越知谷鉱山のろう石鉱床

 神河町越知に、「ろう石」を採掘している「越知谷鉱山」があります。山の中腹を露天掘りで切り崩したこの鉱山はふもとからもよく見えて、越知谷小学校あたりからは、越知川を隔てた南西方向に一望することができます。
 ろう石には、いくつかのタイプがありますが、越知谷鉱山のろう石はパイロフィライト(葉ろう石)を主体としています。ろう石は昔、駄菓子屋さんでも売られていて、子供たちがそれでアスファルトやコンクリートなどに落書きをして遊びました。
 ここで採掘されたろう石は、熱に強い性質を生かして耐火材などに利用されています。 

越知谷鉱山

 2012年の夏、福崎西中学校の夏季講座としてこの鉱山を訪れました。8月13日、尾上社長には、休日にも関わらず鉱山を下見させていただきました。また、8月21日の夏季講座当日には、11名の参加者を案内していただき、採掘現場や選鉱現場で説明していただきました。
 従業員の方々には休憩時間に入っているのに機械に電源を入れていただき、砕石や選鉱の作業を見せていただきました。尾上社長をはじめ鉱山のみなさま方に、心より感謝いたします。


1.越知谷鉱山

 越知谷鉱山は、明治の末期に開発されました。当時採掘されたろう石は、石筆や印材として利用されました。
 昭和10年頃より、耐火物原料として大々的に開発され、八幡製鉄所向けの耐火レンガメーカーに多く出荷されました。
 一時休山したこともありましたが、その後も稼行され続け、耐火レンガ・耐火モルタル・タイル・屋根瓦・製紙用クレー・水槽砂・陶磁器など幅広い用途に利用されてきました。
 現在、ここで産出されるろう石は、主に製鉄所で使われる耐火レンガに利用されています。この鉱山では、ろう石の他に陶石も採掘されています。陶石は、焼成して耐火レンガに使われたり、有田焼の原料になったりしています。

2.越知谷鉱山の陶石 

 鉱山事務所で尾上社長から説明を聞いたあと、ヘルメットをかぶっていよいよ出発です。
 ふもとの鉱山事務所を出発した2台の車は、山の急な斜面を上っていきました。鉱山内の施設の間を抜け、左へ大きく曲がってさらに上ると、ろう石の採掘現場がありました。ここはあとで見ることにして、車はさらに上を目ざします。

 さらに傾斜を増した道を上っていくと、一番上の採掘場に着きました。ここで採れるのは陶石です。崖を崩したり、地面を掘ったりして採掘された陶石が山のように積まれていました。

 陶石は白い岩石で、表面が少しガサガサしています。手で触ると白い粉が付き、なめてみると舌が岩に吸い付きました。これは、カオリン鉱物などの粘土鉱物が含まれているためです。
 ルーペではなかなか分かりませんが、この陶石は微細な石英や絹雲母やカオリン鉱物などの鉱物が集まってできています。

 生徒たちは、ハンマーを取り出して石に向かいました。にぎやかに、今日最初の鉱物採集に挑戦です。

陶石の採掘場 越知谷鉱山の陶石(横12cm)

 この採掘場の先に、消えかかった道がありました。その道を進み、少し下に回り込んだ所に坑口と壊れかかった作業小屋がありました。
 かつて、越知谷鉱山では坑内採掘も行われていました。しかし、岩盤にき裂が多く、落盤の危険があったので、現在はすべて露天掘りで採掘されています。
坑口跡

3.越知谷鉱山のろう石

 先ほど車から見たろう石の採掘場に下りていきました。目の前の岩盤はほとんど垂直に切り崩され、その下には大きな穴が開けられています。現在は、その穴の右手がろう石の主な採掘場になっています。
 そこは、地面に溝が掘られ、壁にろう石の鉱床が表れています。ろう石は、白色や緑色や灰色、あるいは紫色や赤紫色をしています。

ろう石の露頭 淡緑色のろう石(露頭)

 越知谷鉱山のろう石は、パイロフィラト(葉ろう石)を主体とし、ダイアスポア・カオリン鉱物・石英・明ばん石を伴っています。また、表面や割れ目に沿って赤鉄鉱や褐鉄鉱ができてます。
 透明感があって淡い緑色をした部分が品位の高いろう石です。さわってみると、表面がろうのようにすべすべしています。ろう石の中には、少量ですが黄鉄鉱の小さな結晶(1mm程度)が光っていました。

