なぎビカリアミュージアム 岡山県奈義町 1600万年前の本物の化石が採集できる化石博物館
中国山地の高峰、那岐山の南麓に広がる緑豊かな町、奈義町。ここには、約1600万年前の巻貝「ビカリア」や二枚貝などの化石が数多く産出する。「なぎビカリアミュージアム」は、採集された化石を保護・展示し、自然科学を親しむ施設として、この地にオープンした。
建物は、巻貝をイメージした屋内展示場の上に、二枚貝をイメージした大屋根が重なる特徴あるつくり。大屋根の下では、化石の埋まった地層が自然のままの状態で観察できる。そして、施設前の裸地では本物の化石を採集することができるのである。
訪れた日はあいにくの雨で、他に見学者はいなかったが、子供から大人まで目を輝かせて化石を探している光景が目に浮かぶようであった。
なぎビカリアミュージアム ヤマトビカリア(展示標本)
ビカリア
とんがり帽子にいぼいぼの螺旋(らせん)階段……ビカリアの魅力的な姿である。
ヤマトビカリア(展示標本)
ビカリアは現在のウミニナの仲間で、すでに絶滅した巻貝である。大型で塔状、螺層には下層より6〜8層にとげ状突起をもつ。この突起は、殻の縦軸から水平にのびている。殻口は半円形で、外唇には深い湾入がある。
貝殻の内部がメノウやオパールあるいは方解石に置き換わった美しいものは、江戸時代から「月のおさがり」と呼ばれてきた。おさがりとは糞(ふん)のことで、昔の人はこれを月の糞だと考えたのである。
ビカリアは、古第三紀始新世に出現し、新第三紀中新世まで生息したが、日本では中新世の1600万〜1500万年前ころに堆積した地層だけに見られる。そのころの日本列島は、今よりもずっと暖かく、熱帯〜亜熱帯の気候であった。
屋内展示ホール
屋内展示ホールの中央には、1600万年前の「海だった頃の奈義町」がジオラマで再現されている。
室内展示ホール
その頃の奈義町は、マングローブの生い茂る干潟に、多くの貝類やカニなどが生息していた。
展示コーナーには、約30種・300点の貝類などの化石が展示されている。当地で産出した化石であり、採集者の欄には小学生の名が記されているものもある。
展示されているのは、ヤマトビカリア・ビカリエラ・キイキリガイダマシ・トクナリヘタナリなどの巻貝、サクラガイなどの二枚貝、サンドパイプ(カニの巣穴跡)、クジラの脊椎骨などである。
脊椎骨の発見されたクジラは、骨の大きさや形から、現生のアカボウクジラの仲間と推定されている。
キイキリガイダマシ ビカリエラ クジラの脊椎骨 サンドパイプ
屋外展示エリア
屋外展示エリア ヤマトビカリアの産状(屋外展示エリア)
大屋根の下、屋外展示エリアでは、地層の断面に埋まったままの化石が見学できる。もろい黒色の泥岩に、ヤマトビカリア・ビカリエラ・サクラガイなどの貝類が高い密度で含まれている。すごい!こんな状態の崖で、化石を掘り出すことができたら……。
ビカリアのいた海辺
ビカリアは、熱帯〜亜熱帯の海辺に生息する巻貝である。それでは、1600万年〜1500万年前の日本は、そのような気候下にあったのだろうか。
1600万年前ころの中国地方(展示解説パネル)
1600万年〜1500万年前(前期中新世末〜中期中新世初)は、日本海が誕生し、日本が大陸から離れて列島となった頃である。中国地方から北陸地方にかけてのこの時代の地層からは、オヒルギやヤエヤマヒルギなどの花粉化石や、ヒルギシジミやセンニンガイなどの熱帯地方に生息する貝化石が産出している。日本は、熱帯や亜熱帯の気候だったのである。
奈義町には、勝田層群と呼ばれている地層が分布している。これは、約1600万年前の海進によって生まれた津山海という内海に堆積した地層である。ビカリアは、勝田層群の中位にあたる吉野層の泥岩中から数多く産出している。
化石発掘体験
このミュージアムの最大のポイントは、建物のすぐ前の裸地で化石の採集ができることである。ここには、近くの地層から削り取られた岩屑が運び込まれている。珍しい化石や保存の良い化石を発掘すれば、ミュージアムに展示してもらうことだってできる。ハンマーは、ミュージアムが貸してくれる。
残念ながら、訪れた日はどしゃ降りの雨。しかし、たまたま軒下に石くずの積んであった一輪車があったので、この石くずの中から化石を探させてもらった。ビカリア(部分)やトクナリヘタナリ、カキなどを発見。二人の大人が、手を真っ黒にして夢中で石くずを掘り返した。
天気のいい日に、是非また来よう。
■ 場 所 ■ 岡山県勝田郡奈義町柿1875 TEL 0868ー36−3977
(中国自動車道美作インターから北へ15分)
■ 開 館 ■ 9:00〜17:00(入館16:30まで)
■ 休 館 ■ 毎週月曜および祝日の翌日・年末年始
■ 入館料 ■ 小学生未満 無料
小学・中学生 150円
高校生以上 300円
化石発掘体験は、さらに200円必要
■ 探訪日 ■ 2003年2月22日