三の丸A(1464m) 宍粟市・鳥取県若桜町 25000図=「戸倉峠」「氷ノ山」
| やまめ茶屋から氷ノ山三の丸への山スキー |
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写真上:三の丸への雪原
写真右:ブナの木の霧氷 |
憧れの山スキー。昨シーズン、高丸の山頂で出会ったTさんに氷ノ山へと誘っていただいた。
やまめ茶屋から坂ノ谷に沿った林道を遡り、途中から尾根を歩いて三の丸、そして氷ノ山山頂へ。正午頃までに進めるところまで進み、そこから引き返すという計画である。
やまめ茶屋が除雪の終点。そこでスキーをはいた。林道には、昨日のトレースが伸びていた。Tさんのビンディングがスキー板を打ちつける音が、カシャ、カシャと規則正しく鳴る。私は、ひたすらその後を追った。
歩き出してから40分、坂ノ谷に架かるソノ橋にさしかかったところで初めての休憩。このあたりで積雪は50cmほど。今年は雪が少ない。帰り際、やまめ茶屋の主人に、
「茶屋を始めて30数年、こんなに雪が少ないのは初めて」と聞いた。
橋を渡ったところで道は折り返し、対岸の斜面を上っていった。林道の傾斜は、初めからほとんど変らない。複雑な地形に、うまくつけられていた。
数日前に降った新しい雪の上には、ところどころにスギの葉が落ちていた。標高880m、道がヘアピンに曲がるところに、ブナの林が広がっていた。
林道は谷の斜面をトラバースし、渓流に架かる小さな橋を渡ると左右に分かれた。左が坂ノ谷コース、右が殿下コース方面である。私たちは、ここで右へ進んだ。 再び渓流を渡り、その先を進むと林道が傾斜を失った。ここからトレースは、林道を離れて左手の斜面を上っていた。私たちも、このトレースに従った。
トレースは、緩く起伏する雪の斜面にササを縫って巧みにつけられていた。それでも、ササを払い、スキーで挟み込まないようにして進まなくてはならなかった。「ヤブスキー」とTさん。
傾斜もややきつくなって少しずつペースも落ちてきた。ヒノキ林を抜けると、ブナ林になった。ミズナラ、トチノキ、ウリハダカエデなどが混じる。
「やっぱり、ブナがいい。繊細や。」と言われてブナを見上げた。細く分かれた枝先が網の目のように入り組み、その色はほのかに赤く染まっていた。
ところどころにブナの巨木が残っていた。その中の一本は、幹が幾本にも分かれ、樹冠がすばらしく広がっていた。
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| ヤブを進む |
ブナの巨木 |
霧氷のブナ林
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やがて、夏道(坂ノ谷コース)に合流した。まだまだ、ササが雪から出ている。
Tさんがブナの枝に霧氷を見つけたが、空の白に溶け込んで私には見えなかった。そこから少し進むと、前方のブナ林に今度ははっきりと霧氷が見えた。私たちは、その氷をまとって枝先が白くなったブナに向かって歩いた。
そこから先は、霧氷の林。こんな暖冬でも、ここには凛々しい真冬の美しさが広がっていた。
ブナが途切れると、そこには緩やかな傾斜の雪原が現れた。まだ、雪の上にササが頭を出しているが、それもまばらになった。
前方の高みをめざして登っていくと、一瞬途切れたガスの向こうに、赤い三角屋根の三の丸非難小屋が見えた。しかし、ガスがすぐに視界をさえぎった。
非難小屋が見えた方向に真っ直ぐ進んだつもりだったが、再び見えたときには左へかなりずれていた。
やまめ茶屋から4時間半、三の丸に達した。もう正午を過ぎていたので、今日はここまで。
「さて、戻るか。」と小屋を出たとき、ガスが大分薄くなっていた。氷ノ山が見えるかもしれないと、展望台の下まで歩いた。Tさんのようにシールなしでうまく登れないので、せっかくはいたスキーをはずしてつぼ足でズボズボと登った。
もたもたしている間にガスが切れ、氷ノ山の山頂が青空を背景にして気高く現れた。
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写真上:三の丸避難小屋へ
写真右:三の丸から氷ノ山を望む |
さあ、いよいよ下り。ここからが、山スキーの醍醐味だ(うまければ……)。
三の丸から南に広がる雪原を滑った。傾斜は緩いが、クラストしている。
あっというまに転んだ。転んだら、起き上がれない。靴を板からはずして立ち上がり、立ち上がってからまたスキーをはく。またすぐ転ぶ……。少し慣れてきたと思ったところで、方向が東へずれているのに気がついた。
シールを再びつけて上り返し、小さな谷の上を越したところで、トレースを見つけた。
青空に映える霧氷
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雪原からブナ林に入ったところで雪を踏み固め、焼肉パーティーを始めた。ノンアルコールビールにたれ付きの牛肉、コーンスープに紅茶とフルコース。全部、Tさんに準備してもらった。
山の中で、雪の上で、雪を解かしてお湯を作り、……こんなことは何年振りになるのだろう。氷ノ山山頂に登るより、私はこの方がずっと楽しみだった。
満ち足りてふと見上げると、青空に霧氷が白く映えていた。
そこから、ササヤブの中をヒールフリーで下った。50分ほどの苦闘の末に林道に出る。
ここからは、シールをはずして林道を滑ろう……といっても、トレースの上はスピードが出すぎる。新雪の上はバランスが悪い。
思い切りボーゲンで、ズリズリとやまめ茶屋まで下っていった。
山行日:2007年2月4日