明 神 山 (667.9m)      夢前町                      25000図=「前之庄」「寺前」 
神元神社から小明神を経て明神山へ

菰生(こうも)より望む明神山 山頂から紅葉を見る

 周囲の山々から遠く見下ろす明神山は、その脇腹に小明神を従えた姿も愛らしく、山座同定の良い指標となる。しかし、前之庄あたりから見上げると、山頂部から幾本もの深い谷が山麓へ走り、朝日を斜めから浴びたときなどはそれらが濃い陰影をつくって、たくましく目の前に迫ってくる。
 明神山は古くから人々の注目を浴びてきた山であり、『地志播磨鑑(1762年)』には「明神ケ嶽」として「此山播州にて高山也 往来の旅人は馬上よりかえり見、運送の旅人は沖津船より是を望む」とある。また、さらに遡っては、『播磨国風土記(715年頃)』の「幣丘(まひのおか)」に比定されたりもしている。

549mピーク
 
小明神山頂

 この山を初めて目にしたときは、地形図にも道がなく、どうやって登ればよいのだろうと考えたものだった。近年、夢前町によって何本もの登山道がつけられ、道標も整備されて誰でも気軽に登れるようになった。
 今回は、神種の神元神社から谷を北上し、小明神を経て山頂に達するコースを歩いてみた。

 神社から、広い作業道が谷を北へ伸びていた。道の脇には、フユイチゴが赤い実をつけている。堰によってつくられた明神池の畔を歩き、その奥の小さな池の上へ出た。数台の車が止まっていて、地元のハンターとマツタケ狩りの人がここから山に入っていた。
 
広い道は沢に沿ってもうしばらく続き、次の二股で終わった。ここからは、左手の沢に沿って細いが明瞭な山道がついていた。道のガレ石の上にはスギの枯れ葉が降り積もり、それが適度なクッションとなった。
 道はしだいに傾斜を増していった。やがて、道は小明神へまっすぐに駆け上がるこの谷から離れ、大きく右へ折れて斜面を上っていった。道標はないが、木の幹に塗られた赤いペンキが導いてくれた。
 小さな支尾根を越すと、自然林の中に入った。夏緑樹の紅葉はもうずいぶんと進んでいる。その中に、アラカシやカクレミノの常緑樹の葉の緑が鮮やかであった。等高線に沿うようにしてほとんど水平に進むと、初めの谷のひとつ東の谷に下りついた。


 谷底にはガレ石が積み重なり、左右の斜面もガレ石におおわれている。今から約7000万年前の火砕流でできたこの岩石には、砂岩・頁岩・流紋岩などの多くの岩片が含まれ、そのせいもあって表面が凸凹している。
 移動距離が短いのに角が丸みをおびているのは、この岩石のもろさを物語っている。明神山は、その山体のほとんどが、この厚く堆積した火砕岩でできている。
 単独峰のような整った明神山の姿は、長年の風化・侵食によって周囲の岩石が削り取られてできたものであるが、このもろい岩石の性質が山の形成に大きく関係している。

 道は、再びスギ林に入り、浅くなった谷を上へと続いていた。沢の水はしだいに減って、コケにおおわれた石の間や下を、チョロチョロと小さな音を立てて流れるだけとなった。
 急坂を細かく折れ曲がりながら上って達した稜線は、小明神(612m)と549mピークとの間のコルのすぐ近くであった。

 549mピークに寄ってみた。そこは、コナラ・イヌシデ・リョウブ・クリなどの紅葉が美しく、それらの葉が北西の風にざわざわと音を立て、一枚二枚と舞い落ちた。
 先ほどのコルへ下り、小明神をめざして上り返した。小明神の小さな頂は新しい落ち葉におおわれ、木々の枝葉を透かして射し込む陽の光が、その落ち葉の上でゆらゆらと揺れていた。



写真左:明神山山頂
写真右:山頂より見る七種山塊(左が七種山、中央右寄りの鋭鋒が薬師峯)

 小明神から少し下り、尾根に飛び出した大きな岩を縫うようにして上ると、明神山山頂へ達した。三段ほどの平坦面からなる山頂は、大きく伐り開かれ、岩の上や人工的につくられた段に10人程の登山者が思い思いに休んでいた。

 カメラのシャッターを切ってあげたお礼だろうか、もらったミニトマトを口にして、私も空いている岩に腰掛けた。
 辺りの山々は、どこも霞んで見えた。七種山から薬師峯への稜線が東に近いが、湿った空気と午後の順光は、山襞を白くぼやけさせた。北に見える雪彦山の上には積雲が並び、そこからちぎれた片積雲が明神山の上空をゆるやかに流れていった。

岩屋池より明神山を振り返る


山行日:2003年11月16日
山 歩 き の 記 録

行き(小明神コース):神種神元神社〜明神池〜 Ca.160m池〜 Ca.190m二股〜 Ca.530mコル〜549mピーク〜Ca.530mコル〜小明神(612m)〜明神山山頂(667.9m)
帰り(Bコース):明神山山頂〜莇野コース分岐〜Aコース分岐〜滑滝分岐〜観音滝入口〜岩屋池〜神元神社

 明神山は、夢前町の「夢やかた」を基点とするコースが4本、莇野神元神社からのコースが1本整備されている。今回は、神種集落の最奥にある神種神元神社から「小明神コース(Dコース)」を上り、山頂からは「Bコース」を下った。

 神元神社から谷を北上する「小明神コース」は、明神池を過ぎてCa.190mの二股まで広い道がついている。ここから細い山道となる。標識はないが、杉の幹に塗られた赤いペンキがコースを示してくれる。Ca.530mコルで主稜線に出て、そこから小明神を経て明神山山頂に達した。

 帰りに下った「Bコース」は、もっとも一般的なコースである。途中の150mに及ぶ滑滝、ふもとの観音滝が見所である。

   ■山頂の岩石■ 白亜紀 七種山層  流紋岩質火山礫凝灰岩   

流紋岩質火山礫凝灰岩の表面(横約20cm)
黒色頁岩や流紋岩(ピンク〜赤褐色)などの岩片を多く含んでいる
(岩屋池近くの露頭)
 明神山には、白亜紀後期の七種山層(山元 他 2000)に属する流紋岩質の凝灰岩・火山礫凝灰岩・凝灰角礫岩が分布している。これらは、火砕流によってできた岩石(火砕岩)であり、火山噴火によって噴出した火山灰や火山礫などが、周囲にあった基盤の岩石や先に固まった同質の岩石を巻き込みながら堆積し固まったものである。

 含まれる岩片の種類は、流紋岩・頁岩・砂岩・チャートなどであり、岩片の大きさはふもとで大きく山頂部で小さい傾向がある。

 明神山の山頂で採集した岩石は、淡緑色の火山礫を含む帯緑淡褐色火山礫凝灰岩である。1〜2mm程度の長石・石英、それよりも小さな黒雲母の結晶片を含んでいる。異質岩片として、黒色頁岩・黒色砂岩・褐色砂岩・チャートなどを含み、その大きさは、大きいもので5cm程度であり、5mm以下のものが多い。

 白亜紀後期には、播磨の各地でカルデラの形成を伴う激しい火山活動が起こった。この七種山層は、東の七種山山塊から明神山にかけて広く分布し、カルデラ形成期の堆積物と考えられている(山元 他 2000)。同じ七種山層であっても、薬師峯あたりの岩石が強く溶結し板状節理も発達しているのに対して、明神山の岩石は非溶結で塊状である。

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