沼島の街歩きと結晶片岩
  (南あわじ市沼島)

 淡路島の南、約4kmの沖合に浮かぶ沼島(ぬしま)は周囲10kmほどの島です。沼島は兵庫県では唯一、中央構造線の南側に位置し、島全体が「三波川変成帯」の結晶片岩でできています。
 「おのころクルーズ」で島の周囲をぐるりと巡ったあと、沼島の街を歩き上立神岩まで足を延ばしました。街の中では、島の結晶片岩が石垣や庭石などいろいろなものに利用されていました。

展望台から見る上立神岩
 

1.弁財天神社の石垣

 沼島ターミナルセンターからのスタートです。寺社を巡りながら街を歩き、おのころ神社に参ったあと上立神岩へ向かいました。

歩いたコース
 
 弁財天神社は、海の守り神であり「弁天さん」と呼ばれて親しまれています。
 周囲の石垣は島の結晶片岩で組まれ、神社の案内板には「この場所にて主な沼島の岩石をほぼ知ることがで出来ます」と書かれています。
 石段を登って境内に上がってみると、結晶片岩の玉砂利が敷き詰められています。緑やオレンジや白やピンクと色々な色が混じり、小さな白雲母が太陽の光をキラキラと反射していました。

弁財天神社の石垣 弁財天神社境内の玉砂利

 結晶片岩は、片理の方向に平たく割れる性質があります。平たく割れ、波によってきれいに磨かれた海岸の石が階段脇のコンクリートに貼り付けられていました。

弁財天神社の階段脇の石垣
 
 1.石英片岩
   白色。片理はあまり発達していない。表面は、褐色にさびている。
 2.砂質片岩
   銀白色。銀色のきらめきは白雲母。
 3.泥質片岩
   暗灰色。石墨が含まれ全体が黒っぽい。銀色のきらめきは白雲母。片理が発達している。
 4.点紋緑色片岩
   表面に白い斑点が目立つ。これは、変成作用でできた曹長石の結晶(斑状変晶)。
 5.緑色片岩
   変成度が弱く、曹長石の斑状変晶は見られない。
 6.紅れん石片岩
   紅れん石が含まれ美しいピンク色。片理が発達している。銀色に光る白雲母も多く入っている。ただし、最近の研究によって、三波川変成帯の紅れん石と呼ばれているものはFe>Mnであり、Mnをふくむ緑れん石であることがわかった。
 7.点紋緑色片岩
   4より曹長石の斑状変晶がやや小さい。

2.街歩きと「おのころ神社」へ
 
 弁財天神社から、蓮光寺、神宮寺、沼島八幡神社と巡りました。これらの寺社にも、沼島の石が使われていました。
 集落を見下ろす沼島城跡に建っているのが蓮光寺です。山門手前の敷石に結晶片岩が使われています。
 神宮寺境内の庭石が結晶片岩です。本堂裏の枯山水庭園には、結晶片岩が独創的に組まれた築山があるそうです。
 沼島八幡神社の石段は花崗岩、石段途中に建つ神門の下の敷石は砂岩です。境内の玉砂利に結晶片岩が使われていました。神社の周囲はスダジイやタブノキの茂るうっそうとした樹林帯で、神域として大切に守られてきました。社殿の脇からこの森に入る道があって、そこに結晶片岩の石段が設けられていました。

蓮光寺への道 神宮寺境内の庭石
沼島八幡神社  沼島八幡神社から森へ入る道

 民家の中を歩くと、いろいろなところで結晶片岩が使われていました。家の基礎や門柱、石塀、植木鉢を置くための石台などです。
 海の近くの道に、砂質片岩の露頭がありました。

民家の門柱 沼島中学校の門柱
石塀 砂質片岩の露頭
 八角井戸と梶原五輪塔を見たあと、おのころ神社に向かいました。渓流に沿った細い道を登っていきます。道の石垣にも結晶片岩が使われています。紅れん石片岩もいくつか見られました。
 長い石段の下にたどり着きました。104段を数えながら石段を登り切ると簡素な社殿が建っていました。
 おのころ神社は、国生み神話のイザナキ・イザナミの二神が祀られています。社殿には、雲(天の浮橋)に乗って下界を見下ろす二神の絵馬が飾られていました。イザナキの手には沼矛(ぬぼこ)、イザナミは手を下界にさしのべていて、どちらも可愛いく描かれています。
 もともとは山自体が御神体であり、「おのころさん」と呼ばれています。神社の裏の林の中に、イザナキ・イザナミ像が立っていました。像の前の踏み石は沼島の形です。
 
