リラクシアの森(900m)・暁晴山C(1077.2m)  神河町   25000図=「長谷」


雪の峰山高原、リラクシアの森と暁晴山

リラクシアの森

 連日、春のような暖かな天気が続いたのに、峰山高原はまだ雪におおわれていた。

1.リラクシアの森

 「リラクシアの森」の入り口には、「ノルウェイの森 撮影地710m先」の標識が立っていた。森の中の雪の深さは30cmほど。散策路も雪にかくされていたが、撮影地まで続く一筋の道だけは除雪されていた。
 雪は、朝の光をまばゆくはね返した。あたりは、葉を落として裸になったコナラやミズナラやアベマキの木。日当たりの良いところは、根元の雪が丸く開かれて、その下の土が顔を出していた。
 道は、残った雪が凍りついて、つるつると滑った。道から外れて雪原を歩くと、雪の表面は固くて靴はほとんど沈まない。一歩ごとに、ゴリッ、ゴリッと小気味いい音を立てた。
 森には緩やかな起伏があって、その中を水系が複雑に走っていた。谷には木橋が架かかっていた。二本目の木橋の下では、雪解け水が雪を割り、音を立てながら岩の間を流れていた。

森の雪解け

 散策路を北に進むと、やや深い谷にぶつかった。斜面には、大小の岩が雪の間から顔を出していた。氷期の周氷河作用によってできた貴重な地形、岩塊流である。
 峰山高原は、舌状に伸びる幾筋もの岩塊流によっておおわれている。岩塊は一部が地表に出ているが、地表から数m下には、大量の岩塊がうずもれている。水の流れが地面を掘り下げると、そんな岩塊がこのように表れる。
 谷の底に降りようと斜面を下ると、ひざまで雪を踏み抜いた。流れの端の地面には、数cmもの霜柱が湾曲しながら立っていた。

リラクシアの森の岩塊流

 雪原の中は、どこでも歩けた。道も木橋も小屋も見えなくなると、ふと自分がどこをどう歩いているのか分からなくなったような気がした。シカの足跡が、雪原を交差していた。

 除雪された道に戻り、ノルウェイの森のロケ地に向かった。
 リラクシアの森は、はじめ映画のロケ地になる予定はなかった。スタッフが宿泊地に近いここを案内すると、トラン監督はこの森の雰囲気が気に入り、大喜びで駆け回ったという。
 ここは、直子が療養のために暮らした阿美寮へ続く森という設定で撮影が行われた。除雪されているところを見ると、今年は冬でも観光客が訪れたのだろう。
 道は山際の深い谷にぶつかり、その谷に沿って東へ伸びていた。すると、四角いコンクリートブロックが一列に並べられた石畳にたどり着いた。映画では、たしかレイコさんが歩いていた道である。
 道の横に、「ノルウェイの森」の白くて大きな看板が置かれていた。除雪されているのはそこまでだった。

 岩塊流の位置や方向をマップに落としながら、さらに雪原を歩いた。岩塊流の形成された時期は、はさまれている火山灰層の特定によって最終氷期あることがわかっている。
 凍結破砕によって割れ落ちた岩石が、凍ったり融けたりしてゆるくなった表土の上を岩石自身の重みでずるずると移動し、山上の低いところに集まって筋のように連なった。
 これだけ岩塊流の形成時期や形成機構が明確になったのは、日本ではここが初めてで、世界でもまれである。
 ここで岩塊流を研究した田中眞吾氏は、この地を「神々の石庭」と名付けた。今日は、積雪によって岩塊流の多くが隠されていたが、雪原のあちこちに雪をかぶった岩が顔を出し、その名にふさわしい光景が森の中に広がっていた。 

「ノルウェイの森」ロケ地

2、暁晴山

 リラクシアの森を出て、暁晴山に向かった。
 広い車道の上には青空が広がり、その真ん中を飛行機雲が一本伸びていった。この道も、まだしっかり雪に覆われていた。う〜ん。スキーを持ってくるんだった。残念……。
 古い足跡や新しい足跡で、雪面はまだらに固く、ときどき踏み抜くために歩きにくい。

暁晴山

 グランドの上のゲートを越えたところに、1本のカシワが立っていた。葉をすっかり落とした木々の中で、このカシワだけが、ちりちりに枯れながらも茶色の葉をつけていた。
 しばらくスギの植林の間を進んだ。まだ大丈夫……。花粉は飛んでいないようだが、自然と早足になった。

三室山の上に広がる巻雲

 ホテルから40分ぐらいで、暁晴山の山頂に着いた。林立するアンテナがじゃまをするが、少し移動すると360度どの方向も見渡すことができる。
 黒尾山、日名倉山、那岐山、後山、植松山、沖ノ山、三室山、東山、赤谷山、氷ノ山、鉢伏山、藤無山、妙見山、須留ヶ峰、千町ヶ峰、段ヶ峰、平石山、千ヶ峰、飯森山、笠形山……、1000m級の山々がぐるりとスカイラインを引いている。
 眼下には、峰山高原が1037.9m峰や夜鷹山などの丘陵に囲まれて広がっていた。朝歩いたリラクシアの森は、峰山高原ホテルの北に、白い雪原が冬枯れの雑木におおわれていた。
 山頂の空気は澄んでいた。空を見上げると、いつの間にかぼやけた巻雲がうすく出ていた。

暁晴山山頂 山頂から峰山高原の地形を見る
山行日:2011年2月26日

峰山高原ホテル駐車場〜リラクシアの森〜暁晴山
 峰山高原ホテル・リラクシアで、リラクシアの森のマップをもらった。「ノルウェイの森」の撮影場所も、このマップに記されていた。
 暁晴山には、山頂まで続く車道を歩いた。下山は、峰山高原ホテルを目指して、斜面を真っ直ぐに下った。車道を横切ってから谷筋に入ったが、標高960m〜1000mにかけても岩塊流が見られた。

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