 軟らかくて、ろうのようにすべすべしているろう石を採ろうと、あちこち歩き回って採集しているとあっという間に時間が過ぎていきました。
 ろう石の中から、大きさが1cm近くあるような大きな黄鉄鉱を見つけた生徒もいました。

ろう石(左上の灰色のもので横9.5cm) ろう石の表面(約1.1cm)

4.越知谷鉱山の地質

 越知谷鉱山のろう石鉱床の母岩(もとの岩石)は、後期白亜紀の流紋岩や溶結火山礫凝灰岩です。

 流紋岩は、鉱山の下の方で見られます。ろう石化した岩の中にも、細い縞模様が残っているものがありました。この縞模様を流理構造と言いますが、これは流れ出たマグマが冷え固まるときに、マグマが流動した跡が残ったものであり、流紋岩によく見られるつくりです。
 溶結火山礫凝灰岩は、主に鉱山の上の方で見られます。これは火砕流でできた岩石で、まだ熱いうちに軽石が押しつぶされてレンズ状になった溶結構造が明瞭に観察できました。ろう石化した岩石中に、大きな火山岩塊が見られるところもありました。

 越知谷鉱山のろう石は、母岩が熱水変質を受けてできました。熱水変質とは、母岩がマグマから分離した水や、マグマによって熱せられた地下水と反応して変質することをいいます。このとき、母岩の成分が変わり新しい鉱物ができます。このようにしてできた鉱床を熱水交代鉱床といます。

 越知谷鉱山のろう石鉱床は、北西ー南東方向に延長約450m、幅50〜100m(最大150m)にわたって広がっています。

母岩の流紋岩の流理構造
を残すろう石
母岩の溶結火山礫凝灰岩(転石)

5越知谷鉱山の施設

 最後に、ろう石を砕いたり選鉱したりする鉱山の施設を見せていただきました。

 ダンプで運ばれてきたろう石は、ホッパーに投入されクラッシャーで砕かれます。そこからベルトコンベアで運ばれて水で洗われます。さらにそこから、ベルトコンベアに乗せられて選鉱所に運ばれていきます。
 選鉱は人の手によって行われています。作業員の方が、手際よく2級(主に白色と灰色のろう石)と3級(主に紫色のろう石)に分けるところを見せていただきました。
 現在、越知谷鉱山のろう石の生産量は、月500トンということです。

クラッシャー ベルトコンベアで運ばれる
水洗いされたろう石

 また、施設内には円筒形をした焼成炉(シャフトキルン)がありました。ろう石や陶石をコークスと共に焼くと、鉱物中の結晶水が飛んで収縮率が小さくなります。また、コークスによって還元され、ろう石や陶石の品質が上がるのです。焼かれた陶石の一部は、有田焼の原料として利用されます。

選鉱作業 焼成炉

 私たちの生活は、そのほとんどが地下資源を利用した物質によって成り立っています。

 日本は地下資源の多くを輸入に頼っていますが、ろう石は日本が世界最大級の生産国です。
 越知谷鉱山のろう石は、耐火レンガに加工されて製鉄業を支えています。陶石の一部は、有田焼の原料となっています。
 今回は、そのような私たちの生活を支えたり文化を創っている資源を今実際に地下から採掘している鉱山を見学させていただきました。

 参加した中学生は、ろう石鉱床の説明を聞いたり、鉱物を採集したり、作業工程を見せてもらったりする中で、鉱山の果たしている大きな役割や鉱山ではたらくことの大切さを感じ取ってくれたと思います。

参考文献
 上野三義・塚脇祐次・高橋博・岩生周一(1958)兵庫県氷上郡,神崎郡下の蝋石鉱床(明礬石鉱床を含む)調査報告.地調月報,vol.9,p.263-284.
 吉川敏之・栗本史雄・青木正博(2005)「生野」地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図福).総産研地質調査総合センター,48p.
 越知谷鉱山作成 「越知谷鉱山の現況」


■岩石地質■ ろう石鉱床
         (母岩は、後期白亜紀 大河内層 流紋岩
                    及び 生野層 溶結火山礫凝灰岩)
          ※地層名は、吉川他(2005)による
■ 場 所 ■ 神崎郡神河町越知 25000図=「生野」
■探訪日時■ 2012年8月13日・21日