西山(点名)(667.0m)    朝来市               25000図=「但馬新井」

雪に立つ冬のカシワ

西 山

 カシワは冬でも葉を落とさない。茶色に枯れた葉を下に向け、たとえ雪がその上に降り積もってもじっとそのままがまんをしている。
 冬、雪の上に立つカシワを見ると坂本直行氏の絵が思い浮かぶ。北海道の真っ白な雪原に、茶色の葉をつけて立ち並ぶカシワの絵が……。冷たい風景のなかで、カシワの木の周りだけがほんのりと暖かい。
 長い冬、厳しく報われない農作業、明日の生活もできないほど貧しさ……。吹雪のなかでも葉を落とさずにたくましく立つカシワの木に、坂本氏は春への希望、将来への希望をわずかに感じていたのかもしれない。

 北海道の大雪原とカシワの樹林に、規模は比べるべくもないが、但馬の西山にはそれを思い出させる風景があった。

西山東尾根よりトンガリ山を望む 西山山頂へのスロープ

 西山(点名)は、田路川と神子畑川が円山川に流れ込むところに、その2つの支流にはさまれて立っている。

 西山東尾根の起点にあたる羽渕の一宮神社からスタートした。
 歩き出してすぐに、そこがイノシシの防御柵に囲まれていることを知った。頑強な柵であったが、一箇所でスギの倒木がその柵を半ば押しつぶしていた。神社でせっかくはいたスノーシューをはずし、ザックとポールと共に柵の向こうに投げ込んで、その倒れたスギを乗り越えて柵の向こうに立った。
 スギ・ヒノキの植林の下、真っ白い雪の急斜面を上った。
 植林帯を抜けて雑木林に入ったところで、立ち止まって休んだ。下から車の音が聞こえてくるが、もうここは誰も入り込まない下界とは隔絶された世界である。
 雪面に木漏れ日が揺れている。シジュウカラの小さな群れが枯れたアベマキの枝を遊びながら渡っていった。その枝の上には、青い空が見えた。但馬の冬には、数少ない穏やかな好天の日だった。
 岩石ハンマーは、車に残してきた。今日は鳥でも見ようかと、ザックから取り出した双眼鏡を首にかけて、再び歩き出した。
 木立の間から、右にきれいな円錐形の山が二つ見えた。左前方には、雪をまとったトンガリ山がその鋭鋒を空に突き立てていた。
 今日最初のピーク、398mピークの下を二頭のシカが駆け抜けた。

西山東肩付近から北を望む 雪の樹林

 398mピークは、コナラ・アベマキ・アカマツなどに囲まれた小さな峰だった。行く手に、三方からの尾根が合流する西山の東肩(Ca.590m)が大きな山塊として迫って見えた。
 雪の浅い斜面では、雪がササの上ですべって足を何度かとられた。しかし、斜面が緩くなったところでは、雪の下のササが雪とともにクッションとなった。いくつかの小さなピークを超えて進んだ。
 東肩手前のコル(Ca.420m)から尾根の北側は伐採地で、斜面には白い雪原が広がっていた。尾根の南側からは、カシワの木が立ち並んで張り出し、伐採地にもポツンポツンと残されていた。
 雑木と伐採地の境界に沿って上っていった。雪はまだ柔らかく、ひざまで沈むスノーシューを一歩一歩引き上げながら進んだ。何度も立ち止まり、息を整えてまた進んだ。
 朝来インターのループになった道路がすぐ右下に見えた。岩が積み重なったところを超えると東肩に達した。
 ここは、北への展望が開けていた。竹田城址や朝来山にはさまれて、円山川に沿った沖積平野が広くなったり狭くなったりしながら北へ続いている。その平野の先を、中腹に霧を巻いた室尾山がふさぎ、その上には西床尾山が雪をまとって気高く立っていた。そして、その西床尾山から右には、鉄鈷山、東里ケ岳、郷路岳と東但馬の高峰が並んでいた。

山頂に立つカシワ

 東肩からしばらくは、傾斜のほとんどない尾根をスギやヒノキの木立を縫って進んだ。
 尾根の南側は、数段の細長い平坦地となっていた。雪に覆われてはっきりしないが、人工的にならされているのかもしれない。
 枝先の雪が解け落ちているせいだろうか、ポロン、コロンと乾いた木の音が林間に響いた。
 山頂までまだ長かった。倒木が多くなり、その上を越したり、回り込んだりしなければならなかった。最後の急な坂を上り詰めて、大きなスギの倒木を回り込んだところが山頂だった。

 こんもりと丸い雪の頂には、二本の幼いシロダモの下に、三角点標石の位置を示す白い杭が頭だけをわずかに出していた。
 午後の陽射しに木の上の雪が解け、バラバラと音をたてた。ときどき、雪のかたまりがドッサと落ちた。
 展望はあまり開けていないが、木立の間からのっぺりした山容の奥段ケ峰とその右に立つ笠杉山が見えた。
 あたりは、シロダモ、イヌガヤ、アカマツなどの雑木に囲まれている。そのなかに、数本のカシワが、縦に深い溝を刻んだ太くてたくましい幹で立っていた。カシワの大きな茶色の葉は、一部が破れ、しわがれながらも枝にしっかりついていた。その葉を分けてみると、枝先には褐色の堅い冬芽がついていた。


山行日:2006年1月9日
行き:一宮神社(羽渕)〜398mピーク〜Ca.400mピーク〜Ca.440mピーク〜Ca.590mピーク〜西山山頂(667.0m)
帰り:行きと同じ
 朝来市羽渕の山口小学校横の駐車スペースに車を止め、南に数10m歩くと一宮神社(地形図神社記号)があった。ここから山に入って、そのまま東尾根を進み西山山頂に達した。
■山頂の岩石■ 

 積雪のため、今回は観察しなかった。

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