竜ケ岳(816.7m)鳴尾山(753.2m) 加美町・氷上町 25000図=「丹波和田」「大名草」

清水坂から竜ケ岳を経て鳴尾山へ

雨を呼ぶ山、竜ケ岳 縦走路からの鳴尾山(中央)
 

 外に出ると、霧が出ているのか曇っているのか、木星と天頂付近に冬の1等星2つがにじんで見えるだけだった。日本海を西へ進む低気圧から伸びる寒冷前線が、今日の午後にも近畿地方を通過しようとしていた。雨の降り出す前に山を下りようと、薄明前の午前5時過ぎに自宅を出発した。

 氷上町と加美町の境界に位置する竜ケ岳と鳴尾山。この2つのピークを連ねる稜線は、加古川とその支流の杉原川にはさまれた丹波と播磨の国境でもある。

 加美町清水の雲門寺に車を止め、ここから林道を上っていった。風は背後から肩をゆるやかになでていく。雨のにおいのする湿った風に追いかけられるような気がして、いつのまにか早足になっていた。あたりはまだ、ほの暗い。
 林道終点から山道に入った。スギ、ヒノキの植林の下にはほとんど草が生えず、赤褐色の土の地肌がむき出しになっている。それでも、わずかに咲くマツカゼソウの白く小さな花が風に揺れ、タケニグサも濁った黄緑色の実をつけていた。ガレ石がふえ、しだいに傾斜を
増す斜面をつづらに上ると、清水坂(きよみずざか)に達した。
 モミの大きな樹の立つこの峠には、石室の跡が残っている。かつて、この峠を行き来した人々が、ここで休んだり、あるいはここで風雨を避けたこともあったかもしれない。石室の前に立つ二本のスギの木の下にも、石室に向かうようにして石が小さく組まれていた。その中には、「往来安全 弘化三丙午」(1864年)と彫りこまれた地蔵仏が立っていた。

竜ケ岳山頂

 峠からは、稜線を北にたどる。スギ・ヒノキの植林にコナラ・ソヨゴ・アカマツ・クリなどから成る自然林が混じる。樹間をぬって吹き上げてくる風は、しだいに強くなってきた。
 いくつかのピークを越えて、最後の小さなコルから少し上ると、霧がうっすらとかかった先の高みに竜ケ岳山頂の標柱が見えた。

 山頂は1本のモミの木と数本のクリの木を残して、西側が伐り開かれている。その西側斜面から、幹の曲がりくねったアセビの木々の上をガスがすべり上がってくる。ガスが濃くなってあたりが白くなったと思うと、また薄くなったりした。ガスが薄くなったとき、杉原川に沿った道路や田が眼下にぼんやりと見えた。

 木々のざわめきに満ちた竜ケ岳山頂を後にして、さらに北へ鳴尾山をめざした。尾根歩きは、下りに支尾根に迷い込みやすい。マップとコンパスを首っ引きにして、先に進んだ。赤くて丸い実をつけたミヤマシキミの葉をちぎって、気付けに嗅いだ。
 竜ケ岳から鳴尾山への中間点あたりのコルが鳥羽坂(とりまざか)。ここにも、蓮台に地蔵仏の載った坂道供養塔(文化7年庚午)が立っていた。

鳴尾山山頂

 鳥羽坂から大きく北へ上り返して、さらに稜線を進んだ。まだ幼いアセビの木々が囲む小さな伐り開きの中に鳴尾山山頂の三角点が埋まっていた。ツタやリョウブなどが赤や黄色に色づき始めている。風が吹くと、何本もの平行な斜線を描くようにして木々の葉が舞い降りた。

 鳴尾山からは、稜線を北西へたどり、舟坂峠から山寄上に下りる予定であった。しかし、北西方向から北東方向へ屈折するポイントを誤り、伐採されたスギの倒れる急斜面に迷い込んだ。下っても下っても谷底が見えない。道を間違えたのは明らかだったが、もう戻る気はしない。
 やっとの思いで下り立ったのは、舟坂峠への峠道の一つ南の谷であった。ここを下って、谷の合流点から舟坂峠へ再び上り返せばよいのだが、もうそんな気力は残っていなかった。反対の丹波側に下り、桜大池の堰堤に座り込んでタクシーを呼んだ。

 タクシーのフロントガラスを大粒の雨がたたく。水中にすんで、天に昇り、雲を呼んで雨を降らすという竜。雨の前に下りようと早く出かけたが、その竜の名前の付く山で大雨に遭ってみたいという気持ちも少なからずあった。が、しかし、反対側に下りてタクシーの中で雨に遭うとは……。

山行日:2002年10月6日

山 歩 き の 記 録

雲門寺(加美町清水)〜清水坂〜787m峰〜竜ケ岳(816.7m)〜678m峰〜鳥羽坂(Ca.590mコル)〜699m峰〜鳴尾山(753.2m)〜Ca.700m峰〜Ca.630m峰〜三方大池(桜大池)

桜大池 
 加美町清水の雲門寺の駐車場に車を止める。谷に沿って清水坂の手前まで伸びる林道を上る。この林道は、大きく曲がっているので、途中2ヶ所で植林の中をショートカットした。地形図の実線路が破線路に変わる地点が林道の終点。ここから、さらに山道を登ると清水坂に達した。この峠から南に進めば、大井戸山(794.2m)、篠ヶ峰(827.0m)。今回は、ここから稜線を北へ、竜ケ岳をめざした。
 竜ケ岳の山頂までの道ははっきりしているが、そこから先は不明瞭な部分も多い。678mピークはヤブにおおわれていたが、木々に間から行く手に鳴尾山、振り返れば竜ケ岳の姿を垣間見ることができた。
 鳥羽坂は、678mピークと699mピークの間のコル(Ca.590m)にある(地形図の峠道を示す破線は間違っている)。鳥羽坂から、699mの大きな高まりを越えて、鳴尾山へ。
 鳴尾山から舟坂峠のスタートは順調だった。進路の方向や上り下りが、地形図上の稜線とぴったり合っていた。しかし、606mピークの手前の高まりを、606mピークだと思い込んでしまった。北東方向への急斜面を下りに下って峠道の一つ南の谷に下り付いてしまった(地形図破線路の先端近く)。ここから、この谷を東に下って、桜大池(三方大池)の堰堤でタクシーを呼んだ。
   ■山頂の岩石■ 白亜紀  生野層群下部累層  流紋岩質凝灰岩

 竜ケ岳から鳴尾山にかけては、生野層群下部累層が分布している。尾根に露出する岩石は、全体的に風化による変質が著しい。竜ケ岳山頂の岩石は、黄褐色や帯青灰色を呈する変質の進んだ凝灰岩である。粘土鉱物化した斜長石の結晶を認めることができる。
 竜ケ岳山頂のすぐ下には、黒色の緻密な岩石の露出がある。表面には、流理構造と考えられる細かい縞模様が観察され、流紋岩と思われる。
 また、清水坂周辺には、花崗閃緑岩が分布している。主に石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・角閃石からなる中粒の花崗閃緑岩である。これは、大井戸山をつくる花崗閃緑岩体の一部で、周囲の生野層群中に貫入している。


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