おのころ神社への道 イザナキ・イザナミ像

3.上立神岩へ

 最後に、上立神岩をめざしました。集落を抜け、沼島小学校・中学校を過ぎてゆるい坂道を登っていくと虹色ベンチのある展望所に達します。ここで、目の前に青い海が大きく開けました。
 ここから急坂を下っていきます。二度大きく曲がると正面にアミダバエ、その左の海面からは平バエが顔を出しています。
 振り返ると、上立神岩が青い海から水色の空に向かって鋭く突き出ていました。高さ約30mの石の塔です。

平バエ(左)とアミダバエ(右)

 古事記に描かれた国生み神話では、イザナキとイザナミの二神が天の浮橋に立って、「天の沼矛」を下界の海水に下ろしてかき混ぜると、矛から垂れた滴がかたまって「おのころ島」が誕生します。二神はその島に降りたち「天の御柱」の周りを回り、夫婦の契りを結んで国生みをしました。
 上立神岩は、「天の沼矛」にも「天の御柱」にもたとえられて信仰されています。

上立神岩

 海岸には、崖から崩落した大小の岩が重なっています。片理の発達した泥質片岩で、片理面には線構造が明瞭です。
 砂質片岩は石墨をふくんでいて全体的に黒っぽく見えます。きらきらと小さく光るのは白雲母や黒雲母。石英が多く白っぽい層と、石英が少なく黒っぽい層が細かい縞模様をつくっています。

 沼島には三波川変成帯の結晶片岩が分布しています。この砂質片岩も結晶片岩のひとつで、砂岩がプレートの沈み込みによって地下深くへと引きずり込まれて低温高圧型の変成作用を受けてできたものです。

泥質片岩(片理面上の線構造) 泥質片岩の褶曲

 上立神岩は周辺の岩石とはちがって、緑色をしています。ハートの形にえぐれたところが、この岩石をいちばんよく観察できます。この緑色の岩石は、おもにトレモラ閃石(透閃石)が集まってできたトレモラ閃石岩でできています(Maekawaほか 2004)。
 このトレモラ閃石岩は、泥質岩に取り込まれた蛇紋岩が泥質岩との交代作用よってできたものです。このような蛇紋岩と泥質岩の混合は、沈み込んだプレートがマントルウェッジの蛇紋岩化したかんらん岩をはぎ取って起こると考えられています(Maekawaほか 2004)。
 上立神岩に向かった陸側の露頭で、泥質片岩にはさまれたトレモラ閃石岩が見られました。緑灰色で薄く脈状に入り、泥質片岩とともに褶曲しています。

上立神岩中心部のハートマーク
(上立神岩は緑色のトレモラ閃石岩でできている)
泥質片岩にはさまれたトレモラ閃石岩
(赤矢印がトレモラ閃石岩で脈状に入る)

 帰りに、虹色ベンチの休憩所の上にある展望所にも登ってみました。ここからは、上立神岩を見下ろすことができます。上立神岩の左には、おのころクルーズで船が岩の間を通った岩礁が見えました。
 先ほどから空を舞っていたミサゴの一羽が、岩のてっぺんに止まりました。
 上立神岩からの帰り道で多くの観光客にすれちがいました。上立神岩の💛が恋愛成就のパワースポットになっていると「おのころクルーズ」で聞いたことを思い出しました。

上立神岩に止まるミサゴ

 この日の3日前に梅雨が明け、蒸し暑い一日でした。橋本商店で買ったアイスを弁財天神社の石段に腰かけて食べ、この日の旅が終わりました。

引用・参考文献
  前川寛和(2024)沼島のさや状褶曲,HP「青石三昧」https://bluestone27.com/
  Maekawa H.,Yamamoto K.,Ueno T.,Osada Y.,Nogami N.(2004)Significance of serpentinites and related rocks in the high-pressure metamorphic terranes,Circum-Pacific regions.International Geology Reviewkonn,46,p.426-444


■岩石地質■ 後期白亜紀 三波川変成帯 結晶片岩
■ 場 所 ■ 南あわじ市沼島
■探訪日時■ 2025年6月30日