龍軍の滝(標高270m)    神河町    25000図=「長谷」


滝口に不動明王を祀る  map

龍軍の滝

 龍軍の滝は、JR長谷駅の北東、市川に注ぐ渓谷に懸かっている。落差25m。あまり知られていないが、深い森に風情豊かに流れ落ちる名瀑である。
 「不動の滝」の別名があるが、これは昔、1人の坊主が観音堂守に居着くようになり、渓谷に不動尊を彫って祀ったことによる。「龍軍の滝」の名は、祐泉寺住職禅教和尚によってつけられた(「神河町歴史文化基本構想 資料編 2017年 神河町教育委員会」より)。 

 集落から防獣ゲートをくぐって山に入る。スギ林の中に、一筋の道がほとんど水平についている。木々の間から、左下に市川の川面が見える。
 しばらく進むと道は二手に分かれるが、そこに「右 行者道」と彫られた石の道しるべが立っていた。「行者道」の文字の右には、「不動明王」と添えられている。
 道しるべに従って右の道を進む。スギの落ち葉を踏んで歩いていくと、水音が聞こえてきた。

 「右 行者道」の道しるべ

 ぶつかった谷の手前を上流側へ進むと、すぐに龍軍の滝が現れた。
 滝の下は深い渓谷になっていて、ちょっとした函(はこ、ゴルジュ)の様相を示している。そこには、「龍軍屏風岩」の名前がつけられていた。
 道の脇の岩の上に、根元から幹が三つに分かれたケヤキが根を下ろしている。これには、「三股の大蛇」の名前が。

 
滝の下の渓谷「龍軍屏風岩」 滝の下のケヤキ「三股の大蛇」

 うっそうとした森に、黒い岩肌を水が細く流れ落ちている。落ち口から真下に落ちる一筋の水は、途中で何度か岩に当たって段をつくり、幾筋かに分かれたあと、下方でまた一つになる。
 3段と言われているが、見ようによっては6段にも7段にも見える。滝の下方に、右から注ぎ落ちる小滝を従えて、二つの流れが合流し水量を増している。
 昨日の雨で水量は豊かだった。しばらく滝を見上げていると、森の中に木漏れ日が射し込んできた。流れ落ちる水に光が当たると、絹のように白く輝いた。

木漏れ日を浴びる龍軍の滝

  滝の右手に、道が上っていた。登り口の岩に線刻があって、「龍軍之瀧 昭和四年十月建之」と読むことができる。
 そこから、クサリを伝って登て行く。足場はしっかりしている。岩の上に立つイロハモミジの木が、幹がぐにゃりと曲がって滝に向かってせり出している。これには、「覗きモミジ」の名が。地元の人たちによってつけられたいろいろな名所の名前が楽しめた。
 滝の上段に架けられた鉄のはしごを渡って、流れの左側に出た。そこを登ると滝の一番上、落ち口のすぐ横に達した。
 岩のすき間には、赤い前掛けのお地蔵さん、下駄をはいた役行者さまと並び、滝に一番近い所には不動明王が祀られていた。
 
 役行者像 落ち口と不動明王像

 滝が懸かっているのは、溶結凝灰岩の地層。節理が発達し、そこから割れ落ちやすくなっている。その節理によって、縦にスパっと大きく割れ落ちたところにこの滝ができた。
 節理は主に三方向に発達していて、岩盤の一部は、立方体を並べたようにきれいに割れていた。
 
滝の地層  タニギキョウ

 日が陰り、あたりの気温が少し下がってきた。タニギキョウが、滝の水しぶきを受けながら白い花をつけていた。
山行日:2022年5月2日

スタート地点〜防獣ゲート〜石の道しるべ〜龍軍の滝
(同じ道を下山する)
 坂道を上がったmapスタート地点に車を置くことが可能だが、坂道手前の広いところに止める方がよい。
 防獣ゲートをくぐり、5分も歩くと滝の下に達する。

滝の岩石 白亜紀後期 峰山層  溶結凝灰岩
 暗灰色の溶結凝灰岩である。強く溶結していて、硬く緻密。石英と長石の結晶片を多くふくんでいる。節理が発達していて、節理に沿って大きく割れ落ちたところに龍軍の滝が懸かっている。
 

「兵庫の山々 山頂の岩石」 TOP PAGEへ  登山記録へ