三 室 山(1358.0m) 千草町・波賀町・鳥取県・若桜町 25000図=「西河内」
風紋広がる白き山頂、三室山
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| 後山より望む三室山(2003.2.28) |
山頂の丸く白い高まりにあと数mと迫ったその時、ちょうど真正面に氷ノ山の雄姿が現れた。雪との長い格闘の、劇的ともいえる終末であった。
山頂の雪面には風紋が広がり、「三室山」と緑色で描かれた標識が頭だけその上に出ていた。後山から稜線の続く駒の尾の白い山頂。陰影深く刻まれた扇山。氷ノ山の白く光る尾根の下には、木版画に彫り込まれたように谷が深く複雑に入り組んでいる。遠くには、薄く薄く伯耆大山が浮かび、その上からぼやけた巻雲がこちらに向かって大きく放射状に広がっていた。
私は、朝の脱輪の憂き目も忘れ、下山時の尻すべりで愛用の岩石ハンマーをなくすこともまだ知らず、山頂にぼんやりと立っていた。
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| 三室山山頂と氷ノ山 |
巻 雲 |
兵庫第2の高峰、三室山。この日の朝、車の脱輪によってずい分時間を(お金も……)ロスしてしまい、「三室の滝」(燗鍋(かなべ)滝)の前に立ったときには、もう日が高く上っていた。
三室の滝……雪解けの水は、方状節理の表われた花崗岩の岩盤を、三筋のウォータージェットとなって勢いよく流れ下っていた。真中の水の流れが特に速く、岩盤の溝を加速しながら流れ、滝下の岩にぶつかって大きく跳ね上がる。岩と水の巧みな演出に、早く山に入らなければと気持ちはあせりながらも、しばらく足を止めてしまった。
三室の滝
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滝の右が、三室高原の入口。雪に閉ざされた野営施設の間を上ると、そのまま山道につながった。スギの倒木で荒れた道ではあるが、雪がそれをならしてくれていた。
道の左には、大きな石がゴロゴロと長く連なっている。これは、「岩塊流」といって、氷期の寒冷気候下に形成された周氷河作用のひとつである。三室高原は、全体がこの岩塊流でできている。高原というと、山頂部やその付近の広い平原を連想するが、三室高原は岩塊流によって埋められ平らになった谷底の長細い斜面なのである。
水源地で左からの広い道と合流した。ここから道は狭くなり、傾斜もしだいに増してきた。あたりはスギ・ヒノキの植林。気温が上がってきたのか、枝葉に積もった雪が融けて、ボタボタと落ちてくる。
道は、沢に沿って続いていた。途中から、先行者のトレイルは難しいところを避けて、沢の左斜面を巻き上がりながら進んでいた。
大きなヤマザクラの立つ地点で、道は沢を離れ、左手の斜面を上っていった。しばらくなだらかに上り、斜面に張り付くように露出する大岩の左を巻いたあたりから急傾斜となった。単調なきつい上りが続いた。地形がどうもはっきりしない。しかし、このときはもう、地形図やコンパスを見るよりも、ただトレイルだけを追っていた。
やがて、スギ・ヒノキが切れて、ブナやミズナラが現れた。そして、初めて三室山山頂方向が望める位置に出て、ようやく南西尾根にいることが分かった。
尾根の上には、岩塊流になれなかった大岩がいくつも雪をかぶっていた。それらの岩を縫うように上っていくと、道は険しくなりクサリ場も現れた。スノーシューをはいたまま、そのクサリ場を危なっかしく越えると山頂手前のたおやかな雪原に出た。
まばらに立つブナの木を透かして、山頂の丸い高みがすぐそこに見える。風紋の広がる雪面を、冷たい南風に押されるようにして、山頂へ向かって歩いていった。
三室山山頂へ
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山行日:2004年2月28日