブにもぐりこんだ。

 よけいに厳しい尾根歩きとなった。倒木の上に、リスが食べ残した松ぼっくりの芯「森の海老フライ」がひとつ。モチツツジが、やわらかなピンクの花を2つだけ残していた。こんなものが少しだけ気持ちを慰めてくれた。

 小さなピークで境界尾根から分かれて東に進むと、馬船丸山の山頂に達した。ソヨゴの林の下で、三角点(515.5m)は土や落ち葉になかばうずもれていた。サルトリイバラの実が、ほんの少しオレンジ色に色づき始めていた。

モチツツジ 馬船丸山山頂の三角点 

 境界尾根に戻り南へ進んだ。
 御所山(520m)は、地籍を示す杭が1本打たれているだけの山頂だった。その杭を写そうとしゃがみこむと、シキミの匂いがした。
 

 御所山山頂

 御所山からさらに進んだ。木の間越しに七種の山々が見えた。
 486mピークはコシダの中にあった。ネジキのつぼみがふくらんでいた。

 486mピークで方向を東に変えて進む。尾根に高さ20mほどの岩塔が屹立していた。
 少し前から岩石は花崗岩(花崗閃緑岩)に変わっていた。変質が著しく、岩石を割ってみても新鮮なところがなかなか見られなかった。
 岩塔の下を進むと、尾根には丸みをおびた岩が重なっていた。風化によってとり残された花崗岩のコアストーン。花崗岩の山独特の風景である。

尾根の大岩 花崗岩の山の風景 

 401.7mピークの三角点は、コナラの幼樹の下に埋まっていた。
 西風がこのピークをゆるく吹き抜けていった。

401.7mピークの三角点

 ヤブをこいで尾根を下った。
 ヤマアカガエルが落ち葉の上をはねた。一度目を離すと、落ち葉と保護色のその体は見つからなかった。近づくと、また飛び跳ねて姿を現した。
 最後のピークを越えて下り、御所谷小池に出た。

山行日:2023年6月5日

第二栗谷橋~猿岩~向山(412m)~505.1mピーク~573mピーク~馬船丸山(515.5m)~御所山(520m)~401.7mピーク~御所谷小池 map
 第二栗谷橋のたもとの広いところに車を置く。猿岩まで道が整備されている。猿岩から歩いた尾根には道がないが、一部で切り開きが利用できる。
 下山後は、御所谷橋に置いていた自転車でスタート地点まで戻った。

山頂の岩石 猿岩・馬船丸山 白亜紀後期 大河内層 溶結火山礫凝灰岩
        御所山      白亜紀後期 大河内層 流紋岩
        401.7m三角点 白亜紀後期 花崗閃緑岩
左:ホルンフェルス化した溶結火山礫凝灰岩(猿岩)
中:流紋岩(御所山山頂付近)
右:花崗閃緑岩(401.7mピークの北東)
 猿岩から馬船丸山にかけて、大河内層の火砕流堆積物が分布している。多くが溶結火山礫凝灰岩である。
 緑灰色で、結晶片として長石・石英・黒雲母、岩石片として流紋岩・泥岩・軽石をふくんでいる。軽石がレンズ状に押しつぶされた溶結構造が見られる。
 猿岩では、北に分布する花崗閃緑岩の貫入によってホルンフェルス化してる。硬いが割れ目に沿って割れやすい。
 御所山周辺には流紋岩が分布している。白からオレンジ色で、長石と石英の斑晶を少量ふくんでいる。球顆の見られるところがあった。
 486mピークや401.7mピーク付近には花崗閃緑岩が分布している。主に、石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・普通角閃石からなる中粒の花崗閃緑岩である。カリ長石は、薄いピンク色をしている場合が多い。尾根で見られたこの花崗閃緑岩は、著しく変質していることが多かった。
 

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