三 川 山 (887.8m) 香美町 25000図=「神鍋山」
花と修験の山に、若葉が萌える
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| 三川より望む三川山 |
三川権現、護摩供養の朝
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権現橋を渡り、出店の並ぶ参道を進むと、三川権現の境内はもう参詣者でにぎわっていた。
三川権現は、古来より山岳修験の行場として栄えた日本三大権現の一つで、今日5月3日は年一度の大祭で護摩供養が行われる。境内の中央にヒノキの葉でおおわれた護摩木が高く積み上げられている。今日は、全国各地から山伏や行者が集まり、地域の人々は願いを込めた小木を護摩木の炎の中に投げ入れるという。
護摩供養の始まる10時半までには、まだ時間があった。線香の香が漂い、荘厳な音楽の流れる三川権現を後にして、古霊場の山、三川山に向かった。
シャガの花の咲く道を進むと、すぐ大きな砂防堤が立ち塞がっていた。右手の階段を上り、砂防堤の上に出ると河原が広がっていた。河原に下りて、飛び石を渡って右岸に出ると草むらの中に細い登山道がついていた。
木々の下の草地には、ニリンソウが咲きエンレイソウが黒紫の花をつけていた。大学のキャンパスの原生林に咲き、寮歌に歌ったエンレイソウは、シロバナノエンレイソウだった。花の色は違うが、エンレイソウの姿とその名は今もなつかしく、私の気持ちをひと時、青春時代に戻してくれた。
シャクナゲの花
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すぐに現れた分岐を左へとり、「シャクナゲコース」に分け入った。はじめからブナの木が立っていた。古く風格のある大樹である。若葉を手にとってみると、柔らかさの残る葉の表にはまだ毛が生えていた。シラカシ、トチノキ、カクレミノ、マルバマンサク……もう深い森の中である。
そして、岩がちの尾根にシャクナゲが現れた。花の盛りは少し過ぎているのかもしれない。7裂する花弁の花は枝先に多数集まり、ふっくらとして柔らかく咲いていた。
シャクナゲの花は、ずっと続いていた。道は、そのシャクナゲを縫うように上っている。
上る程に、尾根は狭くなり、両側の谷は深くなった。時々、三川権現の参詣者の突く鐘の音が遠くで響いた。護摩供養が、そろそろ始まる時間なのかもしれない。
途中から、道は尾根を離れ、尾根の東斜面をトラバースするように伸びていた。緑の中を、ゆるく上っていく。木漏れ日が、低い木の若い緑を鮮やかに浮かび上がらせていた。
アオダモに小さな花が群れ咲き、白いベールを幾重もかぶっているかのようだった。
足元には、オオイワカガミが咲いていた。
斜面に立つマルバマンサクもネジキもクロモジもそしてブナも、どの木もみんな根元が下に曲がっている。長い冬の雪の重みにじっと耐えてきた姿である。
よほどゆっくり上っているのに、人に追いついた。声をかけてみると、カタクリの自生地の調査をしているのだという。視線の先には、カタクリの葉があった。あたりを見ると、ぽつんぽつんとカタクリが生えている。教えてもらって、初めて気がついた。カタクリは、業者などに持ち去られて自生地が消えることもあるそうである。三川山のこの消えそうなか細い道が、カタクリを守っているのかも知れない。
ここにもエンレイソウが咲いていた。クジャクシダを教えてもらった。
道が、左から上ってくる渓谷に近づいた標高520m程の地点で、カタクリは姿を消した。ここで、カタクリの調査を終えたその人と別れた。
道は、渓谷に下りる寸前のところで方向を変えて斜面を急角度で上っていた。ブナを縫って上っていく。大きなトチノキが立っていた。クロモジの幼樹から、かすかな香りが漂ってきた。斜面の上あたりには、まだ小さな雪渓が残っていた。急斜面をつづらに上って尾根に達した。
尾根を進んだ。あたりは、ほとんどブナの純林である。ときどき思い出したように、シャクナゲが咲いている。ユズリハは、枝の一番上の葉が開き始めていた。上るほどに、その開き方が小さくなっていくのがおもしろかった。
ガマズミやオオカメノキの白い花は、振り返って下を見たときに鮮やかに目に飛び込んだ。ここにも、オオイワカガミが咲いていた。
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| アオダモの花 |
ブナの森 |
やがて道は、雪渓の中に埋もれていった。見当をつけて雪渓の上を進む。
雪渓の出口は、スギの植林帯であった。落ちた杉の枝葉が、道を隠している。
山頂が近くなって傾斜が緩くなった。スギの木の中を何度か迷いながら進み、再び現れた雪渓を進むと、目の前に大きなテレビ中継のアンテナが現れた。ここから、西へ少し進んだところが三川山の山頂であった。
山頂は、スギの木立が丸く開かれ、二基のテレビ放送局のアンテナが立っていた。アンテナの間の裸地には、いくつかの登頂プレートが残され、その奥に三角点の標石が埋まっていた。
殺風景な山頂で、アンテナ施設のコンクリート階段に座って、私はここまでの森の風景を反芻していた。
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| ハウチワカエデの花 |
ブナの樹冠を見上げる |
山行日:2005年5月3日