賽の神の大岩さん (神河町岩屋)

 神河町岩屋の越知川左岸には、屏風のように立つ大岩があります。かつては、この岩の上に賽の神(さいのかみ)が祀られていました。賽の神とは、村の境にあって、外からから侵入する邪悪なものを防ぐ神様です。
 高さ17.5m、たたみ8畳ほどの広さといわれているこの大岩は、「賽の神の大岩」とも「茶木原の大岩」とも呼ばれ、地元では「大岩さん」として親しまれています。

賽の神の大岩さん


1.賽の神の大岩さん

 昭和の初め頃までは、「火祭りの行事」として8月23日の夕方にこの岩の上でお祈りが行われていました。子どもたちは、たいまつに火をつけて「ジロベー、タロベー」と叫びながら岩の上から力一杯投げたそうです(「神河町公式観光サイト」より)。

大岩さんを見上げる

 大岩さんの右手から、岩に登ってみました。
 岩の上は、ブルーシートでおおわれパイプで柵が組まれています。岩の上に立つと、眼下に越知川が流れ、その向こうに住吉神社の長い石段や社殿が見えました。

大岩さんの上からの光景

 大岩さんの上から尾根に沿って道が上っています。自然林の中を登っていくと、道の上に高さ7〜8mの大きな岩が立っていました。
 岩の上には石で組まれた祠があって、中に神棚が祀られています。ここは、妙見山と呼ばれている標高330mほどの地点です。ここもまた、信仰の地なのです。

 妙見山の大きな岩
(ラッピリストーンでできている)
妙見山の石の祠
 

2.大岩をつくっている地層

 賽の神の大岩さんをつくっているのは、白亜紀後期に大規模な火砕流によってできた地層です。
 このような信仰の対象となっている岩は、ハンマーで割って新鮮な面を見るというわけにはいきません。近寄って、外からそっと観察してみましょう。

 大岩の下にお堂が建てられていますが、お堂の裏あたりが観察に適しています。
 表面にごつごつと飛び出した大小の岩石の破片が、まず目に入ります。
 火山から噴出した破片状のもの(火山砕屑物)のうち、2mm以下を火山灰、2〜64mmを火山礫、64mm以上を火山岩塊といいます。ここでは火山岩塊がたくさん入っていて、300mmを越えるものも見られます。
 火山岩塊や火山礫の種類は、流紋岩が多く、安山岩砂岩やチャートなどの異質岩片もふくまれています。また、凝灰岩や軽石も見られます。
 それらの岩石の間を埋めているのは、火山灰や小さな軽石です。軽石は押しつぶされてレンズ状になっていて、溶結していることがわかります。

 賽の神の大岩は、火山岩塊をふくむ凝灰角礫岩です。また、火山岩塊の割合の多い火山角礫岩といえる部分もあります。

 大岩さんの上の方は、火山岩塊がほとんど入っていなくて火山礫ばかりになります。このような岩石を、ラッピリストーンといいます。
 標高330m、妙見山の大岩もラッピリストーンでできています。

火山角礫岩の部分
(写真左の縞模様のある赤茶色の岩石は
流紋岩の火山岩塊

3.凝灰質砂岩の地層

 この岩体の下の方には、厚さ1m程の凝灰質砂岩の地層がはさまれています。お堂から左に回りこむと、この地層は数基の五輪塔の祀られている洞窟へ伸びていることが分かります。
 凝灰質砂岩は、水の底に火山灰や砂がたまってできます。
 火砕流を発生させる大規模な火山活動では、地下のマグマが噴出して空洞となり、その上の地盤が陥没してカルデラができます。この凝灰質砂岩の地層は、火山活動の休止期に、カルデラ湖の底に火山灰や砂が堆積してできたと考えられます。

 凝灰質砂岩の地層は、まわりの凝灰角礫岩よりも軟らかいために侵食が進み、その部分が浅い洞窟のようになっています。

凝灰岩質砂岩の地層
(赤い線にはさまれたところ)


■岩石地質■ 白亜紀後期 大河内層 凝灰角礫岩
■ 場 所 ■ 神河町岩屋
■探訪日時■ 2022年10月14日